帰ってきた モニターの中の映画館

日本映画>ピンク>馬と女と犬

馬と女と犬

監督: 佐藤寿保

1990年

製作: メディアトップ
配給: 新東宝映画
脚本: 夢野史郎
撮影: 稲吉雅志
音楽: 早川創
出演: 岸加奈子, 佐野和宏, 佐々木ゆり, 上原絵美, 高橋達也, 小林節彦


★★★静かな黙示録

題名のとおり、犬姦、馬姦のピンク映画。
新東宝の動画配信サイトの紹介文によると、「新東宝映画史上ナンバーワンといってもいいほどのヒットを記録した」のだそうだけれど、やはり獣姦のスキャンダルが眼目であって、それが佐藤寿保の作品だから、というわけではないのでしょう。
ぼくが観た新東宝のサイトの動画配信は、画質は優秀だけれど、からみの場面や動物の性器(作り物だろうけど)に大きなモザイクをかけているからなのか、それほどショッキングな作品だという印象はありませんでした。


**********************************************************************************************

[ネタバレあらすじ]
どこかわからない、海辺の土地。

波打ち際に打ち上げられた瀕死の女(岸加奈子)を、佐野和宏が救う。
佐野はその海岸を支配する女王(佐々木ゆり)の馬番を務めている。

女王は、この土地に迷い込んできた女を、飼い犬と二人の男(高橋達也、小林節彦)に犯させて、人間と動物の快楽の国を作ろうとしている。妹を殺した原罪に苦しめられている女王は、自分には死病の遺伝があると信じていて、自分より長生きができる他の女を許せない。その日も、犬と男たちに蹂躙された女(上原絵美)が正気をなくして、海に身投げをした。
意識を回復したものの、記憶を失っている岸加奈子を、佐野はこわれものを扱うように介抱する。女王は岸に目をつけるのだが、佐野は彼女をかばう。お仕置きとして女王は、岸の首から下を砂浜に埋めて放置し、佐野の躰を弄ぶ。

女王から解放された佐野は、岸を助けて、二人で逃げだそうとする。海から引き上げた岸のポケットに入っていた拳銃を取り出して、彼女は心中の片割れであり、自分がその心中の相手なのだと言いはじめる。その夜、岸と佐野は結ばれる。

翌朝、この土地を離れようとしていた二人を、女王が捕らえる。女王は二人を縛り、男たちに押さえつけられた岸を馬と交合させる。苦痛に倒れた岸の足の裏の痣を見て、女王は岸が自分の妹だと言いはじめる。
そのとき、縄を抜け出した佐野が、女王にナイフを突きつける。縄を解かれた岸は、馬の鞍に隠した拳銃を女王と男たちに向ける。佐野の手に渡った銃弾に倒れる男たち、そして女王。女王は死に際に、佐野が海辺に打ち上げられた女の死体を密猟する死姦者であると暴露する。
しかし、岸は、佐野の小屋に隠された女の死体とポラロイド写真を見て、すでにそのことに気づいていた。彼女を抱き寄せようとする佐野を、岸はナイフで刺す。

その後、死んだ女王の屋敷で、新たな女王となったかのような岸の姿があった。

**********************************************************************************************


おそらくこの作品は、獣姦映画を作る、という企画が先行して、それがたまたま、過激なヴァイオレンス表現を追求してきた佐藤寿保、夢野史郎コンビに振りあてられたのだと思われるのだけれど、逆にこのコンビから連想される、血糊の噴出や肉体破壊の過剰な描写をそぎ落とした、静謐でシンボリックな作品になっています。

彼らが暮らしている「ここ」は、眼前にただ海が広がるだけの、とりとめない広がりを持ちながらも、ほとんど人の出入りがなく、文明から隔絶された密室のような土地。女王の支配も制度的なものではなく、二人の男は女王がいたぶる女体のおこぼれを頂戴するために、佐野和宏は汀に打ち上げられた死体を愛でるために、そこに残留しているようです。

犬姦、馬姦という「見せ場」を持ち上げるための、ミステリアスなムードのみに充たされたかのように見える作品ですが、劇中で佐野和宏が独白する「われ蒼ざめた馬を見たり。その馬にまたがれる者の名を死という」という言葉に注目すれば、新約聖書の黙示録の四騎士の記述をよりどころにしていることが、容易に推測できます。

第一の騎士(支配)は女王、第二、第三の騎士(戦争、飢饉)は二人の男たち、では、第四の騎手(死神=ペイルライダー)は誰なのか、というミステリーであって、当然ながら死者を弄ぶ佐野がその役を負うと臭わせておきながら、じつは女神のような岸加奈子が死神であったという、苦い転倒の物語です。

ただし、『地獄の黙示録』や『ザ・カー』といった、黙示録の記述そのものを骨格に頂いた作品とは違って、本作への援用は緩やかで、四騎士の暗示が物語を推進するというわけではありません。
むしろ記憶に残るのは、社会からの逸脱集団からも逸脱しながら、ひっそりと死姦の快楽を求めている佐野和宏が、初めて生きた肉体の持ち主である岸加奈子を愛し、彼女が馬に犯される姿を見せつけられるという愛の試練を経ても、けっきょくは彼女が彼にとっての死神になってしまったという絶望の深さです。

そこには佐野和宏の自作自演作品で繰り返された、彼と岸加奈子との、結ばれない男女の悲劇があって、佐藤寿保が佐野和宏の世界に大きく寄りかかった作品なのではないかと感じられました。

シナリオタイトルは「密猟の汀」。


(ネット配信鑑賞 2009/2/16記)


< 目次に戻る

Google