2004年の「展覧会ミシュラン」第1弾は、佐川美術館の「所蔵作品展」。佐川美術館といっても、ご存じない人がまだまだ多いかもしれない(とくに関西以外では)。佐川美術館の「佐川」とは佐川急便の佐川で、創業40周年の記念事業として1998年に滋賀県守山市の琵琶湖のほとりに建てられた。メインコレクションは、平山郁夫と佐藤忠良の作品群である。
和風イメージを踏襲した現代建築の建物と、琵琶湖を連想させる広がりある水の使い方が巧みで、初めての人を案内すると、まずはたいてい、「こんなにいい美術館があったなんて知らなかった!」といってもらえる。実際、気持ちのいいところで、中庭の薄広い人工池の水の動きを眺めながらお茶していると、日常の煩わしさを忘れることができる。美術館自体が魅力あるところなので、もっと人気が出てもいいのではないかといつも思う。
さてさて本展は、常設展示されている平山、佐藤作品に加え、国宝の釣鐘や奥村土牛、東山魁夷らの日本画などで構成されていた。「所蔵作品展」という展覧会名が、ちょっと味も素っ気もない気がする。
●国宝梵鐘
もともと比叡山延暦寺の鐘として858年(天安2)に鋳造されたものだという。日本で6番目に古い釣鐘で、国宝指定とのこと。そんなものが、どうして佐川美術館にあるのだろうと思ったが、来歴については何も説明されていなかったのでよくわからない。当時はまだ鋳造技術が低かったせいか、想像したよりも小さく、高さは1m強。華麗な装飾など、もちろん、ない。鋳造のあとの筋が表面に残っていて、素朴な出来具合である。正直いって、釣鐘マニアでもない限り、目の当たりにして感動するといったことはないかと思うが、素朴さが古い時代をしのばせ、“値打ちもの”といった印象をもたらす。
愚かしくもあり、感心もしたのは、横のボタンを押すと鐘の音が流れ出る仕掛け。けっこうよい音質で、人気のない展示室に鐘の音がろうろうと響く風情は、なかなかよろしかった。鐘の音って、空間の空気を変える力があると改めて認識した。なお、佐川美術館のHPでも鐘の音が聞けるようになっている(梵鐘の展示は1月12日まで)。
http://www.sagawa-artmuseum.or.jp/
●下保 昭 『日月妙義・日』『日月妙義・月』
梵鐘は別とした、ふつうの作品では、下保氏の連作2点がよかった。題材は、群馬県の妙義山。首都圏の人ならなじみがあるだろうが、ほかの地方の人は妙義山と聞いてもピンとこないかもしれない。妙義山は、山全体がギザギザの岩でできていて、山頂部は鋭い岩峰が連なる、きわめて特異な風貌をもつ。幽玄とか深遠というより、怪奇的とか異界といった言葉のほうが当てはまる感じで、初めて見たときはそのおどろおどろしさに身の毛がよだった。周囲の山とは一線も二線も画しており、日本3大奇勝のひとつに数えられるそうなのも納得できる。
そんな妙義山を下保氏は、いたずらに美化もせず、奇怪さを強調することもなく、横372cm×縦168cmという大きさに描く(2点とも同じ大きさ)。全体は青紫がかったグレーが基調。その色合いにより、適度に垢抜けた印象となっている。妙義山の峨々たる山稜が画面いっぱいに展開され、わずかな空に日または月が置かれる。実物のおどろおどろしさは影をひそめ、瞑想的といってもいいような静かで奥深い雰囲気に表現されている。
「日月」の題が示す通り、ひとつは太陽と妙義山を、いまひとつは月と妙義山がモチーフ。けれども、絵の印象は両者とも似ており、一瞬、どちらが『日』でどちらが『月』かわからないほど。パッと見には水墨画のように黒だけみたいだが、よく見ればさまざまな色が巧みに使われており、その結果、単調さが削がれ、懐の深さが生み出されている。モノクロ写真を4色分解で再現したときみたいな感じである。
自然の神秘を感じさせる魅力があり、じっと見入っていると静寂の時空に心がとらわれる――そんな鑑賞体験が得られた。また、妙義山といえば、これまで「怖い」「気味が悪い」といったイメージが強かったので、別の人の目にはこんなふうに映るのだと知ることができたのも興味深かった。
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