写真家・森山大道氏がブエノスアイレスの街角を切り取ったモノクロ写真作品。退廃的で、見る者に鈍い重さを感じさせる独自のテイストは健在である。
モチーフとして選ばれたものはすべて古びており、「リッチ」などという単語とはまったく無縁のものごと。濡れた石畳、角が欠けたレンガ、薄汚れた猫、錆びたトタン板の壁……森山氏のカメラアイが映し出す白黒のざらついた街は、時代の流れとは関係ないところで息づいており、ノスタルジックな印象さえある。硬く、潤いに欠け、そして、人も動物も街角も疲れている。
全体のトーンが、そうした虚無的なものであるにもかかわらず、絵柄がクールに見えるのは、ひとえに作者の感性の賜物というしかないだろう。また、疲れ、倦んだアンニュイな世界が表現されているが、骨太な生命力も感じられる。どんなに日常が乏しく、不確かなものであっても、人間はそうは簡単に生をやめることなどできないのだ、といった哲理めいたことも見ていて脳裏をよぎる。
技術的な面から分析的に見ると、水平垂直が正しくとらえられている作品は、ほとんどない。たいてい少し傾いた絵柄となっていて、その分、常に不安定感がつきまとう。それは、人の世のうつろいを暗示しているかのようでもあり、ひいては作者の人生観を物語っているのかもしれない。
ただ、本展作品の作風は、従前からの氏のカラーを踏襲するもので、そのため森山氏は何を撮ってもこういう味つけになるのだな、とつい思わせてしまう面もある。森山作品フリークにとっては、それがしびれるような魅力であり、商売的にもよい結果につながるのだろうが、そこが物足りなく感じる向きもあるかもしれない。ということで、よしにつけ悪しきにつけ、間違いなく森山ワールドが展開されている個展である。
(7/9)
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