帰去来辞
帰去来兮
  帰去来(かえり)なん いざ

田園将蕪胡不帰
  田園 将(まさ)に蕪(あ)れんとす胡(な)んぞ 帰らざる

既自以心為形役
  既に自ら心を以て 形(かたち)の役(えき)と為す

奚惆悵而独悲
  奚(なん)ぞ惆悵(チュウチョウ)として 独り悲しまん

悟已往之不諌
  已往(いおう)の 諌(いさ)められざるを悟り

知来者之可追
  来者の 追うべきを知る

実迷塗其未遠
  実に 塗(みち)に迷うこと 其れいまだ遠からず

覚今是而昨非
  今は是(ぜ)にして 昨(さく)の非なるを覚る

舟揺揺以軽揚
  舟は 揺揺として 以て軽く揚がり

風飄飄而吹衣
  風は 飄飄(ひょうひょう)として 衣を吹く

問征夫以前路
  征夫(せいふ)に問うに 前路を以てし

恨晨光之熹微
  晨光(しんこう)の熹微(かび)なるを恨む

                    作/ 陶 潜
|||||||||| 編集部より |||||||||| ( KimTatsu wrote )

この「帰去来辞」は四解六十句からなる長編です。 残念ながら、その一解十二句のみ紹介させていただきます。 (八句目の「揚」は、正しくは「風」偏です。 正しく表記できなかったことをお詫びいたします。)

大意は

さあ、故郷へ帰ろう。
わが田園は荒れ果てようとしている。
これまで、生活のために仕官の道につき、
自らの心を犠牲にしてきたことを、恨みがましく悲しむまい。
過ぎ去った人生を後悔してもしかたがないと悟り、
これからの在り方を考えよう。
道に迷ったことも、それほど長くはなかった。
役人をやめて家に戻ると決心したことは間違ってはいない。
故郷に向かう舟は軽やかで、風は衣服をひらひらと翻す。
何と快いではないか。
気が急いて、旅人に道のりを聞いてみたりするが、
明けきらぬ薄明かりがなんとももどかしい。

陶潜は役人生活が性格的にしっくりせず、 たまたま妹が死んでその喪に行くことを契機として、 役人をやめ故郷に戻る決心をしたという。 当時四十一歳である。

人生を否定し隠遁生活をするのでなく、田園生活の中で農民と ともに生き、最後まで人間としての正しい生き方を追い求めた 姿に、人々は強く惹きつけられるのでしょう。