ANHK「なぜだろう−よい子の逆襲−(特別番組) 」の時間です。

A太君とB子さんは学校にいます。

先生が教室に入ってきたときに 「起立」 の号令をかけるのはA太君の仕事です。
そのあとの 「礼」 と 「着席」 もA太君の仕事です。

B子さんは、黒板を綺麗にしたり、教壇を磨いたり、花瓶の水を入れ替えたり、
入り口の扉に仕掛けた黒板消しを真白にしたりする役目の子を手配するのが仕事です。

二人とも、学級内ではとても重要なポストを担わされているのです。


(先生、栗色の髪を風になびかせて、落ちてくる黒板消しをかわしながら、スタスタスタと教室に入ってくる)

B子: はい、はーい、先生。

先生: あー、はいはい。悪いけれど、ちょっと後にしてくれる?

B子: ちぇ。

先生: えー。1時間目は音楽の授業ですけれども、その前に先生の話を聞いてちょうだい。

A太: だめだめだめ。ぼくはオペラの鑑賞会を楽しみにしてきたんだから。すぐレコードをかけてください。いますぐかけてください。 さっさとさーっとかけちゃってください、3200m分。

先生: まあ、聞きなさい。

A太: ちぇ。

先生: 知ってるかもしれないけれど、皆さんの教科書から 「天皇賞」 の授業が削除されました。

A太: えっ、それではタマモクロスの立場はどうなりますか!

先生: あのね、競走がなくなるわけではないのよ。

A太: ああ、そうか。

B子: はい、先生。

先生: あー、はいはい、どうぞ。

B子: 不思議なことにー、あたしー、それがどんな授業なのか知ってます。

先生: あらそう……でも、残念なことにもう教科書には載っていないのよ、それというのも最近の子供達の学力低下が問題視されて……

A太: なに、それ。どんな勉強なの?

B子: 『天皇賞への構造主義的アプローチ』

A太: コウゾー……、誰?

先生: ……まあこんな話を当事者であるあなたたちにして良いものかどうか は別として先生も非常に淋しいと感じてもおるしそれなりに補習などを行うことによってきたる春の天皇賞をだな……

B子: A太君、競馬新聞持ってる?

A太: うん。

(A太、持っていたスポーツ新聞をB子に渡す)

先生: 聞いておるのかね。

B子: まず、いまこうして時系列に沿って整然と並べられている 個々の競走成績のマスを、いったんバラバラにしてしまいマス……。

(B子、天皇賞の確定枠をハサミでジョキジョキときざみはじめる)

A太: あ、やめろ。

B子: いいから、いいから。

先生: はじまってしまった……。

A太: つ、つないで返してくれるよね、ちゃんと元に戻してよね!

B子: いいから、いいから。

(A太、B子の机の上に散らかった小さな紙片を1枚取りあげる)

A太: これは 「皐月賞」 だ……1着だよ。どの馬のヤツかというと……あれか。こっちは 「菊花賞」 の1着だぞ……あの馬だ。

B子: ふう。これで、ぜんぶ切り離したわ。

(個々の競走結果の紙片、それぞれの馬名の紙片、予想欄の紙片など、B子の机の上に散乱している)

B子: えー。こうしてできた、レースの切れはしの集合をじっくりと眺めてみます。

A太: あ、僕も思い出してきた。それをいくつかの仲間に分けるんだ。

先生: そう。上手に分類するには、お互いに対立するような要素に注目してみると良いのよ。

A太: Hペース/Sペース、重馬場/良馬場、勝ったレース/負けたレース、ロッタレース/ただのレース……

先生: もうないかしら?

B子: ダート/芝、クライアント/サーバ、ナリタトップロード/渡辺騎手、ライス/カレー……

先生: そうそう。そうして、それぞれの対立要素はいつでも 互いに交換できるものと考える。すると、その動的な状態においても変わることのない「軸」のようなものが だんだん見えてくるはずなのよ。

A太: うーん。

B子: うーん。

(よい子たち、腕を組んで机の上を睨んでいる)

A太: B子さん、何か判った?

B子: ぜーんぜん……。リーバイスのズボンで練習したときはうまくできたのに。

A太: なにが? なにがうまくできたの?

B子: えーと。あのね、リーバイスのズボンでしかう まくいかないというウワサを聞いた事があるわ。

A太: なにが? ねえ先生、構造主義っていったい何がわかるんですか?

先生: だからだねー、少し難解な点が多くてだねー、 「ゆとりある教育」 という指針にはだねー、そぐわないと判断されておるのだよー。

A太: うーん。

B子: うわー、みてみて。 成績の切れ端を並べ替えたりしてたら、すごい馬柱ができあがったわ。 ほら、G1を含めて重賞ばっかり9連勝もしてる馬よ!

A太: それ、テイエムオペラオーだ。

B子: あ、そーか。

先生: こらこら。キミたち間違えてないか、その馬柱の最後の 「阪神大賞典」 というのはナリタトップロードのものでしょう?

B子: いいの。交換可能だから。

先生: おいおい。ナリタトップロードが聞いたら怒るわよ。

A太: でも先生、いろいろ恣意的なんだって習いましたよね。

B子: 四位? 四位騎手が天皇賞に出てるの?

A太: え。なんだって、騎手と天皇賞との関係が恣意的って、つまりそれはどういうこと?

B子: なによ、質問してるのはあたしのほうよ。

先生: ……うーむ。学級崩壊と教科書再編。その果てにトーテムポールのように浮かび上がってきた最強の馬柱か。 この分析手法はなかなか新しいわ。この子たちの意識下には、まだ最強馬としての テイエムオペラオーが君臨している……

B子: うわー、みてみて。またすごい馬柱ができたわ。ほら去年の6月から重賞ばっかり9戦も連続して2着の馬よ!

先生: ……。

A太: へえ、どれどれ。宝塚記念2着、京都大賞典2着、天皇賞2着、JC2着、ステイヤーズS2着、有馬記念2着、 日経新春杯2着、阪神大賞典2着、産経大坂杯2着……すごいねえ。

B子: これはつまりー、あたしたちの意識の底にー、永遠の2着馬としての メイショウドトウが蠢いている……ということ?

先生: まあ……そうね。

B子: ふうん。

A太: ふうん。

先生: それにしても、どうしてあなたたちは、教科書から削除された授業の内容を知ってるのかしら?

A太: たぶん勉強が進んでたからだ。

B子: そうだと思うわ。

先生: 私が去年教えたからよ。キミたちは留年したのです。

A太: なるほど。

B子: なるほど。



KEIBAのある生活−「なぜだろう」台本集のメニューへ−


(c) 2001 tomfool@geocities.co.jp