●スーラと新印象派展
● 2002.9.21
● 京都国立近代美術館

★★★★

科学的な点描法で絵画の1ページを開いたジョルジュ・スーラと、彼に続いた新印象派と呼ばれる一派の展覧会。新印象派なるグループがどんな人たちで、どういう絵を描いたかが、よく学べる内容になっていたと思う。だから、「よかった」というより「勉強になった」といった感想のほうが強い(なので、評価がむずかしい! ためになった意義をもって★★★★としよう)。なお、「スーラと新印象派展」とはよく言ったもので、スーラの作品は習作を含めて10点余り。その他、内容の大半はスーラ以外の作品だった。もし、「スーラ展」であったら文句をつけたくなるところだが、「スーラと新印象派展」だから、看板に偽りはない(商売が、うまい!)。ポイントとなる絵に、解説がつけられていたのはよかった。が、カタログが3800円(だったと思う)というのは、高すぎる! 買えないです。


印象派が色彩分割という技法を編み出して光をとらえたのはよく知られる通りだが、その手法は、スーラからすれば、まだまだ“稚拙”なものであった。スーラは「芸術は、調和である」と語っている。そして、その調和は科学的な思考のもとで追究できると考え、光学理論の学者に会って教えを受けたり、書物で研究したりした。そうした努力の結果に生み出されたのが、スーラ独特の点描法であった。したがって、スーラの点描法は、印象派の色彩分割をさらに科学的な根拠のもとで理論化、法則化したものと言っていいだろう。


スーラが最初に“スーラらしい”点描画を描いたのは、1884年の『アニエールの水浴』によって。本展では、83年の習作が展示されていたが、いわゆるスーラの点描画とは似ても似つかない、印象派ふうの風景画だった。それからすると、スーラの点描法は、かなりの短期間で劇的な変化を伴って開発されたと言えそうである。何かのきっかけがあったのかもしれない。


絵を見れば分かるが、点描法は、やはり、気の遠くなるような作業であったようで、31歳で夭折したスーラが残した作品は少ない。が、スーラの志はちゃんと後継者たちに伝わっていたようである。84、5年から90年代の前半にかけて、美術史上に一つのうねりとなってスーラの点描画は残されていた。シニャック、マクシミリアン・リュース、アンリ・ドラヴァレー、イッポリート・プティジャン、レオ・ゴーソン、ヤン・トーロップ、アンリ・エドモン・クロスといった面々がスーラ同様の点描画を次々と完成させ、新印象派を構成している。正直言って、いままで、この時期に10年以上にもわたって、これほどの広がりを見せてこのグループが存在していたとは認識していなかった。今回、改めて学ぶことができてよかった。


スーラの点描画は、もともと光学理論という科学的な知見のもとに開発された。そのため、全体的にどの絵にも似たような印象を受ける。つまり、個人差が現われにくい。それは、物理の法則が世界共通であるのと同じようなもので、新印象派の宿命的な性格でもあるのだろう。しかしそれでも、年を経るにしたがって、微妙な変化を見せていく。スーラが、あくまでも科学的に描いたのに対して、後年の後継者の中には、科学的というよりはむしろ、感情的、感性的な描き方をする者が現われるようになったからだ。その結果、ともすれば似たような絵ばかりであった新印象派にも新風が吹き込まれ、新たな展開を見せるようになる。スーラがこだわった科学性と訣別するところから、新印象派の新機軸が生まれていったのは、皮肉と言えば、皮肉な感じがする。


 

● ジョルジュ・スーラ 『クールブヴォアの橋』 1886〜87

スーラの点描画の典型的な一枚。『アニエールの水浴』と同様に、川辺の風景を描いている。色彩は緑と水色基調の寒色系。計算された幾何学的な構図で、岸辺は三角形で画中の人物もほとんど直立するように立っている。直線で構成された世界である。このあたり、まさに科学的な絵といった印象を受ける。が、同時に叙情にもあふれている。点描独特の叙情で、静かな中に怜悧で明晰な詩趣が伝わってくる。秩序立った、整った平和な世界である。ここには、テロもなければ拉致もない。すべてが息を詰めて停止している。スーラの絵が魅力的なのは、こうした叙情性にも富んでいるからだろう。


● ジョルジュ・スーラ 『バ・ビュタンの砂浜、オンフルール』 1886

オンフルールの浜辺を描いている、白っぽい作品。上記の作品と同様に、点描独特の静かな詩情が感じられる。まったく動きのない、やはり永遠に停止した世界。しかし、暗い印象はない。明るい光もまた閉じ込められているのである。遠景ほど白点が多くなっており、風景が白くかすんで見える空気遠近法の描写が認められる。


● ポール・シニャック 『サン・トロペの松林』 1892

シニャックは、もっともよく知られたスーラの後継者だろう。晩年は、かなり粗い点描(というより小さな四角と言ったほうが正しいくらい)だが、このころはスーラのような細かい点描で描いている。スーラが点描法を生んで、ほぼ10年。スーラの科学的な点描画とは、かなり趣が異なってきている。画中の松の木や道などのモチーフはくねくねとした曲線で構成され、むしろ直線的な部分を見つけるほうがむずかしい。色彩も赤、黄、紫と、スーラに比べて華やか。メルヘン的な印象さえ受ける。しかし、点描の置き方自体は、オレンジと紺、黄色と黒、緑と赤と補色関係を保っていて、スーラ以来の“伝統”を守っている。


● マクシミリアン・リュース 『トゥーランゲ岬、フィニステール県』 1893

海岸べりの景色を描いているのだが、この絵が目を引くのは、波の描写。海岸と平行に、5〜6本しっかりと描かれ、波の反復したリズムによって、海の波の様子というより物理的な波動を連想させ、印象的だ。科学的なアプローチがベースとなっている新印象派によくマッチした描き方と言えるかもしれない。

● アンリ・ドラヴァレー 『冬の井戸』 1887

正統的なスーラの点描画を受け継いでいると言えようか。小さな家とその庭、そして井戸が描かれているのだが、家はほとんど三角形そのもので、ほかの部分もきちんとした四角形などで、まるで定規で構成されている画面と言っても過言ではないほど科学的。抽象画の傾向も見られる作品。


● ヤン・トーロップ 『マロニエのある風景』 1889

マロニエの木が一本と、その木が川面に線対称に映っているところを描いている。スーラの絵が怜悧で明晰な詩情を感じさせるのに対し、トーロップのこの絵は、暖かみがあるやさしさを伝える。ポップな印象さえある。それは、補色関係の点と点を隣り合わせるというスーラ以来の“伝統”を、トーロップは無視したからである。ピンクなども多用し、色循環にこだわらないで自由な色使いを見せている。その結果、正確無比な新印象派独特の味わいは薄れ、感性的なロマンチシズムを感じさせる絵となっている。


● アンリ・エドモン・クロス 『山羊のいる風景』 1895

新印象派の中で、もっとも冒険的で、独自の点描世界の開拓に積極的だったのがクロスだろう。本作では、ほとんど赤と緑の2色しか使っていない。その色使いはフォーヴ的。赤い山羊や緑の山羊がドンと座っている。木もまた緑1色で明確な輪郭線をもって描かれていたりする。版画のようにも思える、耽美的なムードがあふれる絵である。


● イッポリート・プティジャン 『風景(磯)』 1895〜1905

磯場の風景画だが、そこにある岩はまるで生き物であるかのように、くねり、うごめいて存在している。もはやスーラの科学性とは無縁の世界。ぐにょりとねじくれ、岩と岩がシュールな造形を見せる。ガウディの世界を連想させる。シュールレアリズム的でもある。新印象派の中では、特異な存在と言ってもいいかもしれない。事実、解説板によると、プティジャンの画風が、いずれアンフォルメルへの道となったとのこと。

 

●フランス大使館の紹介ページ

http://www.ambafrance-jp.org/japanese/culture_formation_j/breves_j/2002-06-07_j/2002-06-07.html#seura