当院における血液疾患の診療方針

 悪性リンパ腫の最新の診断及び治療 -H15.1.7勉強会より-

 2001年 REAL分類を改定した悪性リンパ腫の新WHO分類が確立された(表1)。悪性リンパ腫はB細胞リンパ腫、T およびNK 細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫の三つに大別されるが今回は頻度の高いB細胞リンパ腫に限って概括的にお話する。


A. 悪性リンパ腫の分類:(表1) 新WHO分類 2001
B. 悪性リンパ腫の治療
I. Aggressive lymphoma に対する化学療法
 Aggressive lymphoma に対する標準化学療法+自家骨髄あるいは自家末梢血幹細胞植
 びまん性大細胞性B細胞リンパ腫
II. Indolentg lymphoma に対する治療
 濾胞性リンパ腫
 マントル細胞リンパ腫
 節外濾胞辺縁層B細胞性リンパ腫(MALT)
 節性辺縁層B細胞リンパ腫
C. リツキサン療法
 キメラ型抗CD20モノクロナール抗体rituximab
 作用機序CDCC,ADCC直接の増殖抑制効果、apoptotic effect
  a. リツキサン単剤療法
  b. リツキサン、CHOP併用療法
  c. 治療成績
 リツキサン(rituximab) 療法の総括

A. 悪性リンパ腫の分類:(表1) 新WHO分類 2001   

I. B細胞腫瘍 B−cell neoplasms
1.前駆B細胞腫瘍 Precursor B−cell neoplasm
・前駆B リンパ芽球型白血病/リンパ腫 [Precursor B-lymphoblastic leukemia/ lymphoma]
2.成熟B 細胞腫瘍  
・B 細胞慢性リンパ性白血病 [B-cell chronic lymphocytic leukemia]
・小リンパ球性リンパ腫 [small lymphocytic lymphoma]
・B 細胞前リンパ球性白血病 [B-cell prolymphocytic leukemia]
・リンパ形質細胞性リンパ腫 [Lymphoplasmacytic lymphoma]
・脾辺縁帯リンパ腫 (+/−絨網細胞) [Splenic marginal zone B-cell lymphoma(+/- villous lymphocytes)]
・有毛細胞白血病 [Hairy cell leukemia]
・節外性粘膜関連リンパ組織型辺縁帯B細胞リンパ腫(MALT リンパ腫) [Extranodal marignal zone B-cell lymphoma of MALT type]
・節性辺縁帯B細胞リンパ腫 [Nodal marginal zone B-cell lymphoma]
・濾胞性リンパ腫 (grad 1,II,III) [Follicular lymphoma]
・マントル細胞リンパ腫 [Mantle cell lymphoma]
・びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 [Diffuse large B-cell lymphoma]
・前縦隔(胸腺)大細胞型B細胞リンパ腫 [Mediastinal(Thymic)large B-cell lymphoma]
・血管内大細胞型B細胞リンパ腫 [Intravascular large B-cell lymphoma]
・原発性体腔性リンパ腫 [primary effusion lymphoma]
・Burkitt リンパ腫/白血病 [Burkitt lymphoma/Burkitt cell leukemia]
II. T/NK細胞腫瘍 T-cell and NK-cell neoplasms
III. Hodgkin リンパ腫

B. 悪性リンパ腫の治療

I. Aggressive lymphoma に対する化学療法


 強力な第三世代の治療法と第一世代のCHOP療法の大規模比較試験で完全寛解率、生存期間に有意差なし。これが世界的趨勢である。


<Aggressive lymphoma に対する標準化学療法+自家骨髄あるいは自家末梢血幹細胞植>
 最近の多くの報告は全体として、標準単独療法に対して標準療法+自家移植療法の有用性は認められていない。

<びまん性大細胞性B細胞リンパ腫>
 限局期stage I,II; 病変部放射線療法CHOP 3クール
 進行期stage III,IV;
  初回;CHOP療法(8クール)治癒率30-40%(仙台血液疾患センタ−60-70%)
  難治例、再発例に対する自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は症例の選択が必要


II. Indolentg lymphoma に対する治療

 最近、最も問題になっているリンパ腫の一群、進行が緩徐で自然経過は年単位であるが治療に反応しがたく最終的な予後は悪いとされていた。
 CD-20 陽性でリツキサン療法(抗体療法)の対象となる。新WOH分類では
(1)B細胞慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)
(2)リンパ形質細胞性リンパ腫(lymphoplasmacytic lymphoma)
(3)濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma)
(4)節外性粘膜関連リンパ組織型リンパ腫(MALT, lymphoma)
(5)節性辺縁帯B細胞リンパ腫(nodal marginal zone B-cell lymphoma)
(6)脾性辺縁帯リンパ(splenic marginal zone lymphoma)
(7)マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphma)
などである。
 この殆どがわが国で保険適応となっている。

濾胞性リンパ腫
 進行は緩徐、しかし治癒は困難。限局性の場合は放射線療法。
 [進行期]
 grade 1,2 低悪性度リンパ腫瘍; 強力な治療法でも治癒しない。adriacin を加えて治癒しない。
 grade 3  低悪性度リンパ腫; 低悪性度リンパ腫;adriacin を含む治療で30-40%(血液疾患センター60-70%)。Rituximab が有効であるが単独投与で生存期間を延長するか否かは明らかでない

マントル細胞リンパ腫
 形態的には低悪性度であるが臨床的には徐々に進行治癒は少ない。
 標準的治療法では効果はあるが再発しやすく平均生存率は3年以下。
 自家造血幹細胞移植は標準的治療とはいいがたい。
 Rituximab 有効。

節外濾胞辺縁層B細胞性リンパ腫;Extranodal marginal zone B-cell lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue(MALT)
 成人、女性にやや多い。
 消化管、肺、唾液腺、甲状腺、胸腺などの節外臓器から発生。
 何らかの先行性炎症を基盤として発症。
   胃原発;Helicobacter pyroli
   唾液腺、胸腺病変:Sjogren
   甲状腺:橋本病などの自己免疫疾患との関与
 比較的限局し、臨床病期stage I,II.にとどまる場合が多い。
 10年生存率約80%。
 化学療法への反応は悪く、しばしば外科的治療や、放射線療法による局所的対応のみで治癒。
 胃MALTリンパ腫では除菌療法がfirst choice。
 染色体異常;trisomy 3,t(11:18)(q21;q21)。

節性辺縁層B細胞リンパ腫
  MALToma と同一細胞由来より進行性、骨髄浸を伴う。


C. リツキサン療法   

キメラ型抗CD20モノクロナール抗体rituximab
 
1. CD20が胞体内μ鎖を表出する直前のPre-B細胞から成熟B細胞まで発現。
幹細胞や終末分化段階の形質細胞には出現しない。
2. CD20は細胞表面から脱落せず、抗体結合による細胞内への移動もない。
血中にsoluble Form で存在しない

投与された抗体はロスなく高率に細胞と結合
3. CD20; B細胞リンパ腫の約95%に発現


作用機序CDCC,ADCC直接の増殖抑制効果、apoptotic effect


a. リツキサン単剤療法
米国、日本
375mg /m2 週1回x4
薬理動態解析
半減期445+361 時間

b. リツキサン、CHOP併用療法
@. 第一日に1rituximab ,CHOP 週一回 8回
DFS  50-60%
A. Czuczman の方法(図1)
CHOPの前に2回、途中に2回、CHOP終了後2回 Rituximab を投与。
rituximab は使用ガイドに従って行うことが重要、特にinfusion reaction に対する慎重な対策が重要。

c. 治療成績
 図1は国におけるリツキサン単独の治療成績。
 単剤での治癒は期待し難い。
 図2はCzuczmanらによるRituximab とCHOP併用療法の成績;長期の腫瘍進展阻止効果を示している。


リツキサン(rituximab) 療法の総括

 各種の血液細胞では、その分化段階において特異的抗原が細胞表面に表現される。この細胞の帰属を決定する抗原を表面マーカといい、このうち特に細胞の分化段階を決定する抗原を分化抗原という。この抗原を認識する抗体(単クローン性)のうち、同一抗原に対する抗体をまとめて(その集合)、CD(cluster of differentiation )と命名し、グループごとに番号を決定した。また現在では抗体そのものよりは、むしろその抗体が認識する抗原そのものを指す場合が多く、CD抗原とよぶ。
 CD20抗原はB リンパ球の各種分化段階で発現し、B 細胞リンパ腫の腫瘍細胞の殆どが陽性である。このCD20 抗原にたいするマウスとヒトのキメラ型モノクロナール抗体がリツキサン(rituximab)である。このリツキサンはCD20陽性のB細胞リンパ腫細胞に反応し、従来の抗がん剤と異なる作用機序(CDCおよびADCCおよび直接作用)で抗がん効果を発揮するものである。
 この薬剤が注目を集めるようになったのは、従来治療法がないとされ、ただ経過観察(watchful waiting) のみしか無かった低悪性度B細胞リンパ腫に有効であることが明らかにされたからである。特にリツキサンと化学療法の併用によって明らかな生存期間の延長を期待しうることが欧米において、相次いで報告されている。
 筆者は早くから化学療法による低悪性度B細胞リンパ腫の積極的治療の必要性を提唱し、その有用性を報告してきたが(5年腫瘍進展阻止率>60%)、今後、この薬剤とわれわれの化学療法の併用によって、飛躍的な治癒率の向上が期待されると思われる。
 しかしながら、現時点では、抗体療法については、化学療法に熟練した専門医といかなる副作用にも対応できる医療スタッフ、医療設備を備えていることが必須の条件であり、安易な投与は危険であることは明らかである。最近問題になっている肺がんの抗体療法に伴う高い薬剤死亡についても、このような慎重な配慮が行われていたかが問題であると思われる。
 骨髄移植以外に急性転化―死亡の転帰を防ぐことが不可能であった慢性骨髄性白血病についても最近、重大な福音がもたらされた。標識療法であるグリッベック療法である。
 われわれは10例の患者に本療法を行い、慢性期の100% に細胞遺伝学的完全寛解(Ph1陽性細胞100%陰性)促進期の一例に有効(治療途中)という画期的な成績を得た。しかしながらこの治療法については長期の成績は不明であり、完全寛解例からの再発も報告されており、いつ再発あるいは耐性が出現するか明かではない。慎重な観察とそれに基づく投与法の検討により、新しい治癒的治療の確立を目指すべき段階にあることを忘れてはならない。特にこの治療による治癒目標は骨髄の腫瘍細胞の消失にあることはいうまでもなく、骨髄検査も行わず、漫然と投薬だけを続けることは許されない。
 そもそもこの薬剤は国外、次いで、国内で、インターフェロン無効例のみについて治験が行われたもので、保険適応が認められた最初の研究発表会でも、使用はインターフェロン無効例のみに限るべきであると提案された。それは新薬の使用に当たっての慎重な配慮からであったと思う。
 しかし、その席上で、筆者は患者の悲惨の運命が迫っていること、インターフェロンの治療の限界も明かであることから、すべての症例に即座に使用を開始すべきであると強く主張した。
 そしてすべての患者を入院治療とし、慎重に治療法を検討し、今日の治療成績を得るに至ったのである。



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