Ask John
DVDの登場で米国のANIME市場はどう変わったのでしょうか
How Has the Anime Market Changed Since the Introduction of DVD?
2004年11月2日

質問:

今ではたくさんのANIMEが字幕・吹き替えそろってDVD一枚で手に入れられますが、VHSカセットやレーザーディスクの頃にはどういう作品が字幕で出ていたのでしょうか。ANIME信者からみてDVDの出現によってANIME市場は良くなったと言えるでしょうか。
回答:

私もVHS全盛の頃をよく憶えているANIME好きのひとりなのですが、DVDの出現の前と後とで様子がはっきりと変わったと言い切ってしまうことには正直躊躇してしまいます。


VHSカセットの時代よりここ米国ではANIME商品は多彩かつ多様さを深めてきたわけですし、市場の拡大とともにANIMEを立派な文化・芸術として受け入れ称える動きがここ数年である程度まで進んだことも本当なのですが、こうした変化は基本的に米国におけるANIME趣味の成熟化に伴うものであって、DVD技術の登場が直接的に影響したものとは思えないでいます。


米国でも以前より女の子向け作品やスポ根ものが発売されるようになってきています。発売作品の数じたいが増えているのです。しかし、これはこの国におけるANIMEへの需要の増大それに市場全体の拡大ぶりを受けてのものであって、それに、米国に持ちこまれる作品ジャンルが広がってきているのも、要は少年向けアクション・冒険ものの米国への持込みが激しくなった結果、このジャンルのもののみでは数が足りなくなってしまったゆえです(訳註1)


VHSカセットの時代を知らない新規のANIMEファンたちのために説明しておくと、VHS時代と今のDVD時代とで米国ANIME産業はそれほど劇的に変わったというわけではありません。大きくはなっているかもしれませんが、それほど変わったというわけでもないのです。


いまDVDで発売されている作品の多くはVHSでも既に発売されていたものであり、VHSそれにレーザーディスク時代だと字幕と吹き替え版とは普通別々に売られていました(訳註2)。名作それに有名作品のかなりは、そのうちのいくつかはまだDVD化されていなくても実は過去にVHSで発売されていたものです。『となりのトトロ』『カウボーイ・ビバップ』『機動戦士ガンダム』のシリーズの一部、『ジャイアント・ロボ』『超時空要塞マクロス』『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』『天空のエスカフローネ』『AKIRA』『火垂るの墓』『らんま1/2』『ドラゴンボール』等など(訳註3)


逆にVHS時代には出回っていたもののDVDでは未だ発売されていないものもかなりあって、劇場版『マクロス』『ファンタジア』『テンリトルガルフォース』『スクランブルウォーズ』『カラス天狗カブト』『強殖装甲ガイバー』『アイ・シティ』『幻夢戦記レダ』『トップをねらえ!』『CLAMP学園探偵団』『エイウォール AWOL』『ロボットカーニバル』等、たくさんあります。


ここ米国で発売されるANIMEが多彩に渡るにつれてANIMEはその存在感を(多少は)大きくしてきてはいます。VHSの普及とANIMEの米国進出は時期的にもパラレルで、この頃にあのストリームライン・ピクチャーズ社が数々の悲惨な英語版を手がけています(訳註4)。それに続いてUSレンディション社が怪しげな英語版を国市場に送っています。これはストリームライン社のように意図的なものというよりはミスもしくは制作スタッフの無能さ故のようです。


ANIME市場それに業者の活動ぶりがそれなりのものになるにつれて、ファンも以前より物知りになって需要も増え、業者のいくつかもそうした声に答えてくれるようになりました。アニメイゴ社は以前より翻訳については非常に誠実な業者ですし、ファニメーション社やシンク・ポイント社は字幕版に制作にあたって「さん」や「さま」といった日本語独自の敬称を削らずローマ字で表記するようにした最初の業者でした。ジェネオン社はDVD時代に入って日本語オリジナル版に忠実な英語版を用意するよう以前より気を配ってくれるようになった会社です。


しかしその一方でトウキョウポップ社やヴィズ社、ADヴィジョン社はこれまでも作品の芸術的・文化的な面を蔑ろにしてきた業者で、作品を米国人向けに改変してしまう方針を長きに渡ってあまり改めないできたところでもあります。


私の見立てでは、米国ANIME市場の拡大・多様化それに洗練ぶりはDVD普及の影響というよりはANIME市場そのものの成熟によるもののようです。DVDの登場によって字幕と吹き替えを同時に収められるようになっただけでなく、編集版とオリジナル無編集版を同時収録できるようにもなったのですが、ANIMEファンにとっては革新的と呼べるほどの出来事ではなかったようです。DVD出現以前にも二ヶ国語対応のものはありましたし、今でもあるわけです。


ANIME商品の多様化というのもVHS時代よりそうでしたし、作品を米国人向けにいじりなおしてしまうことの是非についてもVHS普及期よりANIMEファンのあいだで問われ続けてきたことでした。もっとも、作品改変に対するファンたちの懸念ぶりは今なおANIME業者たちにとっては無視し得ない声ではあるものの、私が期待しているほど真剣には受け取ってもらえないでいるようです。


DVDの登場は結局のところ新手のメディアという以上のものではなかったようで、つまりはANIME産業にとって変革をもたらすのはテクノロジーではなくファンたちの反応なのです。仮にDVDというものが発明されていなかったとしても、それでも現在のようにANIME商品についてはさまざまな品揃いがなされ、そして業者もまたANIMEの扱いについてオリジナルをあまり尊重しない今のような姿勢のままであっただろうと考えられます。


ANIME市場それにファン層がここまで育ち成熟してきたのは長年に渡る歩みの末にあるものであって、DVDの登場によって一気にブレイクスルーしたものではないと私は考えています。



訳註1 女の子向け作品が米国でも急速に伸びているようですが

訳註2 「字幕版のほうが高いのはどうしてですか」参照

訳註3 ANIME北米輸出の商品リストについては訳者のつぶやきコーナーで順次公開の予定

訳註4 「原型をとどめないほどにずたずたにされたものが’80年代には平然と放映・発売されていたそうですが」「ANIMEの米国進出はどのように始まったのですか」「'80年代に米国で放映されていた『マクロス』は偽物だったというのは本当ですか」参照

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