● ミレー3大名画展
● 2003.8.12
● 福岡市美術館

★★★★

展覧会名が大胆というか無遠慮というか。何をもって「3大名画」と選定したのかよくわからないが、最近、「大レンブラント展」とか、どうも商売気が強すぎる展覧会をチラホラと見かける。イヤミである。それでも「大」は、レンブラントを偉大だといっているかたちの修飾と理解することもできるのでまだしもだが、こちらはいかん。「3大名画」などと、主催者側が勝手に限定的な決めつけをするのはよろしくない。


と、大方の期待に応えて(?)、展覧会名でひとくさりした。さて、肝心の内容について。展覧会名のイメージからは、ほとんどミレーの作品ばかりかと思ったが、そうではなく(そんなはずないか)、バルビゾン派を中心に、「ヨーロッパ自然主義の画家たち」の作品が数多く展示してあった。思ったよりもボリュームがあり、そこそこの見応えがあった。ちなみに、本展でいうところのミレーの「3大名画」とは、『落穂拾い』『晩鐘』『羊飼いの少女』であった。

●ジャン・フランソワ・ミレー 『落穂拾い』 ★★★★

何をもって「3大名画」などと決めつけるのだ、と文句をいったが、『落穂拾い』は、やっぱりよかった。ここでいう「3大」のなかでも、もっとも出来のいいのは本作だと思った。ミレー独特の柔らかなセピア色の光が画面中に満ちあふれ、落穂拾いという必ずしも恵まれない作業に従事する3人の女性が淡い色彩のなかで描き出されている。詩情さえ感じられるのだが、その詩情は微妙で複雑な印象を受けた。まったき幸福とはいえないものの、さりとて不幸の真っ只中に身をやつしているといった感じもしない。“悲しくもささやかな幸せ”とでもいおうか、安寧と諦観が入り混じった中間色の味わいがあるように思うのである。


それは、当時の農民たちの置かれた状況そのものを反映しているせいかもしれない。都市に生み出されつつあった中産階級者たちほどお金はなく、物質的金銭的には貧しい生活を送っていた。その一方、都市生活に明け暮れる人々が刹那的な快楽とその反作用であるデカダンな生活感にさいなまれつつあったのに対して、農民たちはモノはなくとも心安らかな日々を送った(と思われる)。そんな社会的気分がもろにリフレクトしているような気がする。


画面の後景には富の象徴である干草がうず高く積まれ、その前には数名の支配階層とも見える人間たちが立ち並んでいる様子が描き込まれている。そのことから、ミレーは反体制をあおる扇動分子として糾弾されたこともあったが、ミレー自身はあくまでも「農民の生活のすばらしさを描く」のみと述べている。たぶん、そうなのだろう。にもかかわらず、かすかに社会批判のメッセージも読み取れてしまうように感じるのは、考えすぎというものだろうか。女性の帽子が、青・赤・白(が汚れたもの)となっているのも何らかの意味があるかのように思えてならない。

●ジャン・フランソワ・ミレー 『晩鐘』 ★★★★

これまた農民の貧しくも満ち足りた暮らしぶりの一端を描いた絵である。改めて私がぐちぐち説明するまでもないだろう。一日の終わりに感謝を捧げる農夫婦の様子が、遠くの教会の鐘楼とともに、やはり情感たっぷりに描かれている。


ミレーは本作によって、その名をとどろかせることになるのだが、絵の完成度という点では『落穂拾い』のほうが上だと思う。構図ならびに塗りに、やや煮詰めが甘いものがある気がする。しかし、伝わってくる敬虔な空気は、やはり類画より頭1つ抜きん出ている。なお、この『晩鐘』は今後あまり海外へ貸し出されることはないようで、今回日本で見られたのは僥倖といっていいようだ。

●ジャン・フランソワ・ミレー 『羊飼いの少女』 ★★★★

結局、「3大名画」をすべて取り上げてしまった。本展での他の作品と見比べても、この3点はよかったと思う(結局、自分も“3大名画”を後押ししているだけとなるが)。『羊飼いの少女』では、地平線のすぐ下に薄べったく横に広がる羊の群れの様子がモコモコとして気色よい。群れの上に寝転んでみたい気がする。


ミレーは絵柄の切り取り方が巧みな画家であったと、今回改めて感じた。“3大名画”にしても、モチーフをうまく配して印象的な絵柄をつくり出すことに成功している。本作では画面左寄りに低くならんだ羊の群れ(横のライン)と、画面中央よりやや右に立つ少女(縦のライン)がそうした図を生んでいる。もし、少女が画面の真ん中に立っていたら、ずいぶんと間が抜けた印象になっていたはずである。彼は、写真家の目をもっていたような感じがする。

●ジュール・バスティアン・ルパージュ 『登校する娘(もしくはおませな娘)』 ★★★★

頭から頭巾をかぶったミドルティーンとおぼしき少女が、学校へ行く途中だろうか、街角で立ち止まり、頭巾のなかからこちらを見ている図である。少女が身に着けている服は首元から下が真っ黒で、そのため、白い少女の顔だけがよけいに浮かび上がっている。これまた写真的な絵で、ほとんどスナップショットそのものである。


ややうつむき、右向きがちなれど、視線はまっすぐにこちらを見る少女の目が印象的。見知らぬ人間との出会いにはにかみ、畏れも感じながらも、同時に好奇心も隠せない。そんな様子が伝わってくる。唐突なことをいうようだが、動物は子どもから大人になる中間段階がもっとも魅力的だと思う。猫なんぞその典型だし、犬や鶏(ひよこ?)でも、大人と子どもの境目ごろが理屈抜きに愛くるしい。そして、人間も同じで、この少女はちょうどそんな時期を迎えている。

                     *

ところで、最近、同時に複数の企画展を催す美術館が増えてきている。けっこう目玉っぽいのを二つ並行開催することもあり、共通券を割引にしてくれるなど、喜ばしい限りである。そうしたなかにあって、ここ福岡市美術館は、なんと14イベントを同時開催していたので驚いた。もちろん、本展のようなビッグイベントばかりではないが、それでも14も同時にやろうというのは管理面だけでも大変だと思う。少しでも集客を、という館側の努力が垣間見られた気がする。

(9月26日まで)