第1部 国際法って何?


この部の目次

1.国際法ってどんなもの?
2.法源について
3.特別法は一般法に優る
4.国際法と国内法の関係
5.各国の対応
6.この部のまとめ


1.国際法ってどんなもの?
 国際法はどういう法律なのでしょうか。それとも本当に法律なのでしょうか。

・国際法って何?
 そもそも、国際法って何なんでしょう?
 一言でいえば、「国家間における交流のルール」となります。
 人間同士で付き合うにしても、一定のルール、お互い認識している常識が必要です。常識がバラバラだと、意味の無い争いが起き易くなります。
 例えば食べ物の常識の違いをみてもわかります。九州は豚骨ラーメンが主流ですが、以前イスラム教徒の方が知らずに食べて大騒ぎになった事があります。
 そこで国際法が国家間に誕生しました。しかし、この国際法は一般の法律、憲法とは違った性質があります。その違いを比べてみましょう。

・法の定立
 一般の法律は、立法機関(日本では衆・参議院)が法律を作り、一旦成立すれば反対していても法に従わなくてはなりません。
 国際法はそのような立法機関がないので、国家間の条約によって成立します。また、古くからの「しきたり」である、慣習国際法(一般国際法)というものもあります。そして、国家間で結ばれた条約国際法については、その条約に反対の国(条約に加盟していない国)は従わなくても良いのです。
 今の所全ての国が賛成している条約は無いので、慣習法としての国際法しかありません。
 とはいえ国連加盟国が批准している『国連憲章』を守らなくて良い国は、未加盟国のバチカン市国や台湾(中華民国)くらいしかないので、これはほぼ一般国際法と考えられると思います。

・法の適用
 日本では法を適用し、合法・違法判断をしているのは裁判所です。また裁判所の決定は、強制力を持っています。
 国際法では、この裁判所にあたる機関がありません。国連の国際司法裁判所はありますが、強制的管轄権がありません。当事国が同意しなければ裁判はできないのです。

・法の執行
 これは法の強制力の事です。国内では強制力として警察の存在があります。法を犯せば逮捕されるのです。
 国際法には、警察に当る強制力がありません。国連主体の多国籍軍がそれに近い事を行っていますが、制限がありますし、全ての国際法違反に対応しているわけでもありません。
 また本当の意味での国連軍は、現在のところ組織されていません。

 この様に、国際法は一般の法律と違って強制力がありません。そのため、国際法は法律ではないと唱える学者も数多くいます。その理由として、国際法は大国によってしばしば無視され、違法状態が放置されるからといいます。
 しかし、それでも国際法が叫ばれているのは、これが国際間の行動規定になっているからです。
 この規定がないと、人は(国は)安心して暮していけません。
 警察官は拳銃を持って街中を移動していますが、普通の人は警官を見て撃たれると思ったりしません。何故なら、警官は銃の発砲について厳しい規定を持っているからです。
 同様に国家も国際法という規定の中で動いてこそ、他国に信頼されるのです。というより、自分勝手な行動をとる国が信用されるはずがありません。
 大国といえども、国際的な非難の目から逃れる事はできないのです。


2.法源について
 次に法源と国際法の種類について書いてみようと思います。

・法源について
 法源といったら難しいですが、簡単にいえば法が有効になる根拠、というところでしょうか。法というものが何なのか、という問いを突き詰めた時、最終的に出てくる法の原因の事ですね。
 国際法の場合、法源は二つあって、一つは国家間の暗黙の了解になっている「慣習法」、もう一つは国家間にて承認・合意を得た「条約」です。
 条約の他にも憲章、規程、協約、取極など、種類は沢山ありますが、国家間で明示的にはっきりと決めた約束でしたら、条約になります。
 ここで決められた法は、当然国際裁判の基準になります。その国際裁判の基準はどのようになっているのでしょうか。

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 国際司法裁判所規程
 第三十八条 裁判の基準
   1 裁判所は次のように決められた国際法を適用する。
     a 国同士が決めた条約
     b 国際慣習法
     c 国が認めた法の一般原則
     d 国際法学者の学説(補助的役割)。但し第59条の規定に従うこと
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 ご覧の通り、(a)が条約、(b)が慣習法になります。(c)は各国家の法律に一般的に含まれている原則を指しますが、条約に比べてランク下の準則として考えられているようです。一般的な法の考え方はそれとして、特別に決めた条約の方が優先するという事ですね。(d)の判例・学説は、法則決定の補助的役割を担います。ちなみに第59条とは、裁判はその事件のみを扱え、というものです。
 これらが国際法に認められた原則(法源)となります。

・慣習国際法とは
 慣習国際法とは、各国間に法文や条文があるわけではないのですが、国家間に広く通じるルールの事を指します。国際的常識といったところでしょうか。
 慣習国際法が成立するには、ある一定の事態が発生した時、関係国家が必ず同一の行為をする事と、それが義務的であるとの考え方を持つ必要があります。
 そしてその考え方(法的信念)が世界中の国家に行き渡る必要があります。
 しかし多くの場合、大国を含む大多数の国家がその国際法を承認していれば、残りの国家が積極的に反対しない限り合意しているとされています。


3.特別法は一般法に優る
・国際法の種類
 国際法は大きく特別国際法と一般国際法にわけられます。
 特別国際法とは、二国間、又は多国間のみで決められた条約を指します。その条約に参加していない国には、この国際法は意味をなしません。上記にある国際司法裁判所規程の(a)の事になります。
 日本に関係のある、よく聞く特別国際法としては、『日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(日米安全保障条約)』があります。
 一般国際法とは全世界に有効な国際法です。といっても、全世界が承認した条約は今の所ないので、全て慣習国際法になります。
 但し『国際連合憲章』の第二十五条では、国連安保理の決定に従うようになっています。反対していても駄目です。従って安保理の決定事項は、一般国際法と考えても間違えはないでしょう。最終手段として国連脱退という手がありますけどね。

 ところで法律の一般理論として「特別法は一般法に優る」というものがあります。国際法でも、特別国際法が優先されます。
 例えば沿岸から200カイリ内の排他的経済水域では、基本的に他国の漁船は漁ができません。これが一般国際法です。そこである国と条約を結び、ある一定量の漁を許可しました。特別国際法を結んだのですね。
 しかし、一般国際法の中にも最優先されるべき条約、例えば侵略戦争の禁止、人権問題、国際犯罪の防止等が含まれています。これらを特別国際法として勝手に許可などされては、何の為の国際法かわかりません。そこで、これらは特別法によって否定できないとされています。


4.国際法と国内法の関係
 次に国際法と国内法の関係を考えてみたいと思います。

 まず日本では、国際法や法律はどう考えているのでしょうか?

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 日本国憲法
  第九十八条 最高法規、国際法の遵守
   1 日本国憲法は国内最高の法律であり、憲法に反するあらゆる法律や
     命令は効力を持たない。
   2 国が結んだ条約や昔からある国際法規は、これを誠実に遵守するべ
     き。
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 日本国憲法では第98条1項において、憲法はあらゆる法律よりも上位にあると明確に記載されています。
 ところが条約を含む国際法は、遵守するとだけ書いてあって優先順位は明確になっていません。
 他の国でも自由裁量、つまり憲法体制によってまちまちだったりします。
 では、一般的にはどう考えられているのでしょうか?

国内法優位説 国内法>国際法
 国内法も国際法も、国家の意思によって決められます。また条約も国内法によって締結権が与えられています。
 従って国内法が優位にたっている、という説です。
 しかしこの場合、革命などによって国家体制が変わって国内法が変更になれば、国際法にも影響を与える事になります。
 また、国内法が国際法に優るとすれば、国家によって国際法が変わったりする事も考えられます。
 国際法は国際間の統一された法律、という事になっているのに、国内法優位説だと国家毎に国際法が違ってしまうのです。
 そのため、現在ではこの説はほとんど支持されていません。

法の二元論説 国内法:国際法
 これは国際法と国内法は全く別物だ、という説です。
 つまり国内法は国対国民、或いは国民対国民の法であり、国際法は国対国の法であるという考え方です。
 こう考えれば国内法と国際法は別個の独立法であり、お互い干渉しないという事になります。
 しかし、最近の人権条約や通商条約など、全世界の国民に対してや、国際社会対一商社みたいに国内法に関る国際法も存在します。そのため国内法が国際法に違反している場合もありえます。
 また後述しますが、『日米安保条約』を扱った「砂川事件」のように、お互いが干渉しあう場合もあります。
 従って、この説では説明できない部分があるのです。

国際法優位説 国内法<国際法
 というわけで、やはり国際法が優先された方が妥当ではないか、と考えられるようになりました。ところが、これでも問題があると言われています。
 例えば、国際法の要求する国内法が無い場合、立法機関の承認を得ずに国際法をそのまま使っていいのか、とか、国内法が国際法と食い違っていた場合、その国内法を無効だとしていいのか、などです。
 また殆ど全ての国では、国内最高法である憲法よりも国際法が上位であると明言されていません。国際法が下位か、同位であるくらいです。
 この辺りは、どうしても問題が発生してしまうのでしょう。

法の新二元論説 国内法=国際法
 更に考えを進めますと、国際法と国内法は基本的に同位ではないか、という説が出てきました。
 これによると、国際問題では国際法が優先され、国内では国内法が優先となります。お互い関連があるのにも関らず、どちらが優先なのかはっきりしないので、法の等位論とも呼ばれています。
 何だか曖昧な感じですね。それだけ世界が国際的になり、複雑になっている証拠なのでしょう。


5.各国の対応
 では、国際法が優位とした場合、どういう対応をとっているのか。
 まず、国際法を遵守しない(条約に賛成しない)という選択肢があります。これは簡単ですね。
 国際法を遵守する場合は、国際法に合わせて法律を作りかえる方法(変型)と、国際法をそのまま利用しよう(受容)という考え方に分けられます。
 だいたいの国は、どちらかを採用しているようですね。

 各諸国の内情をみてみれば、アメリカ・ドイツ・フランス他多くの国では受容を採用しています。またイギリスほか若干の国は慣習国際法は受容を認めていますが、条約については否定しています。

 では、世界の主要国にとって国際法は、どんな位置にあるのでしょうか?

 アメリカはアメリカ合衆国憲法の第六条の2にて、条約は最高法規と同じとなっています。しかし、最高法である連邦憲法との関係ははっきりしていません。が、憲法と同じという事は、国際法と憲法は同等の地位にあると考えてよさそうです。

 イギリスでは議会の制定法が国際法に優る、となっているようです。この条文を探したのですが、見つかりません。イギリスには単一の憲法がなく、古くは1215年のマグナ・カルタからあるものだから…(探すの大変)。

 中国はどうなのか、よくわかりません。ただ中華人民共和国憲法を読んでみた限りでは、憲法が最高法規としているので、憲法優先のような気がします。

 ドイツはドイツ連邦共和国基本法第二十五条にて、国際法は連邦法の構成部分であると記されています。連邦法と国際法は同等の地位にある、という事だと思います。

 フランスではフランス共和国憲法第五十四条にて、憲法違反の条約は、憲法改正をしない限り無効となっています。また、第五十五条では条約と法律が矛盾する場合は、条約が優先と規定しています。憲法>条約>法律という事ですね。

 ロシアではロシア連邦憲法第十五条の4にて国際法は法体系に組み込まれ、法律より国際法が優先されるとしています。フランスと同じ考えのようです。

 これで主要国はクリアしたかな?もう一つ、お隣の国、韓国ではどうなのでしょう。

 韓国では、大韓民国憲法第六条の1によると、憲法に基づいて制定した条約は法律と同等の効力を持っている、となっています。憲法>条約=法律のようです。

 こうしてみると、憲法(国内法)の方が国際法より優位になっているようですね。
 しかし、これらの国でも出来る限り条約に一致するよう、国内法を解釈したりして、国際法を憲法より優位にさせたに等しい取り扱いをしているといいます。

 では、我が国日本ではどうなんでしょうか?
 基本的に日本の姿勢は「受容」になっています。国内法が無い時は、国際法を採用しているという事です。
 また、立法機関である国会が条約を承認することから、条約は法律に優る、というのが通説になっています。
 ところが憲法については意見が分かれているようです。
 そこで、こんな判例があるので引用してみます。

 1957年、在米軍が使用している立川基地の拡張問題をめぐって、反対派が基地内に侵入しました。今よりももっと過激だった時代のことです。この反対派は逮捕され、『日米安全保障条約』違反で起訴されました。
 しかしこの裁判にて、日米安全保障条約によって、米軍が日本に駐留するのは憲法9条に違反しているのではないか、との問題が発生しました。世間では「砂川事件」と呼ばれるものです。
 東京地裁は日米安保は憲法違反だとしましたが、最高裁判決は判断を回避するという意味で合憲でした。「高度の政治性を有するものについては、一見明白に違憲無効と認められない限り、司法審査の対象とならない」という判決です。
 高度の政治性……そこはかとなく危険な香りがしますが、とにもかくにも、この判例から考えるに、憲法と国際法は同等の地位(或いは憲法がやや上か)にある、と言えるのではないかと思います。


6.この部のまとめ
・国際法の法源は国同士が決めた「条約」と法文化されてない「慣習」がある。
・慣習国際法とは、国際的な一般常識になっている国際法である。
・全ての国家が締約した国際法を、一般国際法というが、未だ全国家が承認した法はない。
・特別国際法とは、ある国同士だけが結んだ国際法である。
・一般(慣習)国際法より、特別国際法が優先される。但し、戦争や人権問題など、優先されないものもある。
・世界的にみて、国際法は各国憲法と同じ程度の地位になっている。
・日本では法律よりも優先するのが通説だが、憲法との関係は曖昧。


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