宮廷貴族のステキヘアー

新しい髪型にチャレンジ(1770年)

 「またこのネタかよ」

 「ビクトルさん、なんの話?」

 「いや。しかしすげえ頭だな……巻き毛が連装ロケットランチャーみてえだ。どれだけ髪の長さが必要か知らんが、これじゃ洗うのとか大変だろ。生活に支障が出るな」

 「ウィッグ」

 「? 酔っ払ってんのか?」

 「あなたと一緒にしないでください。鬘(カツラ)のことです。一般に知られている、いわゆる宮廷貴族風のドタマは男も女もみな、基本的に鬘と付け毛(ヘアピース)を駆使したものです」

 「ヅラ? 当時のヅラってこんなやつか?」

着脱自在なカルトー将軍のヅラ

 「まあ、だいたいそんなヤツです。当時、ここまで着脱自在な鬘があったかどうか定かではありませんが」

 「違っても、それはいつもの長谷川マジックってことでいいんじゃない? で、この人もヅラなのかな?」

若き日(士官学校時代)のダヴー元帥

 「お前、怖いモン知らずだな……」

 「鬘ではないでしょう。当時推定15歳。現在のわたしより年下ですから……たぶん自前かと」

 「多分なのかよ」

 「(無視して)鬘の流行は、ルイ十三世の時代(在位1610-1643)まで遡ります。ルイ十三世は酷い若ハゲで、18歳から頭頂部に侵攻を受け、22歳頃にはほぼ全ての兵力を失っていたそうです」

 「ロシア皇帝やダヴー元帥よりもヒデエな……」

 「そんなわけで、ルイ十三世は鬘を着用するようになりました」

 「でも、ある日突然王様の髪がフサフサになっても、恐れ多くてどこのメーカーのカツラかなんて気軽に聞けないし、気まずいどころの話じゃないような」

 「そこで、取り巻きの貴族達も国王にならって鬘を着用し始めました。『ハゲ隠しじゃなくて、ファッションだよ』と国王の鬘を目立たないようにしたわけですが、時が流れ一般化し、ルイ十四世の時代(在位1643-1715)にはこれが正装として宮廷に定着しています」

 「大きな髪型はいつ頃流行り始めたの?」

 「国王や貴族ばかりではなく、その婦人や娘たちも、お抱えの理髪師(ヘアドレッサー)に技を尽くさせ、髪の美を競いあいます。流行の髪型も高くなったり平たくなったりしたのですが、1760年あたりから極端に高いものが出てくるようになります」

 「そのへんはルイ十五世の時代(在位1715-1774)だよな?」

 「そうですが、ヘア・デザインの奇想天外振りが最も激化するのは、ルイ十六世の時代(在位1774-1792)です。

特に王妃マリー・アントワネットの周囲で、高さ的には最高潮に達したといっていいでしょう」

花園を意匠した髪型(1777年)

 「うーん。ここまでくると、もうなにかの冗談みたいね」

 「つーか、冗談抜きで首の骨が折れそうだ」

 「これらの髪型は飾りつけも手が込んでいて、入れ綿をいれたり、針金を立てたり、ポマードでかためたり、髪粉をふりかけたりする仕事を、とても毎日出来るものではなかったので、どんなに裕福な貴婦人でも週に一度くらいしか結わなかったようです。結果、しらみの黄金時代となります」

 「想像するだけで痒くなるから、ヤメて」

 「この時代の衛生管理問題に関してはいくら語ってもネタに困らないのですが、今回はやめておきます。髪型の話がメインですからね」

 「このデカさだと、髪型っていうより建築物だがな」

 「まったくですね。オーベルキルヒ男爵夫人によれば、『中位の背丈の婦人ならば、あごが丁度、髪の先とつまさきの中間にあたる』ほどであり、マダム・カンパンによれば、婦人たちは馬車にこしかけることさえできなかったので、床にひざをつき、頭を窓から出さなければならなかったとか。うっかりするとシャンデリアにぶつけたり、燭台で髪を焼いてしまったりもしたそうです。想像の域をはるかに超えています

 「おじぎするだけで相手を撲殺しちゃったりとか」

 「馬鹿らしい。と言いたいところだが、実際、巨大な髪のせいでの事故死とか、何件かありそうだな」

 「さすがにそれはわかりませんが、髪型の大型化は、革命の勃発により終止符を打たれます。王制が廃され、宮廷貴族そのものが存在を許されなくなるわけですから、当然のことなのですが」

 「テルミドール反動とか、帝政、王政復古のあたりで似たような流行は来なかったの?」

 「テルミドールの一部貴族趣味な文化、また後に貴族そのものが戻ってきて形成した文化の中でも、以前のような巨大な髪型が見られることはありませんでした」

 「こうして、ステキヘアーの時代は幕を下ろす、と」

 「ところで、女性の髪型が大型化していた頃、男性のほうはどうだったの?」

 「巻き毛の数がやたら増えていたみたいですね、多いものでは20個くらい連なった鬘もあったようです」

 「カルトーがヅラかぶってたが、貴族以外にも広まってたのか?」

 「そうです。そもそも、鬘にも階級差があり、貴族、顧問官、僧侶、商人、そして軍人の鬘は形を異にしていました。軍人の鬘は、弁髪を着けているものが多かったようですね。漫画にも出ているジュノー将軍は、この弁髪を『およそ軍装として似合わしからぬもの』として髪粉の使用と共に禁止しました(1803年)」

硬派なジュノー将軍

 「女の尻追っかけてるだけじゃなかったんだな」

 「やっぱり、軍人のは実用的なカツラじゃないとダメってことかな」

 「着脱自在とかか?」

 「そうじゃなくて、こんなカンジ」

凶器にもなる頭

 「当サイトは『武装錬金』(和月伸宏先生)を応援しています」

 「またこんなオチかよ!」

 「……それでは次回、『教えて! ステキカット先生』でまたお会いしましょう」

 「だから投げやりにシメるなよ……」

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