回答:
ここ米国におけるANIMEのビデオ・DVDの総売り上げはというと既に日本での数字に負けない程度の利益をあげるところにまで達しています(訳註1)。
しかし、日本の人口約1億2500万人にたいして米国は2億9400万人であり、そのうえでほぼ同じ程度の売上げなのです。カリフォルニア州とどっこいの広さの国が、あわせて50州ある米国と同じだけANIMEのDVDにお金を費やしているということになります。売上規模がほぼ互角とはいっても、ANIMEがどれだけ広い層に受け入れられているとなると日米ではまるで事情が異なるのです。
ANIMEの市場が今後どうなっていくのかは誰にも分かりません。しかし、ANIMEファンのはしくれとして言うならば、日本製アニメーションが日本と同じように米国でも受け入れられ、利益を伸ばしアートとして認められるようになるのかというと、非常に疑問に思います。太平洋を挟んでは大きな文化上の壁があって、2Dアニメーションが米国ですんなりと受け入れられるとは思えないのです。
ANIMEは日本独自の様式美に基づいて現れたものであり、それはつまり1000年も前にまで遡る宗教や伝説といったものに関わってきます。一方で米国文化はというと200年少々の歴史しかなくて、この国独自に発達したという視覚芸術を持たないのです。
ゴシックやモダン・アブストラクト(現代抽象)といった分野は米国発祥とはいえ、これはメジャーにはならず限定的な広がりに終わっています。浮世絵は国際的にも日本の代表文化とみなされていますが、これとは異なり米国の視覚芸術は人気だった時期、様式、それに支持されている地域はともに限定的なものなのです。
コミックは米国発祥と呼んでさしつかえないと思います。というのも、コマが連続して話を綴っていくという形式が米国発祥ではないとしても、ひとめで分かるようなスーパーヒーローものはここ米国で生まれたものと世界で認められているのですから。
もっとも、コミック発のスーパーヒーローたちは米国人にとって馴染み深いものになっているとはいえ、コミックそのものはというとそうではないようです。米国においてコミックはひとつの文化として商業的にも受け入れられてはいるものの、おとなの観賞に耐えうる文学的なものとみなされているとはとうてい言えません。文学の域にまで達したコミックもいくつかあるとはいうものの、けっしてメジャー人気とはいえません。
ここ60年間、教育機関やコミックの自主検閲(訳註2)、それに子ども向けに徹したディズニー社の方針の影響で、視覚による大衆向け娯楽が高度な芸術分野にまでなりうるという考え方はここ米国ではナンセンスとされてきました。『シュレック2』のような全編デジタル・アニメーションの映画が記録的大当たりをとっている今日でさえ、こういった作品はまず子連れのご家族向けに作られたものであり、そのうえ3Dアニメーションでなければもう時代遅れだとまで思い込むに至っています。
日本は絵画による娯楽というものを何百年かけて育て認知してきた国です。米国ではこういう文化は必要ではあっても恥ずべきものとしてきました。漫画文化はアートとは呼べない使い捨てのきく二級品としかみなされてきませんでしたが、『トトロ』や『アトム』、『ハローキティ』や『ポケモン』といったANIME商品は現代日本を反映する文化となっています。
日本ではアニメーションそれにコミックは古代にまで遡る画象芸術を引き継いだものとして受け入れているのですが、米国はというとまるで反対なのです。米アニメーションはむしろ2Dより3Dに急速に移行しつつあるのです。もっともどういうわけか米国のANIMEファンたちの一部はANIMEをむしろ自分達だけのものにしようとしている動きがみられるようです。以前よりもずっと多くの若い人たちが日本文化それに日本語に関心を持ってくれている一方で、作品中の日本的要素が米国向けにそぎ落とされた吹き替え版でないと観ないという人が大勢います。
さらに、ANIMEならなんでもいいというファンの声が高まった結果現れたのが『G.I.ジョー』や『ハイランダー』といった、制作は日本とはいえ厳密にはANIMEとは分類しがたいような日米合作の作品の増加でした(どうしてこれらが日本製でありながらANIMEと呼べないのかは本題に外れるのでここでは深く追求しません。ただ、簡略にいうならばダイヤモンドとジルコニウム鉱石は似て非なるものというところでしょうか)。
日本製アニメーションがどれだけここ米国でもメジャーになるかは正直分かりません。それに、ANIMEも含めた日本発の現代アートがどこまでこの国で市場を広げ受け入れられていくのか、それも予想しかねます。ただ個人的には日本のアニメーションそれに漫画が日本と同様に米国でもアートとして認められ文化として根付いていくとは思えないでいます。
ANIMEやMANGAが日本では既に高度な芸術として称えられているとまで言い張る気はないものの、少なくとも無くてはならない文化とされてはいると考えています。ただ、米国社会が日本製アニメーションが子ども文化発のB級なカルトという以上のものとして受け入れられるようになるとは思えないのです。
でも、どっちつかずな態度で恐縮なのですが、『ティーン・タイタンズ』のようにANIMEの影響が濃厚な作品も既にいくつかあるわけで、ANIMEを含め日本発の現代アートが米国でも受け入れられ、いつかはひとつの立派な芸術分野として認知されるときがこないとも言えないのです。ただ、ANIMEというものが日本の伝統的なアート様式を今に引き継ぐ文化であるとなると、それを米国向けに再構成したようなものはもはやANIMEとは呼べないのです。
訳註1 これは嘘ではなく、米国でのANIMEのDVD売上は500億円を超える一方で日本国内でのアニメーション作品(非国産含め)のビデオ・DVD売上は700億円強
訳註2 コミックス・コード局のこと。赤狩り旋風まっただなかであった'54年、コミックの法規制が検討され、それを避けるべく業界は自主規制を始めた。詳細はここに詳しいが、要するにこの厳しい規制によってアメコミはスーパーマンやバットマンなどの超人もの以外は絶滅という有様になった |