
兵法は戦術、いわゆる戦い方の術だけでなく、戦略や政略といった政治・外交まで幅広く使える技です。
正直に真正面からぶつかるだけでは、平和を望むのは難しいものです。
また、正々堂々とぶつかるにしても、相手が打ってくる変化球を見極める事ができれば、更なる手がうてます。
この兵法は基本中の基本で、実際は複数の兵法を組み合わせたり、裏技を使ったりしてきます。しかし、まずは基本からですね。
目次
| 勝戦…こちらが有利な時の戦略 | 攻戦…うまく勝つ為の戦略 | 併戦…味方に対しての戦略 | |||
| 第一計 | 瞞天過海 | 第十三計 | 打草驚蛇 | 第二十五計 | 偸梁換柱 |
| 第二計 | 囲魏救趙 | 第十四計 | 借屍還魂 | 第二十六計 | 指桑罵槐 |
| 第三計 | 借刀殺人 | 第十五計 | 調虎離山 | 第二十七計 | 仮痴不癲 |
| 第四計 | 以逸待労 | 第十六計 | 欲檎姑縦 | 第二十八計 | 上屋抽梯 |
| 第五計 | 趁火打劫 | 第十七計 | 抛磚引玉 | 第二十九計 | 樹上開花 |
| 第六計 | 声東撃西 | 第十八計 | 擒賊擒王 | 第三十計 | 反客為主 |
| 敵戦…同じ力の敵に対する戦略 | 混戦…乱戦時の戦略 | 敗戦…負けている時の戦略 | |||
| 第七計 | 無中生有 | 第十九計 | 釜底薪抽 | 第三十一計 | 美人計 |
| 第八計 | 暗渡陳倉 | 第二十計 | 混水摸魚 | 第三十二計 | 空城計 |
| 第九計 | 隔岸観火 | 第二十一計 | 金蝉脱殻 | 第三十三計 | 反間計 |
| 第十計 | 笑裏蔵刀 | 第二十二計 | 関門捉賊 | 第三十四計 | 苦肉計 |
| 第十一計 | 李代桃僵 | 第二十三計 | 遠交近攻 | 第三十五計 | 連環計 |
| 第十二計 | 順手牽羊 | 第二十四計 | 仮道伐鯱 | 第三十六計 | 走為上 |
第一計 瞞天過海「天を瞞いて海を過る(てんをあざむいて、うみをわたる)」
昔、唐の皇帝太宗が、海を怖がって船に乗る事を拒んだ。
そこで張士貴という者が一計して、巨大な船に土を盛り、家を作ってここは陸地ですと騙して皇帝を招いた。
そして皇帝が安心している間に海を渡ったという。
はい、第一計から「騙し」の技です。
この計を一言でいえば、「巨大な嘘はばれ難い」という感じでしょうか。
普段見慣れている物は、気付かれにくいものです。当り前、常識と考えている事にこそ、嘘が隠されているものです。
ある出来事について関心を持った時、一度それについての常識を疑ってみるのも大切でしょう。
第二計 囲魏救趙「魏を囲んで趙を救う(ぎをかこんで ちょうをすくう)」
紀元前353年、古代中国の戦国時代にて。魏の国が趙の都である邯鄲を攻めた。
趙は同盟国である斉に救援を求めたが、斉は趙に行かず魏の都、大梁を攻めた。
驚いた魏は慌てて引き返し、これを迎え撃った斉に大敗してしまった。
基本的に同じ軍事力を持っていた場合、数の多い方が勝ちます。
数の少ない方が勝つなんて、異常なのです。こっちの数が少なければ、即ち負けるのです。
では、どうすれば勝てるのか。それは、相手が分散すればいいのです。
この例では、攻撃と防衛に分散した魏のうち、弱い方を攻めて大勝しました。
スポーツではないのですから、馬鹿正直に強い奴に立ち向かうのではなく、勝てる奴と戦う。
戦場の、ちょっぴり卑怯な極意です…。
第三計 借刀殺人「刀を借りて人を殺す(かたなをかりて、ひとをころす)」
孔子の弟子である子貢は、魯を攻めようとした斉の内部を乱して呉と戦うように仕向けた。
これにより、斉は魯を攻めるどころではなくなった。
相手の内情の矛盾を突き、混乱させ、自滅させる。
或いは敵の敵を利用して戦わせ、自分の戦力を消耗する事無く相手を弱らせる。
殺人、と書いてるから物騒に見えますが、要は相手の力を利用する事。戦わずに勝つ、という事ですね。
それは柔道の極意でもあります。
むしろ、敵にこの手を使われて、内乱で自滅する事のないよう気をつけねば…!
第四計 以逸待労「逸を以って労を待つ(いつをもって、ろうをまつ)」
後漢時代、反乱軍が陜西省の陳倉を攻めた。
しかし援軍の皇甫嵩は、陳倉は簡単に落ちる城ではないと判断し、反乱軍が疲れるのを待った。
やがて疲れて敗戦の色が濃くなった反乱軍は撤退を始めるが、その機を逃さず攻撃をして、反乱軍を壊滅させた。
戦う時、自分を楽な場所に置いて相手を疲れさせれば、それだけ有利になります。
こっちの戦力が少なくても、相手を疲労させれば勝機が見えてくるのです。
ビジネスでも、相手より先に来て準備をしておけば、より優位に立てるというものですね。
第五計 趁火打劫「火に趁んで劫を打く(ひにつけこんで、おしこみをはたらく)」
斉の国は韓と手を組んで燕を攻略しようとしたが、隣国の趙や楚に邪魔をされた。
しかしその時、韓が秦と魏に攻撃されてしまう。ところが同盟国の斉は救援に行かない。
韓が滅びれば、次は趙や楚に侵略の手が伸びるだろうと、2国が駆けつけ、5国の間で戦争になった。
その間に動かなかった斉は、ちゃっかり燕を攻略してしまった。
これは火事場泥棒の計です。相手の弱みにつけこんで、泥棒を働く。
この場合、中途半端に攻めると相手の弱点が消えて、逆に不利になります。
半端にしか手が出せないのなら、そのままにした方が相手は弱点を持ち続ける事になり、こちらが有利です。
世の中は過酷です。まずは火事を起こさないようにしなくては!
…とはいえ、相手が放火する事もしばしば…。
第六計 声東撃西「東に声んで西を撃つ(ひがしにさけんで、にしをうつ)」
漢の末期、朱雋が黄巾賊を包囲した時。
城の南西に土塁を築き、太鼓を叩いて攻めようとしました。
黄巾賊は全軍を挙げて南西に向かい、その隙をついて朱雋は東北から侵入しました。
フェイント、陽動作戦ですね。右を狙うと見せかけて左を撃つ。
攻撃すると見せかけてしない。
問題は敵が混乱しているかどうかです。混乱していなければ、攻めた方が痛い目にあいます。
逆に、こちらは敵の作戦に混乱する事無く、冷静に対処しなくてはなりません。
第七計 無中生有「無中に有を生ず(むちゅうに、ゆうをしょうず)」
後漢の時代、孫堅は劉表が治める江夏城を攻めた。
しかし城の守りが強かった為、矢を減らす計を仕掛けた。
夜陰、沢山の小船にかがり火をたかせ、毎夜毎夜、城に近づけたのだ。
江夏城の城主黄祖は、その度に火矢をあびせたが、7夜目にして誰も乗っていない事に気付く。
その次の日、やってきた小船を黙って見物していたら、その日こそ多数の兵が乗っていて、襲撃され城を落された。
あると見せかけてない、無いと思わせてある。虚々実々の駆け引きの計です。
虚構というものは、いつかはばれます。しかし虚構と思わせて実体を持たせれば敵の油断を引き出せます。
相手の行動がはったりなのか、実は本当なのか。油断は禁物です。
第八計 暗渡陳倉「暗かに陳倉に渡る(ひそかに、ちんそうにわたる)」
漢の名将、韓信は蜀の地より攻め出る時、壊れた桟道を修理する振りをして迂回し、
陳倉に進んで油断した敵の虚を衝いた。
戦術では、このような迂回作戦がよくとられます。
一般的に、真正面が一番強いものです。戦闘で、何も一番強い所にぶつかる必要はありません。
相手の虚を衝き、油断している場所を攻める。強さとは相対的なものです。
相手の弱点をつけば、それだけこちらの被害は少なくなります。
ただ、これを戦術で使うには、正攻法がある事と、迂回に気付かれない事が重要です。
真っ直ぐ来るだろうと思わせないと油断を引き出せませんし、
迂回を気付かれたら側面をつかれたり、ただ自軍が疲れるだけです。
第九計 隔岸観火「岸を隔てて火を観る(きしをへだてて、ひをみる)」
三国志の時代、袁尚らは曹操に敗れて遼東の公孫康の元に逃げ込みました。
しかし曹操は公孫康を攻めたら、袁尚と手を組んでしまうだろうと考え、逆に兵を引いてしまいました。
すると、元々袁尚を恐れていた公孫康は、彼らを切って曹操の元へ送り届けたのです。
相手に内紛がある時は、下手に手を出すと火傷をします。
対岸の火事は、見物しておくに限るのです。
これは第五計「趁火打劫」の逆でもあります。
手を出すべきか見学するべきか、リスクを考えるのです。
この計は、自国の内紛にも使えます。
対立する国内世論を統一し、或いは関心を他に逸らす為、強力且つ悪逆な、敵対する他国を作るのです。
この場合、敵が強力か、悪逆かどうかは問題ではありません。
自国民が敵は強力であり、こちらが正義だと思い込めば、それで良いのです。
他に敵がいる場合、仲間割れを起こしている場合ではなくなり、内紛は終息に向かいます。
第十計 笑裏蔵刀「笑裏に刀を蔵す(しょうりに、かたなをかくす)」
孫子は言う。
「敵の態度が謙虚でありながら兵を増強している時は、攻撃をするつもりである。
急に和平を言い出すのは、他に狙いがある。」
外交の場面では、表向きの顔と裏の顔(建前と本音)があります。
友人関係でも、心から許せる親友は少ないものです。
どんな詐欺師も笑顔で近付きますし、闇金融業者も貸す時はニッコリです。
相手の本音、真の狙いを見定める事が重要です。
第十一計 李代桃僵「李、桃に代わって僵る(すもも、ももにかわってたおる)」
昔、立派な桃の傍らに李が立っていた。
李は桃が受けるはずだった虫害を一身に受け、やがて桃の代わりに倒れてしまったという詩に基く。
戦争ともなれば、敵も必死に戦ってきます。こちらも犠牲無しに済む事ではありません。
時には非情になり、味方の犠牲をもって勝つ事もあるのです。
例えば島嶼防衛において、敵が優勢な場合、わざと島を占領させておいて(犠牲にして)補給路を絶ち、
飢えさせて降伏させる作戦が使われます。
第十二計 順手牽羊「手に順いて羊を牽く(てにしたがいて、ひつじをひく)」
羊飼いが羊を率いて、狭い道を進んでいました。
そこに旅人が通り過ぎ、羊の群れに一瞬隠れました。
そして姿を現した時には、その手に1匹の羊を牽いていました。
しかし、あまりに堂々としていたので、羊飼いは全く気が付きませんでした。
大軍が移動する時は、必ず隙ができます。
この計は大軍の僅かな隙を衝き、少しの勝利を手に入れる作戦です。
こちらの少しの利益は、敵の少しの損害なのです。
逆に、わざと隙を作って、敵を誘い出す計もあります。
第十三計 打草驚蛇「草を打って蛇を驚かす(くさをうって、へびをおどろかす)」
唐の時代、都に汚職役人がいました。
これを見かねた民衆は、大挙して告訴状を差し出します。
それに驚いた役人は、「奴等は草を打ったのだろうが、俺は草叢の蛇のように驚いた」と叫びました。
兵法書では軍隊が進む時、行く手に山林や草叢、険しい山などがある場合は慎重に警戒して進め、とあります。
敵の姿が見えない時は、まず慎重に索敵を行う事が重要です。
転じて、敵の作戦が判らない時は、その策を読み取る事が指揮官の急務になります。
但し、策を読み取った!という時が、一番危なかったりします。
常に別の策を考えなければ裏をかかれる事も有り得ます。
見えたと思った時にこそ、人は盲目になるのです。
第十四計 借屍還魂「屍を借りて魂を還す(しかばねをかりて、たましいをかえす)」
元曲選という詩の中の、女性が屍体を借りて魂を還し、生き返らせた、とう台詞から。
世の中には役に立つ物と、立たない物があります。
当然、大切なのは役に立つ方なのですが、役に立つ分、借りる事ができません。
この戦略は、逆に役に立たないと思われている物を利用しろ!というものです。
役に立つか立たないかは、利用方法次第です。それは物資にも、人材にも言える事です。
何でもかんでも利用できるものは利用しろ、利用できなければ利用できるように変えてしまえ!という事でしょうか。
第十五計 調虎離山「虎を調って山を離れしむ(とらをあしらって、やまをはなれしむ)」
孫子は言う。
「城を攻めるは下策なり。敵に利のある地で戦えば、自ら敗北に行くようなものである。」
山は虎の棲みかです。ここで戦えば、虎の思うつぼでしょう。
まずは敵の有利な地点から、不利な地点に誘き寄せてから叩くのです。
しかし、敵もわざわざ不利な地点にやって来るわけがありません。
そこで、まずは敵が有利な場所から出てこざるを得ない状況を作るのです。
第十六計 欲檎姑縦「檎えんと欲すれば姑く縦て(とらえんとほっすれば、しばらくはなて)」
呉の孫権は麦城の関羽を攻めるとき、城の北の険しい小道をわざと空けておいた。
そして麦城の兵士が減ると、わざとそこから関羽を逃がした。
しかしそれは、関羽を捕らえる為の罠だったのだ。
関羽は罠にかかり、捕らえられてしまった。
どんな敵も、最早助からないと考えたら「窮鼠猫の額を噛む」のように戦います。
どうせ殺されるのなら、一人でも多く道連れにしようとするのです。
しかし、一方に逃げ道を用意しておけば希望が生まれ、そこから逃げ出そうとします。
逃げる敵は討ち易いのです。
交渉事でも、相手を絶望させてはいけません。自暴自棄にならないように、妥協案を示しておくのです。
しかしながらこの計は、物事を深く考えない人には余り効果がありません。
子供の前にゴキブリを出すと、思わず丸めた新聞で叩くように、
逃げ道にすら気付かず攻撃する人には、意味がなかったりします。
第十七計 抛磚引玉「磚を抛げて玉を引く(れんがをなげて、ぎょくをひく)」
匈奴と漢が戦争を起こした時、漢の兵士に多くの凍死者が出た。
そこに急に匈奴が退却したと知らせが入り、匈奴も凍死者に困って退却したのだと追撃を試みた。
しかしそれは匈奴の罠で、漢は大軍で逆襲されてしまった。
相手を誘う為の戦略です。囮を使って敵を誘い出す、海老で鯛を釣る戦法ともいえます。
敵を誘うには、戦略では「擬似」と「類同」の2種類あるといいます。
擬似とは偽物などを利用した誘い、類同とはこちらが弱っているなどと思わせる誘い方です。
例えば、戦意満々の敵を罠に誘う時、
誰も居ない場所で旗や太鼓を叩いて、そこに人がいるように見せかけるのが擬似です。
また自軍に食料がない、などと思わせて、今攻めるのが有利と思わせるのが類同になります。
兵法では、擬似は見破り易く、類同は見破られ難いといわれます。
類同は美味しい餌であり、油断をしている為でしょう。
第十八計 擒賊擒王「賊を擒えんには王を擒えよ(ぞくをとらえんには、おうをとらえよ)」
中国の杜甫の詩、「人を射んとすればまず馬を射よ、賊を擒えんとせばまず王を擒えよ」から。
日本では「将を射いんとすれば、馬を射よ」という諺になっています。
相手の急所をつき、弱体化させれば全体を捕らえる事は容易になります。
よく、目的と目標を混同するな、と戦略家は言います。
盗賊団全体を捕まえる事が目的ですが、その為の目標は、まず頭目一人を捕らえて組織を弱体化させる事なのです。
何事にも、慎重に手順を考え、一つ一つ進めていく事ですね。
第十九計 釜底薪抽「釜の底より薪を抽く(かまのそこより、まきをぬく)」
中国の北斉の魏収の言葉、「薪を抜いて沸くをとめ、草を切って根を除く」から。
ぐらぐら煮え立った釜も、焚いている薪を抜いてしまえば冷めていきます。
下手に水を差して冷ますより、効果的ですね。
つまり、問題の根本を見つけて解決しろ、という事です。小手先の解決策に惑わされてはいけません。
戦略的にいうのなら、敵を直接攻撃するより、補給路を断て!という所です。
どんなに強い兵隊も、飯抜きでは戦えません。
また、武器があっても弾がなければ無用の長物です。それだけに、補給線の確保は重要です。
もし補給線を断たれたら…。
第二次大戦の、南の島に取り残された日本兵を思い起こしてもらえたら、充分でしょう。
第二十計 混水摸魚「水を混ぜて魚を摸る(みずをかきまぜて、さかなをさぐる)」
明代、寧王が朝廷に対して反乱を起こした。
しかしこれを迎え撃つ陽明には、まだ戦える準備ができていなかった。
そこで寧王の腹心に「そちらの朝廷に対する忠義、いたく感心しました。
そこで寧王を騙して本拠地から切り離していただければ、事はなったも同然です」と手紙を書き、
それをわざと寧王に渡るようにした。
寧王は腹心が裏切ったのではないかと疑り、出陣を躊躇している間に陽明は軍備を整えた。
水をかき混ぜて、何も見えなくなった魚を捕らえよ。
これは相手の内部混乱に乗じて勝利を収める戦略です。
人は組織を作れば、中に派閥や別の勢力を作ってしまうものです。
その中でも一番弱い部分をつき、混乱させれば相手は思うように組織を動かせません。
その為に撹乱工作を行い、判断を迷わせます。
強固なカリスマ性を持った指導者でもない限り、中々一枚岩のようにはいかないものです。
第二十一計 金蝉脱殻「金蝉、殻を脱ぐ(きんせん、からをぬぐ)」
宋の時代、優勢な金軍に勝ち目なしと判断した宋軍は、撤退を決意した。
その際、陣地に旗を立てたままにし、多くの羊を吊るしてその前足に撥を付け、
羊がもがいて足を動かせば太鼓を叩くようにした。
金軍は太鼓の音を聞いて、まだ宋軍が陣地にいるものと誤解し、気付いた時は宋軍は遥か遠くに撤退していた。
戦争で何が難しいといえば、撤退が一番難しいといいます。
こちらが引く際、相手が調子に乗って攻撃すれば、壊滅的なダメージを受ける事があるからです。
戦略とは、一種の力学のようなものです。
撤退する(後ろを見せる)のは立場上、下になります。追う方は上です。
当然、上の方がより強いエネルギーを持っている事になります。逃げる方は後ろを攻撃しなくてはならない。
従って撤退する軍の最後を務める者は、死を覚悟します。本体を逃がす為、この困難な撤退戦を闘うからです。
これは、撤退の時の計略です。撤退する時に攻撃されたら不利ならば、撤退した事に気付かれなければいい。
但し、計がばれた時は、かなりの損害を覚悟しなくてはなりません。
第二十二計 関門捉賊「門を関ざして賊を捉う(もんをとざして、ぞくをとらう)」
紀元前260年、秦軍50万と趙軍40万が激突した。
やがて秦軍の計略により趙軍の総大将は討死に、趙軍は降伏した。
しかしいつ変心するか判らない40万人を恐れた秦軍は、計謀を用いて尽く生き埋めにした。
40万の大軍を失った趙は、これより急速に衰退した。
これは敵を包囲殲滅する計略です。但し、条件が2つあります。
1.敵が弱小で、戦意が低い事
2.これを逃したら、将来禍根に残る事
また、下手にこの計略を使えば、窮鼠猫を噛むが如く、こちらも手痛い目に遭うでしょう。
第二十三計 遠交近攻「遠く交わり近く攻む(とおくまじわり、ちかくせむ)」
秦の昭王は、遠方にある斉を攻撃しようとしたが、家臣の范雎が諌めた。
「かつて斉が遠方の楚を攻め、打ち勝って領土を広げましたが、結局失いました。
何故なら、その間に隣の韓、魏が力をつけたからです。盗賊に刀を貸すような策はいけません」
昭王は進言を受入れ、隣国の韓を攻め滅ぼし、更に魏、楚、燕を併呑して、最後に斉を攻めた。
外交戦術の基本が、この策です。近くの国は過去の因縁があったりして、仲が悪い事が多いものです。
この策が有効なのは、この理由があるからかも知れません。
まあ、何はともあれ、まずは足元を固めろ。という事ですね。
第二十四計 仮道伐鯱「道を仮りて鯱を伐つ(みちをかりて、かくをうつ)」
晋の国の横に、虞と鯱という小国があった。
晋の献公は虞の道を借りて鯱を撃つため、虞に国宝を送った。
虞の臣下である宮之奇は、鯱は小国虞の支えであり、鯱が滅べば虞もやがて攻められると諌めたが、
宝石に目が眩んだ虞公は聞き入れなかった。
数年後、鯱が滅んで支援する国が無くなった虞は、晋に攻め滅ぼされてしまった。
この策は、小国の窮地を利用して併呑する策略です。
ただし、併呑するには、それなりの大義名分が必要になるでしょう。
如何に正義を掲げ、世論の非難をかわすかが、この策の要であるといえます。
逆に小国は、大国に呑み込まれないよう、常に外交力を磨かなければなりません。
※「かく」の字は「鯱」ではないのですが、どうしても上手く表示できないので、
似たような字に変えさせてもらいました。本当は魚偏ではありません。
第二十五計 偸梁換柱「梁を偸み柱に換う(はりをぬすみ、はしらにかう)」
秦の始皇帝は、斉の宰相后勝を買収し、彼の部下を秦に招き寄せた。
やってきた部下達に多額の金を渡し、諜報員として養成した始皇帝は、斉の国に送り返し、盛んに秦の強大さを訴えさせた。
やがて秦軍が斉に到達した時、秦の強大さに脅えた人民は一人として抵抗をしなかったという。
この策は、相手を骨抜きにしてしまう計略です。
意味は建物の梁を盗んで、柱と取り換えるという事です。
同じ様な形でも、梁と柱は別物ですので、家の構造はガタガタになってしまいます。
この計略は敵国はもちろん、同盟国へも利用できます。相手を骨抜きにし、自在に操る為にです。
敵の組織に、自国の影響を受ける人物を送り込み、重要ポストを少しづつ獲得し、やがて相手を乗っ取る。
現代でも使われる、嫌らしい手ではありますが、ある意味(戦争が起こらないという意味での)平和的な手段でもありますね。
第二十六計 指桑罵槐「桑を指して槐を罵る(くわをゆびさして、えんじゅをののしる)」
斉に司馬という将軍がいた。斉が燕に攻撃を受けた時、この将軍が陣頭に立ち、軍を召集した。
しかし軍目付である、寵臣の荘賈が約束の期限を大幅に遅れてやってきた。
言い訳をし、王に助けを求めようとした荘賈を、司馬は軍法に照らし合わせて素早く処刑してしまった。
これを見た兵士は震え上がり、軍の統制は引き締まったという。
友好国や部下に対し、直接的に怒れない時があります。
本当は槐を直接怒鳴りたいのですが、それができない時は桑を指差して、間接的に槐を罵るのです。
これは統率力を維持する為の、演技の一つと言えるでしょう。
組織のチームワークを維持するのに、信頼や援護が必要になりますが、
それだけだと馴れ合ったり、甘えが出たりします。
時には厳しく当たる事も重要なのです。
その為に、組織の中に本人に同意させて「怒られ役」を作り、時には皆の前で怒るという手もあります。
その怒られ役がチームリーダー的存在でしたら、効果は抜群なのです。
第二十七計 仮痴不癲「痴を仮るも癲せず(ちをいつわるも、てんせず)」
三国志の時代。魏の元老である司馬仲達は、名門、曹爽に疎まれて実権のない地位に棚上げされた。
彼は一時病気を理由に朝廷に出てこなくなった。
仲達の動きを不気味に思った曹爽は、部下を見舞いに寄越し、様子を探らせた。
仲達は衣服を乱し、粥をこぼし、ボケた振りをして部下に対応すると、部下は本当にボケたと思い込み、曹爽に報告した。
そして安心し、油断させたところで、仲達はクーデターを起こし、実権を握り返したのだった。
この策は、日本語では「能ある鷹は、爪隠す」という諺に置き換える事もできるでしょう。
自分の手の内を全て見せず、むしろ馬鹿で無能だと思わせる事ができれば、相手の油断を引き出せます。
この策がうまく成功すれば、目覚しい効果が得られます。
しかし、その為には演技力(情報操作)の力が必要不可欠です。
第二十八計 上屋抽梯「屋に上げて梯を抽す(おくにあげて、はしごをはずす)」
楚の項羽が秦に包囲された同盟軍を救出に向かった時の事。
項羽は黄河を渡るや、船を沈め、三日分だけを残して食糧を捨て、兵舎の天幕を焼いた。
そして3日で秦軍を破る事ができなければ、死ぬしかないと兵士達に宣言をした。
兵士達は決死の覚悟で挑み、秦軍を蹴散らしたのである。
この策の意味は、2階に上げて梯子を外すという意味で、相手や味方を引くに引けない状態に追い込む策です。
敵に対しては餌を撒いて誘き寄せ、罠にはめる策になり、
味方に対しては例文のように「背水の陣」にて決死の覚悟を決めさせる策になります。
どちらにせよ、思い切った作戦になりますね。
第二十九計 樹上開花「樹上に花を開す(じゅじょうに、はなをさかす)」
容易に花を咲かせる事の無い樹が、不意に花を咲かせて驚かせるという意味から。
戦いの最中には、こちらの兵力が劣勢になる事はしばしば起こります。
この策は他軍の力を借りたり、囮部隊を利用して自軍を大兵力に見せたてて、相手を威圧する戦法です。
その間に兵力を整えたり、撤退したりします。ハッタリをかませて時間稼ぎをするという事ですね。
第三十計 反客為主「客を反して主と為す(きゃくをはんして、しゅとなす)」
項羽と劉邦は、共に反秦連合の大将として、別々に秦の都、感陽を目指した。
そして感陽に一番乗りをしたのは、軍の小さな劉邦だった。
口惜しがった項羽は、劉邦を殺そうとするが、それを察知した劉邦は僅かな共と項羽に下って謝罪した。
その後も色々と項羽に不遇を受けるがそれに耐え、やがて勢力が回復すると項羽を討ち、漢の皇帝になった。
戦いでは、主導権を握った方が優勢になります。
この策は主導権を握れというものです。
しかし、物事には順序があります。まだ客の身分の間では、じっくり耐え、機会を待たなければなりません。
機会が訪れたら逃がさず、即座に行動に移って主導権を握り、主の身分となるのです。
第三十一計 美人計「美人の計(びじんのけい)」
呉王夫差に敗れた越王句践は、呉王に打ち勝つ為、美人を探し出し呉王に贈った。
呉王が彼女に溺れている間に国力を整え、油断させて、やがて越は呉を滅ぼしてしまった。
この策は、相手のやる気を失くすものです。
人間は、快楽に弱いもの。相手の望みのものを与えたら、苦痛な仕事をやる気を失くしていきます。
逆に、このような快楽に溺れる事の無い人こそが、大成するのでしょうね。
第三十二計 空城計「空城の計(くうじょうのけい)」
三国志演義にて、魏の仲達が十五万の大軍を率いて、蜀の孔明の城を攻めた時の事。
その時、孔明の手元には二千五百の兵しかいなかった。
そこで孔明は旗を下ろし、門を開放し、兵士を隠して自分は城の上で優雅に琴を弾き始めた。
それを見た仲達は、これは何か裏があるに違いないと攻めずに、一旦兵を引いてしまった。
この策は、わざと隙を見せる事で敵の動揺を誘うものです。非常に危険で、窮余の策でもあります。
これは相手も知能的でないと、引っ掛かってくれません。
猪突猛進型の将だと、何も考えずに突っ込んでくるからです。正に、相手の裏の裏を読む心理戦と言えるでしょう。
第三十三計 反間計「反間の計(はんかんのけい)」
楚の項羽は、漢の劉邦に使者を送った。
劉邦は使者をまるで王侯貴族のように扱い、接待をしたが、
直に会って顔をみるなり「何だ、范増殿の使者ではないのか」と言って、豪華な料理を下げさせた。
この使者の話を聞いた項羽は、軍師の范増が裏切ったのではないかと疑い、彼の提言を聞かなくなった。
怒った范増は項羽の元を去り、楚に軍師がいなくなってしまった。
この策は、間者(スパイ)を利用して、相手を混乱させるものです。
自らが放ったスパイが持ってきた間違った情報で動けば、行動は失敗に終わるわけです。
逆に、情報には虚実があるものと考えて、常に疑う事が大事という意味でもあります。
第三十四計 苦肉計「苦肉の計(くにくのけい)」
三国志演義にて、曹操が呉に侵攻した時の事。
曹操軍は大軍であるのに対し、呉の孫権軍は劣勢であった。
呉は足止めをする為、曹操軍の船を焼き討ちにする作戦に出たが、そのままでは船に近付く事さえできない。
そこで将軍の一人の黄蓋に、軍に逆らったとして鞭打ちの刑に処し、曹操へ降伏させた。
これを聞いた曹操は黄蓋を信用し陣地に迎え入れたが、これこそが黄蓋の策略で、まんまと焼き討ちの計を許してしまった。
自分を傷つけずに敵を倒す事ができれば、それが最上の策である事は言うまでもありません。
しかし、状況的にそうはいかない時があります。例え多少の犠牲を払っても、行動をする時が必要なのです。
指導者は、その決断を下す場面に遭遇する事を覚悟しなくてはならないでしょう。
第三十五計 連環計「連環の計(れんかんのけい)」
三国志演義にて、曹操は船の大軍をもって呉に侵攻した。
しかし慣れない水上の生活に、兵は疫病に苦しんだ。
これを見た呉の軍師は、言葉巧みに曹操に近付き、舟を連結させて揺れを少なくすれば兵も回復するでしょうと持ちかけた。
曹操は喜んで、鎖で船をつないだ。そうして船の機動性がなくなった所で、呉の焼き討ちにあって大敗してしまった。
敵の勢力が強大な時は、正面から戦うのは得策ではありません。
まずは敵の動きを鈍くして、弱める事が肝心です。
例文では実際に鎖でつないでいますが、相手を鈍らせるという意味では、心理戦を持ち込んで兵士の厭戦気分を高めたり、
味方同士で足の引っ張り合いをさせる事も効果的です。
第三十六計 走為上「走ぐるを上と為す(にぐるをじょうとなす)」
漢の劉邦は、項羽の精強な軍隊に対し、敗北を続けていた。
しかし常に勝てないとなれば、補給線だけはしっかり確保しながら、逃げ続けた。
その結果、戦術的には負けていても戦略的には負けず、包囲網を築いていったのである。
勝算が無ければ、戦わずして逃げろ。最後の戦略は、これにつきます。
逃げるという事は、負けるという事ではありません。
勝てないけど負けない、つまり兵力を温存し、次回に備えるという事です。玉砕しては、再起は計れないのです。