回答:
『月詠 Moon Phase』について語るにあたっては「ロリ」(ロリコンの省略形で、ロリータ・コンプレックスが語源)という言葉を使うとニュアンスが変わってしまうので私としてはあまり使う気がおきません。『月詠』はロリコンの典型ではありますが、実際には性的な匂いはあまりこの番組には感じられません。「ロリ」は形容詞として穏やかならざるので、正確なニュアンスを伝えるためにもここでは別の用語を使うとして、『月詠』の場合はむしろ「ゴシック・ロリータ」がぴったりくるように思います。
『月詠』は、少なくとも前半13話までに絞るに、葉月とエルフリーデという二人の女性が前に出てきます。どちらも年齢ははっきりしないのですが、葉月のほうは見るからに甘やかされた上流階級の娘で、その性格だけでなく容姿もまた非常に魅力的です。アメリカン・ヘリテイジ・ディクショナリィに当たるに「Lolita」は「誘惑する思春期の少女」だそうですが(訳注)、この定義でいけば葉月はロリータであり、とりわけ若い男性には魅力的に思えるものになるよう設定されたANIMEヒロインです。エルフリーデのほうはあまりロリータの匂いはしないものの、そこに感じられるエロスは葉月のものと同じであり、つまり葉月と同じく若い男子視聴者を手玉に取るように設定された人物なのです。
葉月とエルフリーデの魅力はその独特の衣装によって補強されています。エルフリーデは胸元の露わなローカットのトップスをよく身に着けています。独特の眼鏡をかけているところがまたある種の男子ANIMEファンにはたまらないようです。葉月は猫耳のときは優雅なドレス姿ですが、そうでないときはユーモラスでかわいらしい格好をしています。露骨にセクシャルではないにせよ、『月詠』はロリータ系列であることは否定できないと思います。
ゴシックという単語はもともと中世建築、とりわけ城とか凝った積石構造物を語る際の形容詞ですが、それに加えて鬱蒼として謎めいた雰囲気を称える言葉でもあります。『月詠』は実際にも比喩的にもゴシックな空気がします。劇中にはおどろおどろしい城とか、インテリくさい凝った装飾の服、そこここに影さす闇の雰囲気でいっぱいです。葉月とエルフリーデがともに吸血鬼であるという設定にもゴシックの匂いがします。鬱蒼として謎めいた存在といえば吸血鬼であり、それをしのぐものとなるとなかなか思いつきません。
2005年3月現在、ゴシック・ロリータもののANIMEは日本ではみっつ放映されています。『コゼットの肖像』『月詠』『ローゼンメイデン』(さらに『魔法少女隊アルス』を入れればよっつになるのですが、これの登場人物たちはセクシャルに媚びたものではないので除外)がそうで、これらのゴスロリ三人組のうち今のところ『月詠』がもっと優れたものであると思います(『コゼット』と『ローゼン』については最終回まで、『月詠』は半分まで視聴しております)。
『コゼット』は設定からしてゴシック・ロリータ系ですが、物語も登場人物もろくに変化していかないことには不満を感じます。『ローゼンメイデン』はぱっと見もよくて、比較的地味な事件が綴られるところが特徴ですが、それゆえにかえって本来狙えるはずの高みまでは達せられないでいるように思えます。
『月詠』も完璧ではなくて、登場人物たちが垣間見せる人格成長ぶりにはあまり深みも一貫性も感じられません。でも、今放映中のゴシック・ロリータもののなかで最も完成度と満足度が高いものといえば『月詠』だと思います。性格描写とその絡みぶりを舞台劇的に追っていく『コゼット』や『ローゼン』に比べて『月詠』は物語に幅があるのでよりドラマチックです。
さらに、『月詠』からはアニメーターたちの念入りな仕事ぶりがうかがえてきます。画面も見るからに美しく、それぞれの登場人物についてなされる細やかで魅力的な性格描きわけとか、オープニング・アニメーションが毎回微妙に(ときには丸ごと)変わったり、番組全体の洗練された雰囲気それに絶妙に合った主題歌「Neko
Mimi Mode」(このフレーズ自体が日本では新たなファン用語として受け入れられました)。これらはささやかながらも素晴らしい“ファンサーヴィス”でした。
要するに『月詠』はゴシック・ロリータANIMEであるということです。そしてこの「ゴシック・ロリータ」という形容詞にはどうしても性をめぐる風刺的なニュアンスが含まれるとはいえ、決して軽蔑語ではありません。
この番組は日本のANIMEファンの間では非常に人気があるのですが、英語圏ではというとあまりファンはついていません。奇妙なことだと思う反面、そういうものかもしれないという思いも私にはあります。
『月詠』は知らないひとにはホラーっぽく見えるし、『吸血鬼ハンターD』や『ヘルシング』のようなホラー作品がここ米国のANIMEファンにはすさまじく人気があることからも、独特の雰囲気をもつゴシックANIMEであるこの作品も米国では興味を持たれるのでは、と思っていました。
しかしながら『月詠』はかわいい系の作品でもあり、わずかな例外を除いて米国ANIMEファンそれに市場にはいわゆる「萌え」作品への嗜好が非常に薄く、私としては失望させられます。これでは『月詠』のような好作品が日本の外ではあまり知られることもきちんと観られることもなく終わってしまいます。
訳注 ウラジミール・ナボコフが’55年に世に送った小説『ロリータ』(のヒロインの名前)が由来。ローティーンの少女ロリータに異常なまでに萌える/燃える中年男性ハンバートの一人称で綴られた物語で、'62年には英国でクーブリックによって映画化もされている('97年版ともどもイマイチ)。
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