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特集:低血圧と東洋医学(漢方薬・鍼灸)
[はじめに]
血圧は、血液量と血管径で決まる。
すなわち、低圧系である「容量血管」と高圧系の「抵抗血管」と、これに心臓調節因子が加わり、血圧が決定される。
これらの調節には、自律神経系が深くかかわり、鍼灸をはじめ東洋医学がもっとも得意とする領域であり、その治療効果が期待される。
[血圧保持とその機序]
起立時の血圧保持機序と血圧保持について、
血圧=心拍出量 X 末梢血管抵抗
心拍出量を循環血液量と考えると、血圧=循環血液量 X 末梢血管抵抗率 と考えられる。
つまり、血圧は血液量と血管径で規定されるわけである。
循環血液量は、低圧系である毛細血管、細静脈〜大静脈の「容量血管」血管径に左右される。
血液量の70%を占める「容量血管」が収縮すると容量血管中の血液が押し出され循環血液量が増え、静脈圧が上昇し、
心室拡張終末期容積が増大し、Starlingの法則により「心拍出量」が増加する。これを心臓の前負荷と呼ぶ。
これに変時作用である心拍数の増減と、変力作用である心収縮力の増減が加わり、「心拍出量」が調節される。
さらに、次の「抵抗血管」による後負荷も加わり、「心拍出量」が決まる。
すなわち、「心拍出量」は、「容量血管」の血管径による前負荷と「抵抗血管」の血管径による後負荷、および心刺激作用で規定されることになる。
末梢血管抵抗は、高圧系である「抵抗血管」の血管径で決まる。
「抵抗血管」は細動脈のことを指し、この血管径の調節には全身性調節と局所性調節がある。
全身性調節は、神経性と液性に分けられる。なお、高圧系には血液量の15%が分布する。
神経性調節
液性調節は、血管収縮物質と血管拡張物質による。
血管収縮物質には、ノルアドレナリン、バゾプレッシン(抗利尿ホルモン)、アンジオテンシンU、
血小板より放出されるセロトニンと血管内皮細胞にあるエンドセリンが知られている。
中でも、アンジオテンシンUは最も強力なもので、現在の降圧薬はこの作用を阻害するものが好んで用いられる。
起立時の血圧保持機序
起立
↓
横隔膜以下「容量血管」での血液貯留
↓
静脈還流量 減少
↓
左室充満圧 減少
↓
「心拍出量」 減少
↓
血圧低下
↓
「動脈圧受容体」 求心性インパルス減少
↓
「血管運動中枢(延髄)」 緊張性抑制解除
↓
遠心性副交感神経活動抑制+遠心性交感神経活動亢進
↓ ↓ ↓
心拍数増 心収縮力増 「抵抗血管」収縮
↓ ↓ |
「心拍出量」 増加 |
↓
↓
血圧保持
血管拡張物質には、キニン、プロスタグランデイン、血管作動性小腸ペプチド(vasoactive intestinal peptide:VIP)
および血管内皮細胞由来の血管拡張物質(endothelium‐derived relaxing factor:EDRF:NO)がある。
局所調節は局所の潅流圧に応じて作用する自己調節機能で、血管平滑筋によるものと局所代謝産物(代謝因子)によるものがある。
血管拡張性代謝因子には、酸素分圧低下、pH低下、炭酸ガス分圧上昇、乳酸、カリウムイオン、アデノシンやヒスタミンがある。
血管収縮代謝因子には、セロトニンやエンドセリンがある。また、局所温度も重要な調節因子である。
血圧調節
@急速血圧調節は、数秒間から数分間にわたるもので、圧受容体による神経性調節である。
なお、圧受容体の他に、頸動脈小体と大動脈小体と呼ばれる化学受容体があり、酸素分圧低下や炭酸ガス分圧上昇による刺激を受け興奮し、
迷走神経を介して血管運動中枢に伝わり、「抵抗血管」が拡張する。
この他、著しい血圧低下(50oHg)により脳組織に炭酸ガスが蓄積すると血管運動中枢が興奮し交感神経活動が非常に活発となり、
脳以外の全身の「抵抗血管」は完全に閉鎖する。これを中枢乏血反応と呼ぶ。
A中間型血圧調節は、数分間から数時間にわたるもので、血管収縮物質などの液性調節による血管径の変化を通じて行われる。
長時間型血圧調節は数時間から数日間に及ぶもので、ミネラルコルチコイドであるアルドステロン系による体液調節(血液量)である。
アルドステロンは、アンジオテンシンUとカリウムイオンによる調節を受け、副腎皮質より分泌される。
血圧測定
血圧は刻々と変化するもので、血圧測定においては約5分間安静の後、複数回測定するのが望ましい。
一般には、測定値の差が5oHg 未満を示した値を平均して血圧値とする。
また、診察室(外来)のみでなく、家庭血圧や自由行動下の血圧値も参考にする。
測定には、聴診法で行う水銀血圧計や、振動法で行う精度検定を経た自動血圧計を用いる。
マンシェット(カフ)は、成人では幅13p、長さ22‐24pのものを用い、小児には小児用を、肥満者では大腿用のものを使用する。
水銀血圧計ではコロトコフ音で測定する。
第T音を収縮期血圧、第X音を拡張期血圧とする。
通常は、あらかじめ測定した触診法での収縮期血圧より20‐30oHg高いところまですみやかに加圧し、
減圧を1心拍あたり2oHg下げながら測定する。
測定部位は通常は心臓と同じ高さにある上腕とし、できれば左右で測定する。
膝下動脈で測定する場合には、大腿に大腿用マンシェットを巻いて行う。
体位変動による血圧変化をみる場合には、臥位、座位、立位で測定する。
上腕で測定した値では、120/80oHg未満を至適血圧、140/90oHg以上を高血圧とする。
家庭血圧は、一般には、起床後、排尿排便を行った後、朝食前の安静座位で行う。
自由行動下での血圧平均値とともに、135/80oHg未満は正常とする
(日本高血圧学会・高血圧治療ガイドライン)。
低血圧
収縮期血圧100mmHg以下を低血圧とする。
1)本態性低血圧
基礎疾患のないものを本態性低血圧と呼び、そのうちめまい、立ちくらみなどの症状がないものを体質性低血圧と呼ぶ。
本態性が低血圧の約9割を占める。
2)二次性低血圧
基礎疾患がある場合を二次性低血圧とする。
二次性低血圧の主要な基礎疾患
疾患名 特徴
純粋進行性自律神経失調症
(pure progressive autonomic failure:PAF)
・自律神経症候で終始し、長期経過しても運動神経症候はみられない。
・Shy-Drager症候群に比べて節後性障害所見が強い。
・40-60歳以降に発症。
・予後は良好。
進行性神経変性疾患
(多系統萎縮症:multiple system atrophy) ・脳脊髄の自律神経系神経細胞の萎縮をきたす原因不明の神経変性疾患。
・頭部CTやMRIで小脳・橋萎縮や、線条体に所見を認めることが多い。
・家族性、遺伝性はなく、中年以降に発症。
・発病は緩徐で、経過は進行性。
Shy-Drager症候群(SDS)⇒ 自律神経症候が強い病型。
オリ−ブ橋小脳萎縮症(OPCA)⇒ 小脳症候が初発、発病後2-3年で自律神経症候。
線条体黒質変性症(SND)⇒ パーキンソン症候が初発、発病後2-3年で自律神経症候。
パ−キンソン病 ・黒質ドーパミン性神経細胞の変性により、線条体ド-パミンが低下。
・錐体外路症状(パ−キンソン症候)を示す
・進行に伴い、自律神経障害や精神症状の合併頻度が増す。
・頭部CTやMRIでは異常を認めない。
家族性アミロイドポリニュ−ロパチ− ・下肢末梢から始まり上行する感覚優位の多発性神経障害。
・温痛覚鈍麻が進行し、後に自律神経症候を伴う。
・中期には触覚・深部知覚障害も加わり、四肢、体幹に広がる。
・四肢の筋力低下・筋萎縮も著明となる。
・末期には、心伝導障害を伴う不整脈や、心不全、腎障害などがみられる。
自律神経症候:起立性低血圧、排尿障害、陰萎、発汗低下、体温異常、便秘、交代性Horner症候群
小脳症候:協調性運動障害、断綴性言語(構音障害)、振戦、筋緊張低下
パ-キンソン4大症候(運動神経症候):無動症、静止時振戦、筋固縮(筋強剛)、姿勢反射障害
その他、内分泌疾患(糖尿病、副腎不全、カテコラミン分泌異常など)、心疾患(大動脈弁狭窄症、閉塞性肥大型心筋症など)、
重症な全身疾患(悪性腫瘍、敗血症、栄養不良など)等があり、さらには血管拡張薬、抗パーキンソン薬、向精神薬などによる
薬剤性にも注意が必要である。
メタボリックシンドロームとして最も重視されている糖尿病では、進行すると動脈硬化症による腎障害・網膜症とともに自律神経障害が起こる。
自律神経障害の結果、末梢の血管収縮が十分に起こらないために起立性低血圧が生じる。
食後低血圧は、食後の内臓血管拡張により心臓への静脈還流量た減少するために生じるといわれる。
Shy-Drager症候群や、寝たきりの高齢者で食事の際に誤嚥を避けるために身体を起こして食事する場合にみられる。
3)起立性低血圧
起立性低血圧は、臥位から座位や立位になるときに収縮期血圧が20mmHg以上下がるものをいう。
診断基準は確立されていないが、一般に用いられる起立試験(Schellongテスト)をもとにすると、
10分以内に血圧が30/10mmHg以上低下した場合を陽性とする。
起立性低血圧には、糖尿病など原因疾患の明らかな二次性のものを除くと、
神経調節性失神(Neuraly Mediated Syncope:NMS)と原因不明である本態性起立性低血圧とがある。
鑑別診断には、テイルト試験(head-up tilttesut:HUT)が有用とされる。
これは、足台のついた傾斜台を用い受動的に60°-80°起立位として、心拍と血圧を経時的に観察し、
失神あるいは前失神症状を誘発する試験である。
本態性起立性低血圧は、起立早朝(5分以内)に収縮期血圧20-30mmHg以上の低下、拡張期血圧10-15mmHg以上の低下を認め、
回復に数十秒から数分かかる。これは、図1の代償機転(1-3)が障害されているために生じる。
神経調節性失神は起立早期の血圧低下から一時的に回復した後、心拍増加後、血圧低下と徐脈が出現し失神に至る。
したがって、神経調節性失神は本態性起立性低血圧よりも遅く(10-15分後)に出現する。
血圧の数値による診断基準はなく症状の出現で陽性とする。
これは、容積が減少した心室に陽性変力作用が加わると心過動状態となり、求心性無髄性迷走神経に連続する動脈圧受容体の1つである
左室の圧受容体が発火する。これにより、逆転現象が生じ、求心性インパルスが増え血管運動中枢が抑制され、逆の現象を招き遠心性交感神経活動が抑制され副交感神経活動が増し、徐脈、心抑制、血管拡張となり失神をきたす。
この反射を、Bezold-Jarisch reflex(べゾルト−ヤ−リッシュ反射)と呼ぶ。
失神時には、ノルアドレナリンは変化せず、アドレナリンの著明な増加を認める。
つまり、起立直後の血圧低下に対する交感神経の過度の緊張が起こり、代償機転が破綻し失神が惹起される。
現象的には起立後心拍増加とともに血圧がいったん持ち直し、その後に失神を生じることになる。
また、神経調節性失神は3つに分類される。
いずれも頚動脈、大動脈弓、左室などにある圧受容体からの求心性インパルス増加により、血圧低下を招く。
状況失神としては、過度に運動した後にみられる運動後低血圧もある(運動失神)。
神経調節性失神のうち思春期にみられるものを起立性調節障害(orthostatic
dysregulation:OD)と呼び、区別する場合もある。
中学生の約10%にみられ、小児科外来での心身症の約半数を占めるといわれる。
治療
体質性低血圧の場合には、治療の必要はない。
本態性低血圧では、対症療法を中心とし、生活習慣の改善を行い、基本的には薬物療法の必要はない。
二次性低血圧では、基礎疾患の治療を優先する。必要であれば、抗不安薬や昇圧作用のある薬剤を用いる(表4)
1)一般療法
症状を目安に対症的に行う。一般的な注意点としては下記のようなものが挙げられる。
@規則正しい生活をする
過労を避け、十分な睡眠をとる(自律神経安定化)。
A水分を多めにとる
水分とともに食塩も適度に摂取する。高齢者では心不全に気をつける(「容量血管」)循環血液量の維持)。
Bバランスの良い食事
偏食を避け高たんぱく・高カロリー食とする。ただ、炭水化物の過剰摂取は食後性低血圧を増強する。
C食後のカフェイン
お茶やコーヒーなどからカフェインをとる。耐性が生じるので、朝食時にとるだけでも良い(カフェインはアデノシン受容体拮抗作用を介して血管拡張作用をもつアデノシンの作用を遮断し、食後性低血圧の改善に役立つ)。
D動作はゆっくり行う
睡眠時にはやや頭部を高くし、起き上がるときには足首の運動などを行い、血液循環を刺激してからゆっくりと起き上がる(急な動作での静脈還流量低下の防止)。
E運動して筋肉を鍛える
水中ウォーキング、エアロビクスなどの有酸素運動を、自分のペースに合わせて徐々に増量する。運動療法は、骨格筋量を増加させ循環血漿量を調節しやすくする(「容量血管」調節)。睡眠の質にもかかわり、自律神経の安定化にも寄与する。
F温度差に注意
部屋を暖め過ぎたり、冷やし過ぎたりせず、戸外との温度差をあまりつくらない。人ごみの中や高温多湿となる夏期は症状が増悪するので、外出時には注意する(血管の局所調節因子として、局所温度変化は重要である)。
G原則として、血管拡張を招くアルコールは避ける
特に排尿失神のある場合はアルコールを控える。
起立性調節障害(OD)の診断基準
大症状
A 立ちくらみ、あるいは目まいを起こしやすい。
B 立っていると気持ちが悪くなる。ひどくなると倒れる。
C 入浴時または嫌なことを見聞すると気持ちが悪くなる。
D 少し歩くと動悸あるいは息切れがする。
E 朝なかなか起きられず、午前中調子が悪い。
小症状
a 顔色が悪い。
b 食欲不振。
c 強い腹痛を時々訴える。
d 倦怠あるいは疲れやすい。
e 頭痛をしばしば訴える。
f 乗り物に酔いやすい。
g 起立試験で脈圧減少16oHg以上。
h 起立試験で収縮期圧低下21oHg以上。
i 起立試験で脈拍数増加1分に21以上。
j 起立試験で立位心電図のT波0.2mX以上の減高、その他の変化。
判定
大症状が3つか、大症状2+小症状1、または大症状1+小症状3以上で、器質性の心臓病や貧血などがなければ、ODと診断する。
A〜E、a〜fには、「しばしば」「ときどき」「たまに」の指標がそれぞれ規定されており、それに従って陽性かどうかを判定する。
昇圧薬の種類と特徴
薬品名 (商品名) 特徴と適応
Midodrine プロドラッグ。選択性?1受容体刺激作用による末梢血管収縮作用。正常血圧に影響 (メトリジン) しない。臥位高血圧に注意し、これが持続する場合は中止する。
<?1選択的刺激>
Amezinium metilsulfate ノルアドレナリンと競合して末梢神経終末に取り込まれることで、ノルアドレナリンの再取 (リズミック) 込を抑制し、交感神経を亢進させる。透析施行時の血圧低下の改善。
<?、?刺激作用>
Dihydroergotamine 静脈壁緊張増加作用。
(ジヒデルゴット) 神経末端の?1刺激、?2遮断作用。
Droxidopa パーキンソン病治療薬だが、体内でノルアドレナリンに代謝され、また中枢性にも交感神
(ドプス) 経活動が亢進し、血圧上昇に有効。Shy‐Drager症候群などに用いる。
Carteolol ?受容体の感受性を高める。?1選択性のない内因性交感神経刺激作用のあるものが
(ミケラン) 用いられる。
Pindolol 交感神経?受容体の過緊張から反射性に迷走神経の緊張をきたし、結果的に徐脈と低
(カルビスケン) 血圧を生じる神経調節性失神が頻発する場合には有効である。
Clonidine 末梢性に?2作動薬として作用する。
(カタプレス)
Indometacin プロスタグランデインの産生を抑制し、ノルアドレナリンの感受性を高める。
(インダシン)
交感神経受容体
?1受容体 : 交感神経シナプス後部に分布→血管収縮、膀胱収縮、消化管弛緩
?2受容体 : 交感神経シナプス前部に分布→伝達物質(ノルアドレナリン)の遊離量抑制
?1受容体 : 心・腎に分布→心拍増加、レニン・バゾプレッシン分泌
?2受容体 : 気管支・末梢血管に分布→気管支拡張、血管拡張、インスリン分泌、糖新生
内因性交感神経刺激作用 : 内因性ノルアドレナリンが少ない時に交感神経刺激作用を示す
なお、弾性ストッキングやレオタード着用が、容量血管での血液貯留を抑え効果的な場合がある(「容量血管」調節)。
神経調節性失神(血管迷走神経性失神)では、長時間の立位は避け、前駆症状(眼前暗黒感、不快感、暑い感じなど)を認知したら、即座にしゃがむ(Squatting)よう指導する。Squattingには、下肢血管の圧迫による血圧上昇、転倒時の外傷予防の効果がある。
神経調節性失神(頚動脈洞過敏症候群)では、動作はゆっくりと行い、棚の上にあるものを取る際や、運転時に後ろを振り返る際に急激な体位・姿勢の変換をしないよう注意する(動脈圧受容体からの求心性インパルス発火防止)。
排尿は神経調節性失神(状況失神)の誘因であり、座位で行いゆっくり立ち上がるなど、注意しながら行う。関連して、重いものを運ぶ際や昇段は息止めや過呼吸を伴い血圧が変動しやすいので控える。
2)薬物療法
本態性低血圧や体質性低血圧は予後が良いことが知られ一般療法を根気よく行うが、症状に応じて、@自律神経の安定、A血管収縮、B循環血液量増を目的に薬物療法を行う。
抗不安薬は、精神を安定させ自律神経の過度の緊張を緩解させる。全身倦怠、腹部不快感、頭重・頭痛など不定愁訴の多い場合、etizolam(商品名デパス、他)などを用いる。
症状が強く重篤な立ちくらみや失神がある場合には、血管収縮作用のある薬物を投与する(表4)。ただ、これらの薬物は心収縮増強作用があるため、動悸や不整脈を伴うことがある。少量から漸増して使用する。副作用は比較的多く、頭痛、嘔気、排尿障害、眼圧上昇などがある。甲状腺機能亢進症や褐色細胞腫では禁忌である。
神経調節性失神では、表4にあるように内因性交感神経刺激作用のある?遮断薬が用いられるが、?1選択性のあるものも心過動状態を抑制する意味で用いられることもある。
重症起立性低血圧では、循環血液量増加のため、保険適用外であるがミネラルコルチコイドであるfludrocortisone(商品名フロリネフ)を用いることがる。これは、Na+(ナトリウムイオン)を保持する他、交感神経受容体の数を増加させる。徐々に増量するが、高齢者では臥位高血圧、心不全、浮腫に注意する。
さらに、Na+チャネル遮断による心収縮力低下と、抗コリン作用による血管収縮増強、心拍増加作用を期待して、抗不整脈(ClassA)が使用されることもある。
失神時に痙攣を認める場合には、一過性に高度の徐脈、心停止を発症している可能性があり、ペースメーカー治療を検討する。
[おわりに]
以上、血圧は「容量血管」と「抵抗血管」の血管径で大きく規定され、その調節には自律神経や内分泌(液性調節)、さらには局所循環が深くかかわる。
この破錠が低血圧をきたすことから、これらの領域、特に内部調整のかなめである自律神経機能においては、部分(局所)ではなく全体の調整にちょうじる鍼灸治療に対する期待は大きい。表1に示した疾患や神経調節性失神の対症療法をはじめ、糖尿病においては微小循環改善を通じてインスリン抵抗性や腎障害・神経障害の改善が見込まれ、鍼灸による積極的なアプローチが望まれる。
低血圧症に対する鍼灸治療の効果と作用機序について
[はじめに]
高血圧症の鍼灸治療に関しては、治療効果やそのメカニズムについて臨床的意義からも多くの報告がなされている。一方、鍼灸治療が低血圧症に効果があることも伝承的に知られている。しかしながら、十分な検証が成されておらず、その機序についても不明な点が多い。ここでは血圧調節と低血圧症の成因について概説した上で低血圧症に対する鍼灸治療について考察を試してみたい。
[血圧の調節]
心臓が血液を動脈に拍出することで、動脈血管内には血圧が生じる。一般に心臓の収縮期に対応する最高値を収縮期血圧、拡張期に対応する最低値を拡張期血圧といい、平均血圧は次式によって求められる。
平均血圧=(収縮期血圧−拡張期血圧)/3+拡張期血圧
この平均血圧は心拍出量(1回拍出量×心拍数)と血管全体の抵抗(総末梢血管抵抗)の積である。つまり、血圧を上げるためには少なくとも心拍出量または総末梢血管抵抗のいずれかを上げる必要がある。逆に血圧を下げるためにはどちらかを下げる必要がある。
生体は体位を変え、運動をすることで、各臓器の血流を分配し、変化させる。この際に生じる動脈圧の変化に対して、圧受容器反射が速やかに作動することで動脈圧は一定の範囲に保たれる。例えば、立位の際には下半身に血液が貯留し心臓へ戻る血液量が著しく減少し、心拍出量が減少するため血圧は低下する。この血圧の低下に対して、頚動脈洞と大動脈弓の血管壁にある動脈圧受容器(arterial baroreceptors)の活動は減少する。圧受容器からの情報は舌咽神経と迷走神経を介して延髄の心臓血管運動中枢へ伝わり、その結果、心臓や末梢血管を支配する交感神経活動は増加し、一方、副交感神経活動は減少して、心拍出量の増加や血管収縮といった反射性循環反応が起こる。その結果、血圧は正常範囲に回復する。この動脈圧受容器による神経性調節は非常に早く、数秒で作動するのが特徴である。
また、心臓や肺の静脈に存在する心肺圧受容器(cardiopulmonary baroreceptors)は静脈系や心房の内圧を感受して、循環血液量を調節する。頚動脈洞と大動脈弓にある動脈圧受容器が高圧受容器であるのに対し、静脈系は低圧であるので心肺圧受容器は低圧受容器とも呼ばれている。起立時の下肢血液の貯留によって、心房への静脈還流量が減少した場合には、心肺圧受容器の活動は低下する。心肺圧受容器の情報は迷走神経を介して延髄の心臓血管運動中枢へ伝わる。心肺圧受容器の活動低下は反射性に腎臓の交感神経活動を強め、レニン・アンギオテンシン系の活性上昇を介して副腎皮質からのアルドステロンは腎臓の尿細管におけるNa+(ナトリウムイオン)や水分の最吸収を促進して循環血液量を増加させ、低下した血圧を正常に戻す。さらにバゾプレッシン(抗利尿ホルモン)も血圧低下に対して腎臓の尿細管における水分の再吸収を促進して循環血液量を増やすことで血圧を上昇させる。長期にわたる動脈圧の変化に対する循環調節は副腎髄質から分泌されるノルアドレナリンやドーパミン、アドレナリンや上記のレニン・アンギオテンシン系から生成されるアンギオテンシンU、バゾプレッシンなどの液性因子によって主に行われる。血圧の長期的調節にはこれらの液性因子に加え、腎臓による体液量の調節が重要となる。腎臓は動脈圧が長期にわたって上昇すると尿量を増やして循環血液量を減らす。この循環血液量の低下により血圧は低下する。動脈圧の長期の調節には液性因子と腎臓での尿量調節による調節系が大きくかかわっている。
続く、