あの頃出会った 全ての歌と

いつも聞いていた、うたうたいの人たちを心に浮かべて

 モウ、堪忍シテ。足利義満ガ偉イノハ、分カッタカラ。トニカク眠インヨ。

 昨夜ハ、友達ノ当番マデ代ワッテ、コンビニノバイトデ徹夜シタンヤカラ。

 ソレガ終ッタソノ足デ、ヴォイストレーニング行ッテ、夕方カラハココに来テ

ルヤロ…。モウ、頭ガオ先ニ布団ノ中。『オヤスミナサイ』

「おい、アヤ坊がまた寝ちまったぜ」

 「相変わらず、疲れた、オヤスミ、こっくん。だもんな。」

 「こいつ、無理しすぎなんだよ−いっか。そっとしといてやろうぜ。あのシャコーキ先生に見つからなきゃいいんだから」

 2人は、一番後ろの席の女の子を振り返るのを止めた。そのとき彼女は、寝息を確かに立てていた…。

 が、授業が終わり再び振り返ると、そこに鞄とノートを残して、少女は消えていた。

『室町PUNKS!』

 目エ覚めたら、なんやしらん、橋の下やってん。どこやろなー思てたら、何や川の上の方のなだらかな山に見覚えある。あれって大原の辺りの山と違うやろか、と一瞬思ったけど、何で、私が京都に帰って来てるわけ?

 それよりなにより変なんは、−ここ恐らく三条大橋辺りの河原やと思うけど、バスやら自動車の音が全然せえへんこと。代わりにセカセカ過ぎていく足音が、凄まじい。

 半ば呆然としている私の前に、急に。「そこなるオナゴ、いかがいたした」

「え、うちのこと?」

「おうさ」

「いやア、けったいな恰好したはるウ」

「小癪な、せっかく心配してやっているのに!名を名乗れ」

「モリ アヤです」

「モリ…。いかなる字を充てるのじゃ?」

「こうですウ」

 わたし、このけったいなおじさん−歴史コスプレとでもいうんやろか?着物きて、長い刀差してるんよ−に、歴史の教科書の裏表紙を指し示した。

森 阿弥−これが私の名前。

「立派な字じゃな、が、オナゴ。これはモリアミと読むのが正しいのじゃ。『阿弥』と申すのは、『ナムマミダブ〜』の阿弥陀仏から取ったもの故、アヤと読むことはないんじゃ。ま、よいわ。そなたは、手負いを負うておる上、面白そうな身なりをしておる。ちょっとついてまいれ。」

 あのー、おじさん?、と口を挟む隙間もない早口でまくし立てるこの人を、呆然と見てるだけの私やったけど、疑問−というよりツッコミ入れたくなることがたくさんある!ひとの名前勝手に変えるし、「面白そうな身なりしてる」て、わたし刀差してるおっちゃんに言われたないわ!−そりゃさ、私、ジーンズのパンタロンばっかし着てるし、髪も右耳の上あたりでくくって後ろに垂らしてるし、なにより155cmしかあらへんから、とても19才に見てもらえへんのは確かやわ。それでもオッチャンよりは、ましや思う。

そのつもりが、どうも様子が変なのが気になりだした。上の橋歩いてる人も、釣り糸垂れてる子供も、みんな着物着てて草履履いてる。−やっぱり私が浮いてる?というか…。これ絶対遊びなんかじゃない。私、単に京都に来てしまっただけやのうて、時代も変わってしまってるらしい。

 タイムスリップ−そんな言葉が浮かんだけれど、まさか私がそれに引っかかるとはな…。ま、私は高校の授業中に居眠りしてしもうてたんやから、タイムスリープて言うんかも知れへんけれど。

 「だんな様、妙な形(なり)した者がまた一人おりましたので、連れてまいりました」

「ああ、袋物のような着物を着た者たちのひとりじゃな?」

「御意。この者にございます」

「なんだ、小娘ではないか。その方、いくつじゃ」

「19です」

ちょっと”小娘”と言われたのが小癪に触るけど、どうも様子がつかめないので素直に答えておいた。が、そのまた反応が、ムカっとくる。

「19…、にしては、オボコいな。ま、強がらずに本当のことを申せばよいのじゃぞ」

 余計なお世話やわ、よっぽど言い返そうかを思ったけれど、確かに幼く見えてしまうかもしれない−そういえば、ここの人(というのもへんやな。「この時代の京都の人」か)は、みんな大柄で、筵しいて座ってもの売ってる私と同い年ぐらいの女の子も、10cmは見上げなければならない人が大半だったっけ。

「別に、そなた達をどうこうしようという意図はないのだ。安心するがよい。そなたたちが、自分たちが何者であるかさえはっきりいってくれれば、京から立ち去ってもらうだけのことじゃ」

「が、困ったものですな。この者と同類の者たちは、『未来から来た』などと夢うつつことを言い放っておりますからな」

 私はなるべく気づかれないようにしながらも、聞き耳を立てる。同じように流れて来た人がいるらしい。

「いやはや、間者の類でなさそうだからいいようなものの、困ったものでございます」とは、オトノサンの一番手前に控えているお爺さん、夕方の日差しのせいか、彼の目尻に刻まれた皺は、クッキリしていた。

「ま、よいわ。爺、この者に湯漬けでも食わせて、牢に案内してやれ」

「いくらなんでもそれは…。か弱きオナゴですぞ。」

「ハハハッ、男どもと一緒に入れるとは申しておらんわ。今日もう一人、女子が見つかったから、そこに2人入れておいてやれ」

                            (第二章に続く)

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