異能の画家の巨大回顧展。大竹伸朗氏については、もっと小さな規模の個展は過去幾度も開かれてきたが、出品作品数約2000点という大ボリュームで、作家のまさに「全景」を明らかにしようと試みたものは今回が初めてである。
最初にお断りしなければならないのは、「★★★☆」という必ずしも高くない評価について。これは、当コーナーが私個人の評価を示すものであり、たぶんに個人的な「好き嫌い」が反映したためで、展覧会自体が粗末であったわけではない。むしろ展覧会は、よく思い切って、これだけのスケールで実現させたものだと、担当者の勇気と決断そして努力に感服する出来だったと思う。なので、大竹氏の作風が好きな人にとっては、しびれる内容になっているはずである。
さて、展示作品のほうは、例によってエナジーが爆発しているかのような圧倒的なパワーである。巨大な長方形一面に、あらゆるものがビッシリとコラージュされた大作。貼り付けてあるのは、ポスター、マッチのケース、新聞の切れ端、きっぷ、包装紙の断片といった比較的“ありそうなもの”はもとより、木の葉、針金、カプセル薬、何かのガラクタなど、ふつうならアート作品とは縁のなさそうなものまで、超バラエティだ。絵画もやはりパワフルで、赤や黒が目立つ激しいタッチが画面を埋め尽くす。ハードロックの匂いを感じさせる世界である。
混沌とキッチュが支配し、洗練とかスマートといった言葉とは無縁であるが、かといって、ただ単に混乱しているわけではない。一見、無秩序に見えながら、その実、アイテムの配置は周到に考えられているフシがある。その証拠に、これほど錯綜していながらも、決して不快感を抱くことはなく、ある種のクールささえ感じられるからである。
大竹氏の作風は、道端で拾ってきたゴミをうず高く積み上げ、ついには部屋の天井をも貫かせた「メルツバウ」で知られるダダイストのシュビッタース、鉄クズを集めてスクラップ用のプレス機で押しつぶし、独自の「コンプレッション(圧縮)アート」をつくったセザールらとよく似ている。大竹氏が、彼らの作品にインスパイアされて自作をつくっているのかどうかはよくわからないが、やはりダダイストのマルセル・デュシャンを尊敬しているというから、これら先人の作品に倣っている可能性はある。
ダダや(セザールが属した)ヌーボー・レアリスムの作家たちは、廃棄物や未完成品など値打ちのない断片を寄せ集め、再構成することで社会の真実を見出せると考えたが、大竹氏が同様の主張を込めているのかどうかも不明である。雑誌のインタビュー記事を読んでいる限りは、必ずしもそうではなく、ひたすら、内から湧き出ずる衝動にしたがって作品をつくり続けているようである。理屈の人ではなく、実作の人なのかもしれない。
興味深かったのは、幼少時からの氏の作品履歴。中学生時代は、いわゆる“ふつうの絵”を描いていて、いわば大竹氏の古典時代である。ところが高校生になると、フォーヴィスムや表現主義的な作風に変わり、キュビスムのような作品、ダダを思わせる作品、さらには抽象表現主義的な作品も見られるようになる。北海道へ移り住んだ時期は、まるでピカソの青の時代で、その後イギリスでの生活を経て、現在へといたっている。
これらは、つまり、一人で美術史をたどっているのである。大竹氏が自分の表現のあるべきかたちを追求し続けていった結果、偶然か必然か、20世紀の絵画史と軌を一にする結果になったということは、「表現の原理」とでもいうべきものを示唆しているようで面白い。ただし、氏の場合、基本的に感情を重視する表現主義的方向へと進んでおり、構成主義やミニマルアートのような理性や論理を重んじる方面は範疇に入っていない。
尽きることなく湧出し続ける氏の創作エネルギーは尋常ではなく、現在までの作品数は数万点ともいわれ、骨太で旺盛な活動にはまったくもって脱帽するしかない。しかしながら、冷静に作品群を見直したとき、氏オリジナルな表現のかたちは、意外にも、なかなか見出せないことに気づく。もっとも大竹氏らしいと見なされるガラクタの大コラージュは、前述のシュビッタースやロバート・ラウシシェンバーグらに既視感があるし、絵の具を委細構わず画面に展開させるのはジャクソン・ポロックを髣髴とさせる。あるいは日本でも元永定正や白髪一雄といった名前が頭に浮かぶ。
最近ではゴロッと作風が変わって、村上隆やヒロポンファクトリーの影響を感じさせるものまであったりし、量的にはものすごい創造力でありながらも、表現自体は何となくどこかで見たなぁ、と思わせるものが多く、その事実も高い評価を躊躇させてしまう一因である。
とはいえ、空前で絶後となるかもしれない今回の展覧会、私個人の好みとは合わないところもあったけれど、好きな方にとっては必見ではないかと思う。会場は若い人たちがほとんどで、いまもって若者から強い支持を受けていることもうかがわせた。
(11/22)
|