いよいよ、恒例の美術系大学の卒業・進級・年度制作展のシーズンが始まった。まずは、京都嵯峨芸術大学の展覧会へ。日本画、洋画、混合表現、陶芸、染織、グラフィックデザイン、イラストレーション、インテリアデザイン、メディアアート、彫刻、観光デザインといった分野に分けられていた。内容は、だいたい「こんなもんだろうな」と予想していた通りで、全体としては見応えがあったとはいえない。
概論的にいえば、日本画、洋画、彫刻といった古くからあるジャンルは低調で、メディアアート、イラストレーションなど、“いまどき”のジャンルのほうがまだしも面白かった。学生たちが日常的にどういったものとよく接しているかが如実に現われた結果のように思われる。また、いうまでもなく現在の学生たちは、幼いころよりアニメやコンピュータゲームで刷り込まれた世代である。そうした世界に強くて当然でもあるだろう。
ただ、それらの比較的よかったジャンルを含めても、これといったものはほんのわずかしかなかった。ほとんどは、「提出しないといけないからつくった」といった感じアリアリで、ほんとうにクリエイターをめざしている人たちの作品とは思えなかった。さらに問題なのは、センスどうこう以前に、ラインをそろえるとかいったデザインの基本すらできていないものが多かった点。学校で何を習ってきたのかと訝しく思わざるをえない状態で、親が見たら、高い授業料を出して専門の勉強をさせた結果がこれかと、嘆いてしまうのではないかと心配してしまった。
なので、ここで個別に取り上げたい人(作品)は少ない。が、それでも以下に挙げる人たちの作品は図抜けており、「私は、こういう表現をしたい!」という熱い気持ちが伝わってきた。
●岩崎宏美 「3分クッキング」(メディアアート) ★★★★★
パソコンを使った作品で本展では出色の出来だった。この種のものはインタラクティブな作品が多いが、これもそうした一つ。上面が白い大きな画面(1m×70cmぐらい?)になっているテーブルタイプで、観客が画面に触れると、それに反応してさまざまな映像が展開するしかけになっている。
作品名の「3分クッキング」が示すように、映像の中身は料理にちなんだもの。トップページでどこかをまず触ると、何かの料理がセレクトされる。そして、その料理のレシピがしばし表示されたのち、“いろんなこと”が起こる。たとえば、「キャベツの千切り」(というのがあったと思うのだけれど。間違っていたらごめんなさい)。レシピが消えたら、キャベツが丸ごと表示される。見ているだけでは何も起こらない。ところが、キャベツに触ると、触ったところでキャベツが切られる。端から切って(触って)いったら、千切りになっていくわけである。
あるいは、「ピーマンのみじん切り」(だったと思う)。レシピがしばらく出ていたかと思えば、突然、まさにみじん切りの如く、レシピの言葉がバラバラになって画面上を乱舞する。いわば、言葉のみじん切りが踊るわけである。そのなかを指で触れると、ちょうどフライパンで炒めるかのように言葉の断片がかき回される。非常に面白い。そのほかにも、まだまだ“メニュー”があったみたいだが、独占していては申し訳なかったのですべてを試すには至らなかった。
そもそもハードとしての装置をつくるのにかなりの知識が必要な気がしたし、それを活かしたアイデアあふれた個性的なソフトも大変ユニーク。NHKのデジスタでも似たような作品が見られるが、たいていはインタラクティブといっても無意味に光や音が反応するだけ。しかし本作では、「3分クッキング」のメインテーマのもと、さまざまなサブテーマが観客の指示(?)にしたがって現われるようになっているのが素晴らしい。フルマークで評価したいと思う。
● 星山恵美 「12カ月のかみぶくろ」(イラストレーション) ★★★★☆
愛嬌あるキャラクターを自分でデザインし、そのキャラクターのイラストが施された紙袋が12個つくってあった(ほかの作品もあった)。12個の紙袋は一つが1カ月を表わす。白地の袋に濃いグレー(?)の細い線画で、全体的に女の子らしいかわいい雰囲気がかもし出されていた。こういう言い方をすると、別にどうということのない印象を与えるかもしれないが、仕事ぶりがとてもていねい。イラストはおそらくは版画だと思う。
キャラクターのイラストは、一つひとつは小さなものが、いろんなシチュエーションで細やかに紙袋全体にびっしりとあしらわれている。かなりの手間ヒマがかかっている。それぞれの紙袋の絵柄は、その月に即した内容で、2月なら節分など、3月なら雛祭りなどとなっており、つまりは紙袋がイラストで見る歳時記でもあるわけだ。
この人の作品を見ていると、何よりも「描きたい!」という気持ちがビンビン伝わってくる。課題だから義務的につくったとかいうのではなく、湧き出ずる泉のように、自分のイラストを生み出しているように感じられるのだ。本来、美術系大学の学生ならば、こうした姿勢であるのがふつうのはずだと思われる。また展示されていた作品は、すぐそのまま商品化できそうでもあった。
●堂下真紀子 「制作展ポスター」(グラフィックデザイン) ★★★★
本展の公式ポスターに採用されていたデザイン。ニンジンみたいなかたちをしたサツマイモが半分ほど皮をむかれ、二つ互い違いに置かれているのを写真で撮っている。そこに「制作展」と大きなゴナ系の文字が置かれ、その周辺に期間や場所などの情報がやはり同じ書体の小さな級数の文字で添えられる。
シンプルながらケレンミがなく、かつ必要な情報をちゃんと伝えるポスターに仕上がっている。デザイン上の基本もきっちりと踏まえてあり、たしかな基礎の上にデザインがなされていることをうかがわせる。公式ポスターに採用されたのもうなずける。そのほか、新聞広告を想定した作品もあり、そちらもよくできていると思った。
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大いに目を引いたのは、以上の3人であった。彼らに比べるとやや見劣りするものの、そのほかでいいなと思ったのは、齋藤基能、水野明日香、国府佳奈、堀田史子、井上緑、浅川久美子、本田亜友美、野村知紗、田嶋郁美の諸氏だった。
(2/8)
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