12.イトーヨーカ堂こども図書館



 街のあちこちで、昨日まであったビルが解体されて更地になる。そこを通りかかって「ここに何のビルがあったんだっけ?」と考えてみてもわからないことが往々にしてある。こうして町の文化がいつのまにかなくなって、なくなったことさえすぐには気づかない。ましてその「文化」を残しておくべきだったと気づくのは、はるか先になってからだ。それを何とかしたいと思ったひとりのお母さんとその仲間が声をあげた。もちろん彼女はそれが文化だからと思ったわけではない。いいところだから、自分が楽しく通ったところだったから、そこがなくなる事がたまらなかったのだ。「そこ」というのは秋田駅前のイトーヨーカドーの中にある『こども図書館』だ。

 思えば私もこどもが小さい頃はよくここへ通ったものだ。静寂を要求される公立の図書館では、大人もこどももなかなかリラックスして本を選ぶことができない。そんな時、イトーヨーカドーの「こども図書館」を知った。買い物に行くついでに親子でよく立ち寄った。いや、ここへ「こども図書館」へ行くついでに買い物をしたことも多かった。もちろん買い物をせずに図書館だけを利用して帰ってくることもあった。借りた本を入れて帰る「こども図書館」のロゴの入った黄色いビニールの袋、これをぶら下げている人と街ですれ違うと「同志よおまえもか」と内心笑みが浮かぶような心持がしたものだった。小さなテーブルと小さなイス。児童書や絵本の数は公立図書館にははるかに及ばないがここには2人のお姉さんの優しいまなざしがある。「こんにちは」とニコニコと迎えてくれて、「今日はお兄ちゃんといっしょじゃぁないの?」などと声をかけてくれる。子育て中の母親にとってほっと出来る空間だ。逼塞した毎日からのつかの間の脱出、訪れる親同士の会話が弾むこともあった。

 休日には夫にここで子守りを頼み自分は化粧品をゆっくり選ぶ。春のスカートを試着してみる。「こども図書館へ行く」ことは子育て真っ最中の私にとってはこどもの教育などという大義名分でなく、自分の息抜きの場であった。紙芝居や読み聞かせもあるし、絵本の貸し出し制度もある。工作と称して絵本のキャラクターを書いたり作ったりもあった。

 そしてこどもが成長し、いつとはなしにここから足が遠のいていた先日、ある女性から「こども図書館の存続を願う署名」依頼の手紙がきた。利用者の減少から、この「こども図書館」を閉鎖するという。Eさんと名乗るその女性とは面識があるという程度だったが、同じ「こども図書館」ファンとしての共感が沸いた。彼女の行動力にエールを贈るべく私も自分のHPで署名を呼びかけ、数名が応じてくれた。そして、やがてこの署名運動がマスコミにも取り上げられ企業を動かした。閉館日は2ヶ月遅れることになり、さらにはその後の存続も検討するという回答を彼女たちは得ることができたのだ。「叩けよさらば開かれん」。「いい所だからなくしたくない」それだけのごくあたりまえの思いを、静かに主張した彼女たち。そして拍手を贈るならイトーヨーカドーにも贈ろう。「一度決めたことを撤回するなんて面子にかかわる」と考える《いいふりこき》(秋田弁でかっこつけのこと)が多い中、今回の措置は偉い!消費者と企業はこうでなくっちゃ。そして「こども図書館」の期限なしの更なる存続を強く願う。

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