Ask John
『最終兵器彼女』ってどういう作品ですか
What is SaiKano?
2002年10月8日
質問:
『サイカノ』というシリーズがあると聞きましたが、これはどういう話で、ビデオかそれともTVなのか、それから漫画版はあるのですか。
回答:
最終回を観るまでは分析も評もなるべく控えるようにするのが私の主義ですが、この作品については問い合わせがたくさん寄せられているようなので、今回はあえて解説しましょう。
GONZO制作による『サイカノ』こと『最終兵器彼女』は同題の漫画が原作で、’99年12月よりビッグコミックスピリッツ誌で連載され、’01年10月に完結しています。高橋しんによるこの漫画は単行本にして全7巻です。
これのANIME版を手がけているGONZOデジメーション社は『青の6号』『ヘルシング』『ヴァンドレッド』で知られる工房で、’02年7月2日より9月24日にかけて全13話が放映されています。2002年10月現在、コナミ社がこれをPS2用の恋愛シミュレーション・ゲームに移植する予定だそうです。
『最終兵器彼女』は、それまでGONZOが手がけてきたものとは劇的に異なるものになりました。アクションではなく日常芝居に重きをおいた、そのうえ恋愛ものというのはこれが始めてだったそうです。
それまでGONZOが得意としてきた明るい色あいと大きい目という絵柄をすっぱり捨てて、原作漫画の微妙かつ水彩画ふうの絵柄をANIME版に持ち込むことにしたそうです。GONZOはそれまで少年漫画ならではのアクションを売り物にしてきたのですが、『最終兵器彼女』では痛ましくも胸を打つ恋愛模様が描かれます。
シュウジとちせという高校生が主人公です。原作者・高橋しんがインタビューで語っていましたが、登場人物たちに苗字をつけなかったのは、今時の普通のティーンの典型として読者に馴染みやすいものにしたかったからだそうです。
この恥ずかしがり屋で不器用なふたりに、極限状態がのしかかってきます。謎の敵に攻撃された日本は戦争状態に突入してしまうのです。空爆によってシュウジの友人が死に、恋人となった小柄で引っ込み思案ですべてに不器用な少女・ちせも実は日本が開発した超兵器であったことが分かります。
危機が迫ると(大抵それはちせにとっては非常に都合の悪いときですが)、ちせの体は変身して大量破壊を可能にする生物兵器を繰り出します。ちせ自身にはコントロールはできないのです。戦争が激化していくにつれて、彼女には自分の破壊能力を抑えられなくなり、その人間性も次第に変質していきます。
『最終兵器彼女』の魅力は誠実かつ情緒的でありながらお涙頂戴にならない、そのたぐい稀な物語性にあります。誰もが素のままに感情を表し、それに常に怖れ、ためらいます。それゆえに台詞のひとつひとつ、それに時の一瞬一瞬がとても重いのです。
そこには軽さや笑いが入り込む余地など、まずありません。シュウジとちせ、それにその友人たちは、いつ世界が消えてしまうかもしれぬ日々を、奥ゆかしくも慎ましい日本人ならではの礼節さを決して捨てることなく生きていきます。
その振る舞い、想い、感情表現すべてが純粋かつ痛切で、私たち視聴者は感情移入していきます。ちせに関わることへの恐怖、その超人的能力、年頃の男の子ならではの葛藤、それに、迷い戸惑いながらも彼女に惹かれていく自分自身にシュウジは困惑します。ちせに惹かれるというその気持ちはつまり、恋人、パートナーそれに保護者の役を彼は兼ねているということです。
自制の力を無くしていくちせは、自分が次第に人格も自己意思も人間性も失って、どんどん機械に近づきつつあることに慄然とします。そして、自分が今までのような良い子でいられなくなっていることに悩みます。
親にも友達にも良い子とみなされ、又はそう見てもらえる様に振舞ってきたちせも、殺戮と破壊を余儀なくされていくうちに、自分で自分の行動や思考を自制することができなくなくなります。こんな自分はいったい何者なのか。ちせは虚しく自問します。
シュウジとちせは必死に互いをかばいあいますが、その実、深層のレヴェルではわが身可愛さでいっぱいであることが生々しくも悲劇的に描かれます。戦争はふたりの結びつきを強くする反面、ふたりを引き裂いてもいきます。
お互いへの愛はふたりの絆を強める一方で、いっしょにいることへの恐怖にもかられます。お互いに対してひたすら正直かつ真っ直ぐであろうとする純粋かつひたむきな想いと感情。そんなふたりの関係に私たち視聴者の胸は痛切に締め付けられます。
『最終兵器彼女』では主役のふたりだけでなく、名前もつけられていないような脇役たちに至るまでがその人ならではの人格を持っていて印象に残ります。私たち視聴者は画面上のキャラクターたちに感情移入し、その行く末を祈らずにはいられなくなります。
各キャラの胸の痛みや苦しみはそのまま視聴者のものであり、彼らの幸せを、希望のない状況のなかでも幸せになってほしい、と。しかし、その運命は悲劇に向かっていきます。『火垂るの墓』や『今そこにある僕』等の、戦争が主題になる名作たちや、『ふしぎ遊戯』のように優れた物語性をもつ恋愛悲劇ものの両方の要素をそなえた『最終兵器彼女』は長く記憶に留まるであろう感動作であると思います。
描き込みをあえて減らしたキャラクター・デザインと、輪郭を曖昧にした背景画の組み合わせは、一見すると地味であまり面白くなさそうですが、これは物語それに登場人物たちの想いに焦点をあわせるために意図的に淡い画調が採用されています。
一度この物語に惹き込まれたら最後、この衒いのない絵柄ゆえにもう感情移入せずにはいられません。いろいろな意味で『最終兵器彼女』は観るのがつらい作品です。破滅と死を前にして、愛と希望が次第に消えていくその様に、私たち視聴者はひたすら感情を揺さぶられ、胸を締め付けられるしかないのですから。
しかし、これこそがこの作品の魅力であり、歴代の名作たちに引けを取らないアニメーションになっているのだと考えています。
訳註: 北米ではANIME版の第1巻は2004年4月27日に発売開始。MANGA原作も6月より順次刊行予定。ともにヴィズ社より。
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