| 展覧会というより、小規模な試みとして催されているものだが、最近の大原美術館について触れておきたく、強引に展覧会ミシュランのなかに織り込んだ。
まず、当企画について。大原美術館所蔵のモネの『積みわら』と『睡蓮』に、埼玉県立近代美術館所蔵の『ジヴェルニーの積みわら、夕日』を合わせて展示したものである。50uほどの展示室にモネの3点だけ。美術館側のコメントは、「ささやかではありますが、大展覧会では味わうことのできない贅沢な空間をお楽しみいただければと思います」。モネといえば“光の画家”だが、ここではむしろ、展示室の照明を落とし、作品だけにボンヤリと光が当たるようにしてある。通常とは逆をいく演出である。展示室の三方の壁に1点ずつ掲げ、部屋の中央にはそれぞれの作品に向かって三つの椅子が置いてある(したがって、椅子同士は背中をくっつけ合うかたちになる)。ゆっくりと座って見てくださいということだろう。
正直いって、特筆すべき企画というほどには感じられなかったが、狙い自体は面白いと思った。あえて小さめの空間を選ぶことによって、モネのジヴェルニーの家を彷彿とさせるプライベートな雰囲気が出ていたし、常とは異なる暗めの部屋でモネの絵だけが光の中に浮かび上がるのも、しっとりとしてよかった。実際、年配の女性が椅子にかけて1点ずつ、心ゆくまでご覧になっていたから、それなりの成果は出ていたといってよいかと思う。ただまあ、美術館自身がいうように「ささやか」なものなので、★評価は必ずしも高いポイントはつけられなかったのは、お許し願いたいところだ。
しかし、本項をまとめたのは、冒頭述べたように、大原美術館の現状について紹介しておきたかったからというのがホンネなのだ。こちらには、あえて別評価として★★★★★をつけておきたい。
ご存じの人も多いかと思うが、大原美術館には、2002年4月、第4代館長として高階秀爾氏が就任した。第3代館長は小倉忠夫氏で(1998年就任)、その小倉氏時代から実にさまざまな改革を実施しているのである。
とくに力を入れているのは、子どもたちへのアプローチ。地元の小学校、中学校、高校に呼びかけて生徒や学生を招待し、楽しみながらの美術に触れられる機会を積極的に提供している。こうした取り組みは各地の美術館ですでに行なわれているが、私が感心したのは、休館日に生徒や学生を招待している点である。わざわざ休みの日に職員が出勤してきて、子どもたちの相手をする──なかなかできることではない。全館一致した理解が必要である。子どもたちにとっては、誰にも気がねなくゆっくりと絵と向き合うことができる最高の環境である。
手許に小学生が綴った感想文があるので、少し紹介しよう。
「『うわあ。変わっとるな。』
『ぜんぜんちがう。』
『すげえ。』
ぼくたちが、大原美術館の二階に入った時の友達の第一声です。いつもなら、絵が一段にかけてあるのに、今日は、昔のように二段にかけてあるのです。
(中略)
今日、ぼくたち六年は、絵をじっくりみて自分の好きな絵を模写するか文章に表すかするのです。(中略)今日は、休館日なので、(中略)僕たちが美術館の門を入っているとき、観光客の人たちがうらやましそうな顔で、ぼくたちを見ていました。
(中略)
ぼくのすぐ後ろでは、○○君が、『アニエールの街路』をみて、文で様子を表していました。○○君は、文を書いた後、文を友達と交換して、どの絵のことかさがして歩くそうです。……」
実に素晴らしいではないか。かねてから子どもたちが大原美術館と親しんでいることがわかるし、自分たちの美術館としての誇りをもっている様子さえうかがえる。さらには、独自のゲームを編み出して、絵を楽しんでまでもいるのである。休館日への招待は、学校まるごと行なっているそうで、そのおかげで、「美術」だけでなく、「理科」や「社会」「数学」などの課外授業としても子どもたちに学んでもらっているとのことである。理科や社会など、いったいどんなことがなされているのか興味津々である。
そのほかにも、中庭を利用したパフォーマンスやコンサート、「チルドレン・アート・ミュージアム」として子どもたちが入館者を案内する企画、さらには学芸員が学校を訪れる「出張美術館」など、さまざまなアイデアを打ち出している。
こうした、より開かれた美術館、より親しめる美術館への模索は、高階館長にもしっかりと受け継がれている。高階氏は館長就任時の挨拶で、「まさか自分が大原美術館の館長になれるとは思ってもいませんでした」と語ったそうだが、その後の氏の館への働きかけを聞いていると、あながち社交辞令とは思えないものがある。
館長に就任するやすぐ、「高階秀爾の美術教室〜西欧美術への招待〜」シリーズを始め、これは大変な好評だということである。月1回、3回を1クールにして実施されている。1クール5000円である。各回とも閉館後の17時30分からスタート。時間を気にせずじっくりと行なえるためである。その結果、19時終了予定がいつも20時近くにまでなるそうだ。地元や西日本はもとより、東京から訪れる人も少なくないという。
また、大原美術館は再入場OKであることも見逃してはいけない。倉敷の街を見てもらってから、あるいは一息ついてから、再びどうぞお越しくださいというわけである。小さいようだが、他のほとんどの美術館ではできていないことである。
大原美術館といえば、老舗で、大名商売していてもおかしくはないのに、このように次々と来館者の立場に立って手を打ち、刺激を与え続けているのは立派としかいいようがない。創設者の大原孫三郎氏の「美術館は日々成長していかないといけない」の言葉をそのまま実践しているのである。最後に付け加えるならば、大原美術館は全収入を入館料等によっていて、どこからも補助は受けていない。経営的には苦しいそうだが、それをまたバネにして新たな道を切り開いていくつもりだという。美術館運営に賭ける熱意と覚悟、実践には★★★★★をつけるしかないではないか。
大原美術館のホームページ
http://www.ohara.or.jp/index.html
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