平成12年(わ)第534号 殺人,死体損壊被告事件
判 決
被 告 名
主 文
被告人を懲役16年に処する。
未決勾留日数中540日を刑に算入する。
理 由
(犯罪事実)
第1 被告人は,平成12年3月16日午後9時30分ころから同日午後11時5分ころまでの間,北海道千歳市,恵庭市又はその周辺において,被害者(昭和50年4月2日生)に対し,殺意をもって,その頸部を何らかの方法で圧迫し,同人を窒息死させて殺害した。
第2 被告人は,同日午後11時5分ころ,北海道恵庭市北島39番先市道南8号路上において,前記被害者の死体に灯油をかけ,そのころ,同死体に火を放って焼損し,もって死体を損壊した。
(事実認定の捕捉説明)
第1 争点
弁護人は,本件と全く無関係な被告人は無罪である旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする(以下,都道府県の記載を省略した市町村以下のみの記載は「北海道」を,年の記載を省略した月日のみの記載は「平成12年」をそれぞれ表すものとする。)。
第2 事実の概要
関係各証拠によれば,本件当時,被害者は,苫小牧市○○○○番地で両親らと同居し,○○○○を所長とする日本通運株式会社札幌東支店キリンビール事業所(以下「キリンビール事業所」という。)の契約社員として千歳市○○○○○○番地キリンビール株式会社北海道支社千歳工場構内所在の配車センター(以下「配車センター」という。)1階の同事業所工場構内課(以下「工場構内課」という。)に課長○○○○,係長○○○○,同○○○○、主任○○○○,課員○○○○,リフト班長○○○○,契約社員被告人,同○○○○(現姓○○)及び同○○○○と共に勤務し,北海道セルラー電話株式会社(以下「セルラー」という。)との契約による090○○○○○○○○番の携帯電話(3月4日からデジタル方式からCDMA方式に機種変更)を携行し,三菱パジェロジュニアである室蘭57○○○○○号の普通乗用自動車(以下「被害者車両」という。)を運転するなどして通勤し,○○○○との交際を始めたばかりであり,被告人は,勇払郡早来町○○○○番地の○○○○団地○○○○号に両親と同居し,エヌ・ティ・ティ北海道移動通信網株式会社との契約による090○○○○○○○○番の携帯電話を携行し,赤色ホイール付きスタッドレスタイヤ装着の日産マーチである室蘭57○○○○○号の普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)を運転するなどして通勤し,久しく交際していた○○○から別れ話も出され,○○○と被害者との交際も知るようになり,○○○は,札幌市○○○○○○○○○○○に居住し,トヨタ○○○○○を運転するなどして通勤し,エヌ・ティ・ティ北海道移動通信網株式会社との契約による090○○○○○○○○番の携帯電話を使用していたが,被害者は,3月16日午後9時30分ころ,被告人と連れ立って配車センターを退出して被害者車両を駐車していた駐車場に向かい,その後に所在不明となり,3月17日午前8時20分ころ,仰向け状態の焼死体となって発見され,その左足から前方に若干離れた地点で被害者の左用短靴も発見され,同日午後3時5分ころ,被害者の携帯電話が発見され,同日午後8時19分ころ,千歳市上長都1191番地の11所在のJR長都駅南側駐車場西側道路上で,全施錠かつ全閉の状態の被害者車両が発見され,4月14日までには,被害者使用ロッカーの鈴付きロッカーキーが発見され,4月15日,被害者車両エンジンキー等被害者の遺品が発見されたことが認められる。
第3 被害者の死因並びに死亡及び焼損の時期
1 被害者の死因
関係各証拠によれば,被害者の死体は,恵庭市北島39番市道南8号道路脇(以下「死体発見現場」という。)で,頭部を北西方向に向けて道路とほぼ平行な仰向けの状態で発見され,その眼部に施されていたタオル様のものによる目隠し部分が中等度に焼け,両腕がそれぞれ肘部で屈曲し,右手部が背部下に,左手部が左側胸部上方にそれぞれ位置し,両足が股関節から大きく開脚していたが膣内の精液残留等姦淫の形跡はなく,背部の筋肉が露出し,骨盤の左右腸骨稜部及び腰椎が露出して炭化するなど全身がかなり高度に焼損炭化していたが,その左眼瞼結膜,口腔粘膜及び左側頭筋膜下に溢血点が存在し,気管内部に淡赤色の微細な泡沫が中等量に存在し,この泡沫内にも気管内部にも明らかな煤の存在はなく,気道にも熱傷がないことから,被害者の死因が頸部圧迫による窒息であり,溢死に用いたと見られる索条様のものが死体の頸部に存在しなかったことなどからして,何者かが被害者の頸部を圧迫して殺害した上で死体を焼損したことは明らかであるが,その殺害の具体的態様は不明である。
2 被害者の死亡及び焼損の時期
証人○○○○は,3月16日午後9時20分から30分ころ,JR長都駅南側ロータリーに入ってきた三菱パジェロ車を妻による迎えと思って同駅待合室を出て近づくと,停車した同車には二十代位の若い女性二人が乗っていた旨供述するが,同証人自身,同車が被害者車両である三菱パジェロジュニアと同車種であるとまでは同定できない上,被告人及び被害者の前記退社時間と対比すると,その目撃時間が関係各証拠から認められる被告人及び被害者の同ロータリー到着可能時間よりも早めであり,同ロータリーの構造自体からして鉄道利用者の送迎のために停車するのが通常であるはずの同ロータリーに被告人及び被害者が停車しなければならないような事情も窺われないことなどに照らせば,同証人の目撃したのが被告人及び被害者であるとは認められず,被害者が前記退社時間である3月16日午後9時30分ころまで生存していたことまでしか明確でない。
そして,死体発見現場付近住民である○○○○は,公判段階で,3月16日,就寝するために歯磨きや洗顔をしながら自宅1階居間の正確に合わしていた壁時計で午後11時から午後11時5分前の間の時間であることを確認してすぐに上がった2階廊下北向きの二重窓のガラス1枚を通して外のタモの木3本越しに南8号線の道路上で高さ1メートル位までオレンジ色に燃え上がってアーチ型になっているものを見たが,その付近に自動車や人影等は見えなかった旨供述し,捜査段階でも,その目撃時間が同日午後11時か少し過ぎた11時15分ころまでの間に間違いない旨を除いて公判段階とほぼ一貫した供述をし,その炎の目撃時間に関する供述の微妙な変遷について,取調検察官から少々時間に幅を持たしたほうが無難であるように言われ,自らも重大事件であるがゆえに慎重になったからである旨釈明する点でも合理性が認められる。また,同付近住民である○○○○の検察官調書によっても,同日午後11時10分ないし15分ころ,飼い犬の散歩のために自宅台所横の裏口から外に出ると,右斜め前方五,六百メートル先の南8号線上に横幅がビニールハウス1棟分で高さがその二つ分位のかまぼこ状の明かりが葉の落ちた防風林越しに見え,その濃いオレンジ色の中心部の周囲の色が段々と薄くなり,同日午後11時20分ないし30分ころ,同台所窓を開けて見ると,その明かりの大きさが最初に見たときの3分の1位になって段々と消えかかっていたというのである。本件と利害関係のない第三者的立場にある両名の各供述内容は,いずれも具体的かつ明確である上,その視認可能性等客観的証拠等とも整合した自然かつ合理的なものであって,相互に補強ないし補完し合って十分に信用できる。
他方,○○○○は,公判段階で,同日午後11時五分ころ,娘をJR北広島駅まで迎えに行くために自動車を運転して自宅(○○○○○○○)を出発し,南8号線に出てすぐの同線と西8線の交差点のやや東側にブレーキランプを赤く点灯したボンゴ車とこれに相前後する小さな車の後部が見えたが,これらの車越しに赤い光のようなものは見えず,同日午後11時15分ころ,同駅で娘を乗せて自宅に向かい,同交差点の南側地点で,先刻の位置より東側に移動停止していた前記2台の車のうちの小さな車に少しかぶさるような感じで赤い光のようなものが見え,パトカーが来ていると思った旨供述するが,捜査段階の3月17日には,自宅を出発して同交差点を右折する際,南8号線に2台の車が止まっていて,テールランプの灯りかどうか分からないが,赤かったような感じであり,午後11時30分ころに帰宅した際,これらの車の状況はわからなかった旨供述していたのであって,重要部分に供述の変遷がある上,その理由として同人が釈明するところも,警察による事情聴取の際,無意識に「見えた」復路の赤い光を意識的に「見た」と言うのは嘘になるとの考えがあり,赤い光を見たこと自体が自分のとって重要であったから往路と復路とを区別せずに供述してしまい,それから10日以上経過して何か変だなと気付いたなどというかなり不可解なものではある。しかし,被害者の死体に着火されて炎上する前に同人が同交差点を右折したために炎に気付かなかったということは十分にあり得るのであるから,前記○○○○及び○○○○の各供述との間に決定的な矛盾があるわけではなく,その第三者的立場や視認可能性等客観的証拠との整合性等をも考慮すると,○○○○の公判段階での供述の信用性を必ずしも否定できない。そして,○○○○の復路での前記2台の車の目撃時刻は,公判段階で供述されていないが,同駅を出発した午後11時15分ころに前記往路所要時間の約10分を加えた午後11時25分ころと認められるから,3月16日午後11時5分ころに被害者の死体に点火され,その後の大炎上を経た上,同日午後11時25分ころにはかなり鎮火に向かっていたものと推認できる。
そうすると,被害者は,少なくとも,その生存が確認されていた3月16日午後9時30分ころから死体の焼損が開始された同日午後11時5分ころまでに殺害されたことは明らかである。
第4 被害者の携帯電話
1 携帯電話の通話構造及び通話情報保存の仕組み
関係各証拠によれば,本件当時,セルラーの携帯電話(移動機)にはPDC方式とCDMA方式の2種類があり,電話を掛けた場合には,そのCDMA方式では,移動機から無線で連絡されるBS(無線基地局)でのデジタル信号への変換を経てBSC(ベース・ステーション・コントローラー)及びEMX(CDMA方式の交換機)を往復してBSに戻るという流れを辿り,そのPDC方式又は他事業者との関係では,EMXとBSとの間にGS(ゲートウェイ・スイッチ)を介在させ,PDC方式についてはMSC(交換機)も経由して,それぞれの通信網に通じ,また,電話を受ける場合には,前記とは逆の流れを辿ることになり,そのため,北広島市,恵庭市,千歳市,勇払郡早来町及び同追分町の各BSにも,それぞれ6本以内のセクター(アンテナ)が設置されていて,地下局である新千歳空港駅を除くと,各セクターごとに60度ないし120度の角度の範囲内の電波を捕捉し,通常は最大6セクターで電波を捕捉し,そのうちの3セクターが通話に使用されるが,あるBSの直近で他のBSとは遠隔の場所で携帯電話を掛けたような場合には,電波感度の良好なエリアである直近の1セクターのみが電波を捕捉することになり,また,セルラー通信運用部内には,BSC及びEMXが設置され,そのEMXを通った通話データについては,EMXの通過及び切断の日付,時間,通話成立時間,通話完了時間,使用基地局,通話成立の有無,留守番電話サービスへの接続の有無,圏の内外,相手方の電話番号等がEMX及びリアルタイムで自動的に送られる東京所在の料金センターの両方に記録され,使用基地局,そのセクター,相手方の電話番号等はBSCにも記録され,通話データについては,EMX及びBSC上で数日間,料金センターで約2か月間それぞれ保存されるのが通常であることが認められ,そのEMX,BSC及び料金センターに保存される通話データは,作為や誤謬の介入する余地のない機械的かつ科学的な方法で自動的に作成される正確なものといえる。
2 被害者の携帯電話の発信記録等の作成経緯及びその内容の信用性
関係各証拠によれば,セルラー総務部社員○○○○は,3月17日午後2時ころ,090○○○○○○○○番の携帯電話(被害者使用)の3月15日から同月17日午前零時までの間の発着信状況に関する通信記録の作成を警察から依頼され,これに沿った要請を同社通信運用部オペレーションセンター長の○○○○を介して受けた同部社員○○○○は,料金センターの通話データに基づき,要請された内容のものとして通話記録(以下「通話記録@」という。)を作成し,これをファックスで受けた○○○○は,そのファックス送信元等の部分を隠した写しを作成して警察官に提出し,さらに,同携帯電話の3月1日から同月14日までの間の着信状況に関する通話記録の作成を警察から依頼され,これに沿った要請を○○○○を介して受けた同部社員○○○○は,料金センターの通話データに基づき,要請された内容のものとして通話記録(以下「通話記録A」という。)を作成し,その様子を見ていた○○○○は,自分が作成した際に検索条件の時間を勘違いして設定したために通話記録@の午後の分のデータに一部欠落が生じていることに気付き,その旨を○○○○に連絡して作り直しを命じられ,通信運用部のパソコンの端末から,発信状況と着信状況とを別作業として,検索条件である電話番号,日付及び時間を入力して東京所在の料金センターの通話データを呼び出し,時系列順にアルファベットと数字の羅列で表示されたデータをテキストファイル形式で保存し,これらの日付と発信時間の間,発信時間と着信時間の間,着信時間の後にそれぞれ区切り線を入れてからエクセルで読み込み,必要な部分以外を削除してから並べ替えやカットアンドペーストの操作をし,発信番号の頭に0を書き加えた表をプリントアウトし,さらに,BSC上のデータを電話番号と日付で検索して呼び出し,時系列順にアルファベットと数字の羅列で表示されるデータをプリントアウトし,これを見ながら前記表に使用基地局とセクターを手書きし,これに基づいてパソコン上のエクセルの表に清書し,その正確性の確認作業を2回行った上,3月15日から同月17日午前零時の間の同携帯電話の発着信状況及び位置情報の通話記録(以下「通話記録@訂正分(ファックス前)」という。甲213,304)を作成し,これらをファックスで受けた○○○○は,通話記録Aのファックス送信元等の部分を隠した写し及び通話記録@訂正分のファックス送信元等の部分を隠した写し(以下「通話記録@訂正分写し」という。甲306)をそれぞれ作成して警察官に提出し,3月21日午後2時ころ,3月17日午後零時から3月20日までの間の同携帯電話の着信状況に関する通信記録の作成を警察から依頼され,これに沿った要請を○○○○を介して受けた同部社員○○○○は,要請された内容のものとして通信記録(以下「通信記録B(ファックス前)」という。)を作成し,これをファックスで受けた○○○○は,そのファックス(以下「通信記録B(ファックス後)」という。甲218,307)の送信元等を隠した写し(以下「通信記録B写し」という。甲308)を作成して通信記録B写しを警察官に提出し,数日後,警察から問い合わせのあった3月17日午後零時から3月20日までの間の同携帯電話の着信状況の終話状態を○○○○に確認しながら通信記録B(ファックス後)の上に鉛筆で記入し,4月7日,警察からある人物発信の受信記録がないと疑問を寄せられた通話記録Aを○○○○に確認させ,○○○○は,その検索の際の電話番号が間違っていたことに気付き,改めて同携帯電話の検索を行い,これを引き継いだ○○○○は,CDMA方式以後の3月4日から3月14日までの間の同携帯電話の着信情況に関する通信記録(以下「通信記録A訂正分(ファックス前)」という。甲210,301)を作成し,これをファックスで受けた○○○○は,そのファックス(以下「通信記録A訂正分(ファックス後)」という。甲216,302)の送信元等を隠した写し(以下「通話記録A訂正分写し」という。甲303,37〔添付のもの〕)を作成し,これを警察にファックス送信するとともに通話記録A訂正分写しも提出し,また,通話記録が被害者(甲34〔添付のもの〕
),被告人(甲56〔添付のもの〕 )又は○○○○(甲69〔添付のもの〕 )の各携帯電話の通話料金の関する書面と完全に一致しているわけではないが,通話記録では,相手方の応答前に切って通話が成立しない場合を含めてEMXを通過した全てが対象とされ,通話料金に関する書面では,課金される通話のみが対象とされ,また,発信の際に電話番号の頭に「186」の番号が自動的に付加される設定がされていた○○○○の携帯電話からの着信は,被害者の携帯電話番号を検索条件としても料金センターの通信データから検出できず,さらに,「着信移動機話中」の状態は,実際に通話中である場合のほか,EZwebというメール通信をしているなどでも起こるのであるから,いずれも矛盾はないことが認められる。
そうすると,各通信記録又は各写しは,その作成が警察からの捜査上の要請による点でセルラーでの業務の通常の過程で作成されたとは必ずしもいえないが,セルラー内部で上司から業務命令を受けた部下が顧客からの苦情対策業務として行われる通常の過程に準じて正確性を意識しながら作成するなど特に信用すべき情況の下に作成され,かつ,それぞれ前記通信データの一部手入力を含む電子機器処理による抄本又はその写しの性質をも有するものである。しかも,その機械的操作の過程で全く過誤がなかったわけではないが,最終的には,作成者自らの過誤発見又は警察からの過誤指摘による入念な再処理及び確認作業を経て訂正を行ったものであり,近接する時間帯での使用基地局が同一であるなど通話記録上の発信時間,着信時間,発信電番,使用基地局,終話状態及び備考の各欄の前後左右の対応関係の整合性をも考慮すると,備考欄に「呼び出し後,電源断orエリア外」とあるのを「電源断orエリア外」と,これに対応する使用基地局欄に「長都1,2千歳6,1」とあるのを「不明」と○○○○自身が公判段階でパソコンによるコピー処理上の初歩的過誤を訂正した1着信分の一部分を除き,各通話記録の最終確定分の正確性を肯定できる。
3 被害者の携帯電話の発受信状況
関係各証拠によれば,被害者の殺害後,被害者の携帯電話から,@3月17日午前零時5分31秒から同分49秒までの間,配車センター1階事務室内壁面に表示されているが電話帳未登載で関係者以外には知り得ない24時間通話可能なキリンビール千歳工場代表電話(0123○○○○○○)に,A同分56秒から同6分00秒までの間,被害者との交際を被告人ら特定の者にしか知られていない○○○が3月7日ころに紛失したのを同僚も知っていた○○○の携帯電話に,B同分04秒から同分05秒までの間,前記代表電話に,C同分29秒から同分49秒までの間,工場内部の電話一覧表に登載されているが外部未公表のキリンビール千歳工場施設管理室(0123○○○○○○)に,それぞれ電話が掛けられて千歳市新富2丁目652番地7所在の千歳BSセクター3(真北から右回り120度を中心とする左右30度の範囲内)で捕捉され,D同日午前3時2分09秒から同分15秒までの間,○○○の携帯電話に,E同分19秒から同分25秒までの間,前記施設監視室に,F同分38秒から同分55秒までの間,同所に,それぞれ電話が掛けられて勇払郡早来町字北進124所在の早来BSセクター1(真北を中心とする左右60度の範囲内)で捕捉され,また,被害者の携帯電話に同日午前9時29分18秒から同日午前11時52分25秒までの間に掛けられた合計15回の電話のうち14回を捕捉したのは,いずれも千歳市上長都1121−11所在の長都BSセクター1及び2(真北から右回り100度を中心とする左右105度の範囲内)と千歳BSセクター6及び1(真北から左回り30度を中心に左右60度の範囲内)であり,すなわち,被害者が殺害されたころに被害者の携帯電話を入手した者は,一般的な就寝時間帯に入る同日午前零時5分ころから同6分ころまでの間に千歳市新富2丁目の東南東の方角に,一般的な熟睡時間帯である同日午前3時2分ころに勇払郡早来町字北進の西北西から東北東までの間の方角に順次位置しながら,被害者の生存偽装工作の一環として,被害者の勤務先や交際相手と知った上で各電話番号に電話を掛け,さらに,一般的な勤務時間帯である同日午前9時29分ころから同日午前11時52分ころまでの間に配車センターを含む方角に位置していたと認められる。しかも,本件当時のキリンビール事業所従業員の居住関係は,被害者及び被告人を除く51名が別紙記載のとおりであって,早来町及びその近傍に居住していたのは被告人のみであるが,被告人は,3月16日午後11時36分ころ,恵庭市○○○○○○○○所在の○○石油株式会社ガソリンキング恵庭店で被告人車両にガソリン9.50リットルを給油し,千歳BSセクター3の捕捉範囲内を通過した上,翌17日午前1時43分ころ,被告人の自宅近傍の勇払郡早来町○○○○○番地の15所在の○○○○早来○○店で買い物をして早来BSセクター1の捕捉範囲内にある自宅に戻り、同日午前8時20分ころ,長都BSセクター1及び2と千歳BSセクター6及び1の捕捉範囲内にある配車センターに出勤するなど被害者の携帯電話と同様の移動をしたことが認められ,その余のキリンビール事業所従業員が時間的に同様の移動経路を辿るべき理由や必要は見出せない。そうすると,犯人は,被害者の勤務先や交際関係に精通しているキリンビール事業所部内者である可能性が高く,その場合には,被害者の携帯電話から殊更に紛失中の○○○の携帯電話に発信して内情を知らない部外者の犯行と惑わせることもあり,そもそも,被害者の生存偽装工作としては,被害者の携帯電話からの発信事実のみを残せば足りるはずであるから,睡眠時間帯で傍迷惑となる○○○の自宅等ではなく,応答の可能性の低い勤務先や紛失中の○○○の携帯電話に発信したなどの可能性もあり,殊に,早来町に生活圏があって千歳市を通勤圏内に含みながら工場構内課に勤務し,その足取りが被害者の携帯電話の移動状況と整合し,かつ,被害者と○○○との交際関係も知っていた被告人が犯人である可能性を疑わざるを得ない。
4 被害者の携帯電話の発見状況
関係各証拠によれば,被害者の携帯電話は,3月17日午後3時5分ころ,配車センター2階女子従業員休憩室内の被害者使用ロッカー内の向かって右側のハンガーに掛けられた作業服上着の左胸外ポケットからアンテナ部分が下で番号ボタン側が内向きで電源が切られた状態で発見され,発信履歴には1件も記録がなかったが,着信履歴には同日午前9時7分ころから同日午後零時36分ころまでの間の合計20件の記録があり,その間,前記通信記録上で「電源断orエリア外」と表示された同日午前10時13分51秒から同15分15秒までの間を除くと,被害者の携帯電話の電源が入っていたことが認められる。
そうすると,犯人は,3月17日午後零時36分ころから同日午後3時5分ころまでの間に被害者の携帯電話の電源を切って被害者使用ロッカー内に戻したものと推認できる。
5 被害者の携帯電話を戻した者関係各証拠によれば,配車センターでは,その東側外壁面に同出入口の健在中のキーボックスが設置されていたが,その扉の施錠が怠られている状態であり,門のある西側からの来訪者を窓越しに工場構内課職員が,東側からの来訪者を南側で作業するリフトマンがそれぞれ見ることが可能であり,1階には構内課職員作業員用,トイレ用及び運転手受付用の3つの出入口があり,2階には会議室,女子従業員休憩室,リフトマン休憩室,給湯室及び男女トイレだけがあり,2階にリフトマン,清掃婦,自動販売機飲料水補充作業員の出入りもあり,前記トイレ用及び運転手受付用の各出入口から2階に上がるためには職員のいる1階事務室を必ず通る必要があるが,構内課職員作業員出入口からは比較的人目に付かないで2階に上がることは可能であり,また,女子従業員休憩室は,2月25日,工場構内課の女子従業員以外に工場構内課男子従業員及びリフトマンの手伝いを加えて1階から2階に移転されたのであるが,これをキリンビール事業所部外者が容易に知り得る状況にはなく,その際,外面に名札も付されていないロッカーの配置が女子従業員のみで行われたが,ロッカーを開扉すれば,他の女子従業員と異なって襟と裏地が黄色の被害者常用の作業着上衣及び被害者の名札付き制服ベストが収納されていた関係で被害者使用ロッカーを識別することは可能であったことが認められる。
そして,○○○○及び○○○○係長は,公判段階で,部外者が3月17日に配車センターに入って被害者使用ロッカー内に被害者の携帯電話を入れた可能性はない旨断言するが,工場構内課従業員が部外者の出入りを始終監視しているわけではなく,配車センター受付側の窓に置かれている案内板や植木鉢の関係で外を通る人の姿が見易いとはいえない旨の元工場構内課社員○○○○の公判段階での供述をも考慮すると,部外者が工場構内課従業員に見咎められることなく配車センター2階に上がる可能性がないとまではいえない。しかし,犯人がキリンビール事業所部外者であった場合には,配車センター部内者に見咎められる危険を冒してまで被害者の携帯電話を不案内な配車センター内部の特定困難な被害者使用ロッカー内に戻し,あるいは,3月17日午後零時36分ころ以降に被害者の携帯電話の電源を切って被害者使用ロッカー内に戻す理由も必要もなかったはずであり,前記通話記録上の発信先等をも併せ考えるとき,配車センターが無人である時間帯にキーボックス在中の鍵を悪用した可能性の点を含め,キリンビール事業所部外者による可能性は否定される。
ところで,前記通話記録上,被害者の携帯電話は,3月17日午前10時13分51秒から同15分15秒までの間の着信の際,電源が入っていないか,電波が届かない状態であり,最長で同日午前10時6分38秒後から同20分18秒前までの間が同様の状態にあったことになるが,その前後である同日午前9時29分18秒から同日午前11時52分25秒までの間の着信14回の際,全て電源が入った状態で配車センターを含む長都BSセクター1及び2と千歳BSセクター6及び1の捕捉範囲内に一貫して位置していたものである上,キリンビール事業所部外者による犯行不可能性をも併せ考えるとき,被害者の携帯電話が自動車に積載されて移動されるなどして前記のように一時的にBS圏外に出たとは考えられない。また,携帯電話の電源が入っていたとしても,障害物や方角等による電波状態次第で一時的に通話不能に陥ることは十分にあり得るのであるから,前記時間帯に被害者の携帯電話の電源が切られたとは限らない。
そして,関係各証拠によれば,被告人は,3月17日午前中に一人で女子従業員休憩室に入って被害者使用ロッカーを開けたり,配車センターから外出したりし,同日昼食時間帯にも女子従業員休憩室に入ったことが認められるのであるから,被告人が被害者の携帯電話の電源を操作して被害者使用ロッカー内に戻した可能性はある。
第5 被害者のロッカーキー
1 被害者のロッカーキーの発見及び差押えの経緯
関係各証拠によれば,4月14日,北海道警察札幌方面千歳警察署は,同署車庫内で,被告人車両内の捜索差押えと並行して同日午前9時20分から北海道警察本部刑事部鑑識課旭司警部補の指揮下で消防吏員坂口忠義を立会人として同車の検証を行ったが,午前中,旭警部補は,車載品を1点ずつ確認する中で同車助手席前のグローブボックス内に捜索差押許可状の対象外である鈴付きの「HK2943」と刻印された鍵1本があるのを認め,これを取り出して検証補助者に写真撮影等させたが,その際の総括責任者である同鑑識課工藤真市警部は,前記鍵を検証現場から持ち出し,これを捜査本部で指揮していた前記千歳署刑事第一課長佐藤正幸に引き継ぎ,同課長は,他の警察官と協議の上,これが鍵の形状からして配車センターの机かロッカーの鍵ではないかと判断し,これを渡されて確認のために同日午前11時30分ころ配車センターに到着した巡査部長白幡勝利は,責任者の承諾を得た上で照合を開始し,1階配車事務室の机とロッカーに合うものがないことが判明した後,○○○○から,2階女子従業員休憩室のロッカーキーに似ている旨教示されたことから,○○○○立会の下で2階女子従業員休憩室のロッカーと照合すると,被害者使用ロッカーのみを開けることができ,そのロッカーの鍵穴付近の刻印「HK2943」とも合致することを確認し,そのロッカーキーを同行した警察官に持ち帰らせ,同日午後零時から午後1時ころまでの間,その旨を佐藤正幸課長に電話で報告し,これを受けた佐藤正幸課長は,ロッカーキーの差押許可状を札幌簡易裁判所に請求し,そのころ,ロッカーキーを工藤信市警部に渡して1階車庫に戻させ,同日午後5時51分ころ,発付された差押許可状に基づいてロッカーキーが差し押さえられたことが認められる。
2 ロッカーキーの差押えの適法性及び証拠捏造の有無
工藤信市警部がロッカーキーを持ち出して被害者使用ロッカーと照合した点について,佐藤正幸課長は,公判段階で,被告人車両の検証に「必要な処分」として行えると判断した旨供述するが,検証とは,五官の作用により人の身体,物,場所の性質又は状況を実験,認識する強制処分であり,刑訴法222条1項が準用する同法129条所定の「必要な処分」とは,検証の目的を達するための合理的にして必要な範囲内の強制処分をいうのであって,前記検証の際にも,検証現場でのロッカーキーの写真撮影,採寸等で既に検証目的を達したはずであるから,これを検証現場とは無関係の遠隔地に持ち出してロッカー等と照合する行為は,必要な処分の範囲を逸脱した違法なものである。しかし,ロッカーキーは,既に適法な検証の対象範囲に含まれて捜査当局の事実上の保管下に置かれていたものであり,捜査官による令状主義に関する諸規定を潜脱する意図を窺わせる事情はなく,前記捜査官の違法行為もロッカーキー自体の形状,性質等に何ら影響を及ぼさず,本件事案の性質,重大性,緊急性,必要性等に照らし,その差押令状の発付を得られる見込みも高い状況にあって,これが事後的ながらも現に発付されたことなどを総合すると,ロッカーキーの差押手続は適法であって,その他一連の手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があるとはいえない。
そして,捜査官が前記検証までに既にロッカーキーを入手していて,その発見場所を被告人車両内と捏造するのであれば,その検証早々に手中のロッカーキーの所在場所を被告人車両内とする差押令状を請求すれば足り,ロッカーキーを検証現場から配車センターに持参してあれこれと照合に苦労した末に被害者使用ロッカーのものであることを突き止めたという形を整えなければならない理由も必要もなかったはずであるから,そのように捜査の適法性を疑われかねない経過を辿ったこと自体,捜査官がロッカーキーの発見場所を捏造していないことを窺わせる。被告人は,6月10日の被告人宅の捜索差押え後に被告人のバッグの中にロッカーキーの押収品目録が入れられていたが,これを4月14日に受け取ったことはない旨供述するが,ロッカーキーの適法な差押えが同日に了しているのは前記のとおりであって,その押収品目録のみを捜査官が長期間の隔たりを置いて隠密裏に被告人のバッグに忍ばせるべき事情も見当らず、その供述は信用できない。そして,被害者のロッカーキーがそのロッカーに当初から置かれていたのであれば,罪証隠滅工作の一環として被害者の携帯電話を被害者のロッカーに戻す一方で,新たな証拠となる被害者のロッカーキーを持ち出す危険を冒す理由も必要もないはずである。
したがって,被害者のロッカーキーは,被害者が被害者の携帯電話や後記遺品と一緒にバッグに収納して常に持ち歩いていた携行品の一部であって,これらが被害者殺害後に一括して犯人の管理下に置かれ,罪証隠滅のために順次手放され,ロッカーキーのみが被告人車両内に存在するに至ったものと合理的に推認できる。被告人は,公判段階で,被告人車両のスペアキーが平成11年暮れから平成12年2月ころまでの間は見当たらない状態にあったとか,被告人車両を無施錠で駐車していたこともあったとか供述するが,被告人自身,スペアキーのしまい忘れの可能性を認めている上,被告人以外の犯人が犯行に先立って被告人車両のスペアキーを入手して合い鍵を作っていたとか,単に投棄するだけで証拠隠滅として十分なはずのロッカーキーを被告人や捜査官に見咎められる危険を冒してまで被告人車両内に入れるとかは考え難く,そもそも,被告人を冤罪に陥れようとしたのであるならば,被害者のロッカーキーのみを被告人車両内に忍ばせる一方で,被害者の携帯電話を被害者使用ロッカー内に戻し,後記のようにその余の遺品を発見困難な森林内で焼損処分するというのも首尾一貫せず不可解であることなどからすると,ロッカーキーが被告人と無関係に被告人車両内に入れられた可能性はなく,ロッカーキーのみが被告人車両内に残された理由にしても,罪証隠滅工作の一環として被害者のバッグを開けて被害者の携帯電話又はロッカーキー自体を出し入れした際にロッカーキーがグローブボックス内に落ち,これに気付かないで被害者の携帯電話やバッグを持ち出して処分し,ロッカーキーのみが放置された可能性が高い。
そうすると,被害者のロッカーキーは,被害者の殺害に伴って犯人の保管下に置かれ,少なくとも被告人の関与を経て被告人車両内に放置されるに至ったものと合理的に推認できるから,被告人が犯人である可能性は極めて濃厚である。
第6 遺品残焼物
1 遺品残焼物の発見状況及び焼損時期
関係各証拠によれば,被告人は,「早来町民の森」と通称される早来町有林内の生活環境保全林作業小屋(ドングリハウス)を拠点に有志で自然観察活動を行っている「学校のドングリの子孫を残す会」の会員であり,同会の活動を通じて早来町民の森一帯に土地勘があるが,同会員○○○○は,4月15日午後3時30分ころから,その自然観察コースの下見をし,勇払郡早来町字北進157番地の町道早来本郷線から東方約9.3メートル(被告人の自宅から道なりに約3.6キロメートル)の作業道路路肩上( 以下「遺品残焼物発見現場」という。) で,不審な焼け跡を発見し,これが同会員○○○○及び同会代表○○○○にも確認された上,翌16日午前零時過ぎ,警察に通報され,これらが被害者携行のバッグに在中していたはずの被害者車両エンジンキー,眼鏡ケース,財布等被害者の遺品の残焼物 (以下「遺品残焼物」という。)であることが判明し,他方,勇払郡早来町安平79に位置する安平地域雨量観測所は,4月10日午後9時以降翌11日午前11時の間に合計56ミリメートルの降雨を観測したが,遺品残焼物には雨で流動した形跡が見られず,その現場の土砂からは灯油成分も検出されたことが認められる。
そして,○○○○は,早来町民の森の調査に行った4月13日午後5時過ぎの状況について,公判段階で,遺品残焼物発見現場付近に物の燃えたような跡はなかった旨供述するが,捜査段階では,その付近で降車していないのでたき火の痕跡の有無を確認していない旨異なる供述をしていた上,その警察官調書添付の図面上でも遺品残焼物発見現場の直近を車両で通過した形跡はないことからすると,同日は単に遺品残焼物に気付かなかっただけであると認められる。
そうすると,被害者の遺品は,降雨終了時である4月11日午前11時ころから発見時である4月15日午後4時20分ころまでの間に遺品残焼物発見現場で焼損投棄されたものと推認できる。
2 被害者の遺品の焼損可能性
関係各証拠によれば,被告人は,4月11日から同月13日までの日中は工場構内課で勤務し,4月11日午後8時ころから翌12日午前7時54分ころまでの間,同日午後8時20分ころから翌13日午前8時20分ころまでの間及び同日午後8時35分ころから翌14日午前8時22分ころまでの間,警察官2名に利用頻度の高い被告人車両の動きの監視を中心として行動確認されていたが,その間,警察官は,被告人に気付かれないことを第1条件として捜査用車両の駐車場所を選んだ上,一,二時間間隔で,被告人車両が被告人の自宅の駐車場に駐車されているかとか,国道234号線,栄町新栄線,道道千歳・鵡川線を被告人車両が通過しないかとかを監視したが,被告人が4月11日及び12日の夜に勇払郡早来町○○○○○○地所在の○○○○経営の喫茶店「○○○○」を訪れ,4月13日の夜に○○○○○○早来町店を訪れた程度のことが確認できただけであり,被告人は,4月14日午前8時30分ころから同日午後11時過ぎころまでの間及び4月15日午前9時ころから同日午後7時30分ころまでの間,警察官からの事情聴取又は伊東秀子弁護士との面会に対応していたことなどが認められる。
そうすると,警察官の監視が専ら被告人車両を中心とする間断的なものに過ぎなかったのであるから,被告人は,自宅から比較的離れて駐車している被告人車両を使用しないで抜け出した場合は勿論,被告人車両を用いた場合であっても,監視の目を逸れて生活圏である自宅から僅か約3.6キロメートル先の活動圏内として土地勘もある早来町民の森内の遺品残焼物発見現場までを優に往復し,被害者の遺品を焼損投棄することも可能である。
第7 被害者の死体焼損の供用物件等
公判調書中の北海道警察本部刑事部科学捜査研究所精密分析科長山形典夫の供述部分等関係各証拠によれば,航空機燃料には,灯油の留分を脱硫して製造される灯油型並びにガソリン及び灯油の留分を混合して製造されるガソリン・灯油型とがあり,前者は商用及び軍用に,後者は専ら軍用にそれぞれ使用され,灯油とA重油には軽油識別剤(クマリン)が1ppm添加されているが,灯油型の航空機燃料と灯油とは,ガスクロマトグラムの分析によっても,成分が同じである上,クマリン含有の有無も識別できずに判別できない関係にあり,被害者の死体発見現場で採取された液体,左用短靴1個,残焼物5個及び土砂,死体検視時に採取された残焼物1個並びに遺品残焼物発見現場で採取された土砂を資料とするガスクロマトグラフィーによる鑑定の結果,全資料から灯油の成分が検出されたことが認められるが,これが灯油と灯油型航空機燃料のいずれであるかまでは判別できない。
そして,関係各証拠によれば,千歳市○○○○○○○○所在のセイコーマート○○○○で販売していた赤色ポリタンク入り灯油は,その容器がセイコーマート系列店で一律であるが,その中身の灯油が近隣の株式会社○○○の小売り専用給油機に接続されている3号貯蔵タンクのものから仕入れられていたものであり,同タンクに2月3日の補給後から5月3日までの間に新たな灯油の補給はなく,セイコーマート○○○○は,2月4日の品切れ後の2月5日に同タンクからの灯油を仕入れたが,被告人は,3月16日午前零時1分ころ,同店で赤色ポリタンク入り灯油10リットルを購入し,4月14日,被告人の父親が借用している早来町○○○○○○○○○所在の○○○○株式会社社宅から同店で販売されているのと同型の赤色ポリタンク入り灯油約10リットルが押収され,警察は,4月15日,同店で赤色ポリタンク入り灯油10リットルを購入し,4月21日,前記3号タンク内からも灯油を押収し,鑑定の結果,後二者は類似するが,これらと前記社宅で押収された灯油とは異なるものであり,また,燃焼後に残る灯油の異同識別については,燃えた化学繊維等の混入による影響はほとんどないが,燃焼による蒸発や土壌による成分の加除等の影響があるために不可能であり,他方,被告人が3月16日に購入した赤色ポリタンク入り灯油の所在は現在まで不明の状態にあることが認められる。
しかし,関係各証拠によれば,被害者の焼損時間帯には,被告人車両内に被告人が3月16日に購入した赤色ポリタンク入り灯油及びライター1個があり,その助手席床マットから灯油成分も検出され,イエローハット千歳店のピット係○○○○及び○○○○は,3月20日,被告人車両のタイヤの空気圧チェックを行った際,その左前輪に焼けた物の上に乗り上げて焼け溶けたような痕跡を現認し,そのころには,○○○○も被告人車両の左前輪に傷があることに気付いていて,配車センター従業員らは,4月10日過ぎころ,被告人車両の前記スタッドレスタイヤを夏タイヤに換装したが,それまで装着していて4月17日に押収された赤色ホイール付きスタッドレスタイヤのうち1本の接地面に約9センチメートル×約10センチメートルの損傷があり,その原因について,日本自動車研究所工学博士○○○○は,物理的な損傷や灯油,硝酸,硫酸等による化学変化によるものではなく,明らかに溶融変質が認められるが,急ブレーキによる溶解でもなく,摂氏250度から290度の高熱を帯びた物体に数分以上触れていたものと推定していることなどが認められる。
また,被告人が3月16日に購入した赤色ポリタンク入り灯油について,被告人は,母親に道路拡張工事の対象となっている前記社宅をいつかは明け渡さなければならないと言われていたことから,その片付けをする際の暖房用に灯油を購入したが,その際,ポリタンクのキャップがゆるんでいて被告人車両助手席床に灯油が少しこぼれ,これを3月末ころまで被告人車両に積載していたが,被害者の殺害された後の3月中,職場のドライバーから,「警察がお前の写真を持ってガソリンスタンドの聞き込みをしている。お前が犯人だったんだな」などと言われ,灯油を持っているのが怖くなり,これを千歳市から早来町に向かう途中の市営牧場の手前道路脇に投棄したが,これが存在しないと怪しまれると思い直し,札幌市と千歳市の間の国道36号線沿いにあるセイコーマートで赤色ポリタンク入りの灯油10リットルを購入し,数日後,これを前記社宅に運び込んだ旨弁解するが,その一連の経緯を公判段階まで秘匿するなど供述の変遷は顕著である上,灯油の初期購入の理由又はその投棄の理由の発生時期の点については,社宅の明渡しが迫っていなかった旨の○○○○株式会社代表者○○○○及び被告人の父親○○○○の各供述,被告人からドライバーに犯人扱いされたと聞かされたのは4月に入ってからである旨の○○○○の公判段階での供述とも矛盾があり,しかも,通常は密封状態で販売されている赤色ポリタンク入り灯油が被告人の弁解するような運転中の振動程度で遺漏するというのは不可解であることなどからすると,これが被害者の死体の焼損に使用されて被告人車両の助手席床マットに戻された際に灯油が付着し,かつ,被害者を乗せていた助手席側の左前輪に灯油燃焼の関係での溶融変質が生じた可能性が高く,被告人の弁解は到底信用できない。
そうすると,被告人車両に積載されていた灯油及びライターが被害者の死体の焼損に使用された可能性は高い。
第8 被告人の被害者に対する殺害動機
関係各証拠によれば,被告人は,かねて周囲には隠密裏に○○○と結婚を意識しながら交際していたが,2月27日,○○○に自分と結婚する気がないことを知り,○○○が被害者に心移りするようになった後の3月6日ころ,二人の仲を疑う心中を元交際相手の○○○○や友人の○○○○に電話で話すようになり,3月8日夜には,被告人車両で走行中に○○○の車を見掛けて尾行し,同車が被害者の自宅の牧場に入り,○○○らしき人影と被害者とが話しているのを目撃して動揺し,○○に電話して泣きながら苦衷を漏らし,その直後に電話してきた○○○と千歳市○○○○○○○○○所在のローソン千歳○○○店駐車場に駐車中の○○○の車内で話したが状況の好転はなく,翌9日には,○○○○に電話を掛けて失意を伝え,○○○と被害者とがJR長都駅駐車場に駐車中の○○○の車内で交際を合意した3月11日夜,ドライブしながら同駐車場に○○○のものらしき車と被害者のものらしき車とが並んで止まっているのに気付いて動揺を覚え,翌12日昼ころ,○○○○の前で突然泣き出して○○○や被害者のことを話し,同日夕方,○○○○に○○○から連絡がないことを話し,○○○のことを気にしながら車で走行してローソン千歳○○○店駐車場に○○○の車を見つけ,○○○と千歳市美々無番地所在の新千歳空港工事用ゲート地崎口に駐車した○○○の車内で話し,○○○と別れることになり,翌13日夜,○○○○に電話で出社したくないとの心中を明かし,3月14日朝,○○○○に電話で○○○との訣別を伝えたが,他方,それまでに○○○の携帯電話のメモリーダイヤルを盗み見て被害者の携帯電話の番号が含まれる「は行」の電話番号をメモしていたことから,3月12日午前4時51分から3月16日午前7時40分までの間,3月13日午後7時48分から翌14日午前7時5分までの間の合計148回を頂点として総計230回も被告人の携帯電話又は○○○○早来栄町店の公衆電話から被害者の携帯電話又は自宅に掛けてはすぐ切るという嫌がらせ電話を繰り返すようになったが,3月16日朝を最後にこれをやめたことが認められる。
これに反して,被告人は,○○○との関係での執着心や被害者との関係での対抗意識もなかった旨弁解するが,初動捜査段階で,○○○に絡んでの自分と被害者の立場を秘匿した上,○○○○に対し,○○○からの依頼であるとして,警察での事情聴取の内容に探りを入れ,○○○○に対し,自分と○○○に関する相談事を口止めするなど捜査妨害とも受け取れる言動を展開し,被害者に対する電話回数という重大な点で供述を顕著に変遷させている上,前記依頼を明確に否定する○○○の供述と相反し,同僚○○○○に侮蔑的態度で接したと口走る被害者の人格に幻滅して対抗意識も喪失したとの点にしても,その前提となる侮蔑的態度の存在自体が○○○○自身によって明確に否定され,その他被告人の衝撃や落胆を肯定する○○○○,○○○○及び○○○○の各供述との矛盾や客観的な電話発着信記録との齟齬もあり,嫌がらせ電話回数が被害者の殺害された日に向かって減少傾向にあったとはいえ,これが被害者の殺害後に突如として皆無に転じたというのは余りにも偶然過ぎるなど全体として詭弁的色彩の強い不自然かつ不合理なものであって到底信用できず,一連の被告人による客観的な言動自体からすると,被告人が結婚まで意識した○○○を奪われたとして被害者に悪感情を抱いたことを合理的に推認できるのであって,これが殺意に発展するということは十分にあり得る。
第9 被告人による実行可能性
1 物理的な関係
関係各証拠によれば,被告人は,平成11年5月当時の身長が148.2センチメートル,平成12年4月26日当時の体重が48キログラムであり,被害者の殺害直後に何らかの外傷を負っていた様子も見受けられず,他方,被害者は,平成11年5月当時の身長が162センチメートル,平成11年12月当時の体重が約51キログラムであったことが認められ,また,○○○○は,公判段階で,握力は,被告人が十数キログラム,被害者が45キログラム位である旨供述し,被告人も,公判段階で,自分は握力が20キログラム位である旨供述していたことからすると,被害者は,被告人よりも,体格的に身長で約14センチメートル,体重で約3キログラム上回り,腕力的にも強かったことが窺われる。しかし,被害者を車両助手席に乗せて何らかの方便で油断させながら後部座席に移動して不意に背後から頸部を圧迫する物を施し,被害者が頸部を圧迫する物のみに手をかけて振り解くことに集中した場合を含めて殺害方法や被害者の抵抗方法の如何によっては,非力な犯人が体力差を克服して自分に無傷で被害者を殺害することは十分に可能である。
また,被害者の死体は,その焼損隠蔽に適するはずの路外北側奥の防風林界隈ではなく,人目に付き易い道路脇積雪帯に焼損放置され,その右手部が背部下になり,両足が股関節から大きく開脚し,被害者の左用短靴が死体から比較的離れた地点にある。すなわち,犯人は,車両から下ろした際にうつ伏せとなった死体を仰向けにひっくり返して引きずり,その短靴が脱げた可能性があることなどからすると,死体搬送力に乏しい非力な犯人の単独犯行であっても矛盾はない。
なお,○○○○の公判段階での供述によれば,3月16日の午後11時5分ころ及び同日午後11時25分ころ,恵庭市北島南8号線上に死体発見現場の方向を向いて2台の自動車が停車していて,この間,その2台が同所付近に居続けたことになるが,これを前提にしても,犯人が道路脇での被害者の焼損という極めて目立ち易い場面で約20分も焼損現場付近にとどまるべき理由や必要に乏しく,その2台の停車位置にしても,殊更に死体発見現場から後進又は遠回りして焼損現場を殊更に車両正面に見据えるようにしたことになるなど不可解であることなどからすると,その2台の搭乗者は,犯人が死体に着火して速やかに逃走した直後,○○や○○と同様にゴミ焼き等による炎上として単に傍観していたものと推認できる。
2 場所的な関係
被害者の殺害場所は,被害者生存の最終確認場所である配車センターと死体発見現場との位置関係,車両等移動手段,被害者の殺害時間帯等を総合すると,千歳市,恵庭市又はその周辺市町村内であると合理的に推認できるが,それ以上に屋内外や車両内外を含めて具体的な場所を特定できるだけの証拠はない。
そして,関係各証拠によれば,頸部圧迫による窒息死の場合には,その尿や糞便等が漏れたり,外耳口や鼻口から出血したりすることも多いが,そのような痕跡が被告人車両内から検出された形跡はなく,他方,被告人が3月16日午後11時36分ころにガソリンキング恵庭店で被告人車両に給油したことも明白である。しかし,個人差や糞尿血の体内保有量等の如何では窒息死に際して必然的に顕著な失禁や出血を伴うとも限らない上,これが着衣等に吸収され外部に痕跡が残らない程度であるとか,殺害から間髪を入れずに死体を車両外に下ろすことで車両内に痕跡が残らないことも十分にあり得るのであるから,そのような痕跡のない被告人車両内で被害者が殺害されなかったとはいえない。
なお,死体発見現場付近で被告人車両のタイヤ痕や被告人の足跡が発見されなかった点については,被害者の死体発見直後に車両で臨場した付近住民や消防署員らのタイヤ痕や足跡による消失又は判別不能ということで,犯人と被告人とを結び付ける指掌紋が検出されなかった点については,犯跡隠蔽のための払拭,指掌紋の検出不能又は指掌紋の対照不能ということで,それぞれ合理的に説明可能である。
3 時間的な関係
関係各証拠によれば,死体発見現場からガソリンキング恵庭店までの車両走行による所要時間は,日中の積雪のない状態で制限速度を遵守した場合に約23分ないし25分であり,また,被告人は,夜間及び冬道の運転に慣れていたものであり,3月16日午後11時36分にガソリンキング恵庭店で被告人車両の給油伝票を受領したことが認められる。そして,被告人は,一部道路に積雪があったにしても,交通量の少ない深夜帯に制限速度を遵守していたとは限らないのであるから,死体発見現場で3月16日午後11時5分ころに着火して同日午後11時10分ころまでに出発する限り,同日午後11時36分にガソリンキング恵庭店で給油伝票を受領することは優に可能である。
他方,被告人は,3月16日午後9時30分ころ,被害者と一緒に配車センターを出た後,駐車場のところで被害者と別れ,5分ないし10分後,自宅とは反対方向のビブロスに到着し,その駐車場に駐車した被告人車両の車内で考え事をしたり,同店内で地図や本を立ち読みしたり,文房具売り場の替え芯を見たりし,午後11時36分ころ,ガソリンキング恵庭店で給油し,翌17日午前2時か3時ころ,自宅で就寝した旨アリバイがあるとの供述をするが,関係各証拠によれば,3月16日夜間勤務のビブロス店員6名全員及び3月16日午後8時30分から翌17日午前零時までの間のビブロスでの買物客100名からの聞き込み捜査の結果,被告人の供述を裏付ける目撃者は存在しないなどアリバイは成立しない。
第10 結論
以上に認定したとおり,被害者の携帯電話の移動経路と被告人の足取りとの整合性,被害者の携帯電話の発信先と被告人の精通性との符合性,被害者の携帯電話の被告人による返戻可能性,被害者のロッカーキーの被告人車両内における存置状況,遺品残焼物発見現場と被告人の生活圏及び活動圏との場所的近接性,被告人による被害者の携帯電話,ロッカーキー及びその他遺品の一括的な取得可能性,被告人単独による実行可能性,被告人の殺害動機の存在等を総合すると,殺害の時刻,場所及び態様にある程度の幅を残さざるを得ないとはいえ,判示のとおり,被告人単独で被害者を殺害し,その死体を焼損したことは合理的な疑いを差し挟む余地なく認定できる。
よって,弁護人の主張は理由がない。
(量刑の理由)
本件は,殺人及びその死体損壊の事案である。その結果自体が極めて重大である上,犯行態様は,死因及び死体焼損から推認するに冷酷非道というほかない。その動機も,自分が社内恋愛で結婚まで意識しながらも夢破れた交際相手と付き合うようになった同僚被害者に対する嫉妬や憎悪であると合理的に推認できる。被害者は,自分の交際相手と被告人との男女関係を露ほども知らずに恋の恨みを買い,仕事上で頼れる先輩として気遣っていた被告人の手にかかって青春の謳歌も束の間に人生の終焉を迎え,生前の溌剌とした面影を微塵も残さない無惨な姿を路傍に晒されたのであって,その無念を言い表す言葉はない。
遺族は,難の予兆もなしに見るに耐えない焼死体と化した被害者との対面を余儀なくされた上,真相解明の難航に悲憤慷慨するしかなかったのであって,その悲嘆と心痛も哀れの極みであり,犯人に極刑を望むのも至極当然であるが,慰謝の措置は皆無である。その他被告人の証拠隠滅工作,応訴態度等をも併せ考えるとき,被告人の刑事責任は誠に重大である。
そうすると,被告人には,恋愛の結実が叶わなかった女心の悲哀や苦悩という限りでは同情の余地があること,実名報道による社会的制裁を受けたこと,交通違反による罰金前科以外に前科前歴がないこと,その他被告人の年齢,稼働歴,身柄拘束期間等被告人のために酌むべき諸事情を考慮しても,主文掲記の刑が相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役18年)
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