この写真の野良猫が私に動物病院を諦めさせました。手先が不器用だの、性格が陰気だの、仏頂面だの、口下手だの、無口だのと、臨床に向かない理由をさんざん言われ続けてきましたが、決断したきっかけとなったのがコイツです。
野犬抑留所からもらってきた犬を学生4・5人で1頭ずつ外科実習に使いました。当時はシェパードの垂れ耳を矯正したり、ドーベルマンの尻尾を短くすることが流行していたので、まず局所麻酔で耳立て術と断尾術を施し、次週に去勢・避妊手術を行い、2週間後に全身麻酔して折れていない四肢の長骨で接骨手術の練習をし、最後に麻酔死させたままゴメンネ・南無阿弥陀仏・アーメンなどと唱えながら健体解剖をさせてもらいます。
実習用の猫を集めるのは容易でなかったようですが、そこは助手たちの腕の見せどころ、どこかで捕まえた数匹の野良猫を1匹ずつケージに入れた状態で学生たちの前に置いてくれます。
もちろん、教官の指示で厚い皮のグローブを嵌め、逃がさぬように、怪我をさせられないように、注意深く慎重に確保してケージから取り出し、すかさず手際よく麻酔注射を打って眠らせます。
でも、猫の外科実習で何をしたのか私は全く覚えていません。せいぜい去勢・避妊手術をしたくらいで健体解剖に供したのではなかったろうか。
そんな野良猫の何が私に決定的な決断をさせたのか。それは、クラスメートの中で私だけだったのです。
私だけ爪に引っかかれ、タラタラ血が流れました。見ていた皆にバカにされ、自分は向いてないんだなあと、つくづく思い知らされました。