●メトロポリタン美術館展
● 2002.10.19
● 京都市美術館

★★★★☆

よかった。「メトロポリタン美術館展」などと、大仰なタイトルなので、かえって、「あまり大したことないのでは?」と、多少、疑心暗鬼的に行ったのだけれども、予想外に充実していた(期待が大きくなかったからそう感じるのか?)。メトロポリタン美術館(MET)のコレクションからすれば、今回、来日した作品は必ずしも超Aクラスとは言えないにもかかわらず、それでも十分な見応えを感じさせたのは、METのコレクションの懐の深さ、底力を物語る。なお、★印評価がかなり高くなってしまったが、「あれが★4つなら、比較すればこれぐらいつけざるを得ない」といった感じで、こうなった。


本展で展示された作品数は72点。一つの美術館から借り受けるにしては、かなり多いとは言えるだろうが、200万点以上とも言われるMETの所蔵品からすれば、一部どころか、爪のカケラ程度にしかすぎない。副題を付けたとはいえ、これをもって「メトロポリタン美術館展」というネーミングは、牽強付会のそしりを免れない(だから、メインタイトルと副題<ピカソとエコール・ド・パリ>がどうもしっくりとこない)。せいぜい「メトロポリタン美術館コレクション展」ぐらいにすべきであった。このところ、展覧会名の頭に「大」とつけたり、「3大名画展」とうたったりするなど、タイトルが誇張され気味な傾向を感じるので、ちょっとモノ申させておいてもらった。


とはいえ、中身については、冒頭述べたように、なかなかよかった。副題に「ピカソとエコール・ド・パリ」とあるように、20世紀初頭にパリで花開いた画家たちの成果を中心に構成する。画家名を挙げれば、ピカソ、マチス、ボナール、ルドン、ドニ、アンリ・ルソー、ドラン、ブラック、ユトリロ、シャガール、キリコ、マリー・ローランサン、モディリアーニ、レジェ、パスキン、バルテュス、デュフィなどなど。様式を超えて、時代でくくって作品をそろえたと見ていいだろう。そのため、展覧会の企画性には総花的な印象があるものの、さすがにこれだけの面々が集まると、それだけでもボリュームたっぷり。見て「失敗した」と感じることは絶対にない。あるいは逆に、METのとりとめもないほど膨大なコレクションを一時に鑑賞するよりも、これくらいのスケールで部分部分を見ていったほうが、かえってよく作品を味わえるかもしれない。人気のほうも上々で、会期末までまだ少しあったが、かなりの人ごみだった。

 

● オディロン・ルドン 『アポロンの馬車』

ルドン晩年の神話画シリーズの一作。これが来ているとは知らなかったので、入り口を入ってまず最初に展示してあったのを見て、「ほうっ」と思った。水色の空へ向かって、アポロンが御す4頭建ての馬車が駆け上っていく。その様子は不思議な浮遊感を伴い、幻想の世界へと見る者を誘う。一種のファンタジー絵画で、馬車が中天高くゆくさまは、どこかしら人間共通に潜む、見果てぬ夢をあこがれ、追う心を描いているようでもある。絵の保存状態があまりよくなく、レストアが必要な気がした。


● ピエール・ボナール 『子供たちの食事』

大人の女性二人と子ども二人が食卓を囲んでいる風景が描かれている。女性は子どもたちの母親(ボナールの妹)と祖母。母親は子どもの一人(まだ乳児)をひざの上に乗せ、スープを食べさせている。お金持ちでも何でもないふつうの家庭の姿ながら、心温まるものが感じられる。
間違いなくフランス人家庭を描いているのだが、どことなく日本画ふうの味わいもある。全体に暗めの雰囲気、家具類が木でできていること、母親と祖母が黒々とした髪をしていること、子どもの着衣がきもののようにも見えることなどが要因のようだ。ボナールが日本美術に影響を受けたことが現われているのだろうか。


● パブロ・ピカソ 『盲人の食事』

何ともものすごいムードの絵である。題名通り、一人の盲人が食事をしている場面。椅子に腰掛け、机の上の食べ物を食べているところをやや斜めからのサイドショットで描いている。主人公は左手にパンを持ち、右手で何かを手探りで探している。飲み物だろうか。背景はもとより、画面全体を暗い青色が覆っている。まさに「青の時代」の作品である。盲人は、ただ目が見えないだけではなく、目そのものがないように見える。そのことが、この絵の底知れない寂寥感をさらに強める。周りには誰一人いない。まったき孤独の中で一人いるのである。隣に展示してあった『アルルカン』よりも、さらに突き詰めた印象がある、インパクトの大きい絵。


● アンドレ・ドラン 『釣船、コリウール』

フォーヴィズムの画家、ドランの真骨頂がいかんなく発揮された作品。地中海の港町コリウールの岸壁に何艘も連なるヨット風の釣船を描いている。画面中、これぞフォーヴと思わせるほど、赤、黄、オレンジ、青、緑……色彩が飛び交い、乱舞する。激しい印象である。しかし、これほど激しい色遣いがなされているのにもかかわらず、調和も感じられるのである。フォーヴの画家が、ただの色狂いであったわけではないという証明をしている。


● ジョルジオ・デ・キリコ 『自画像』

印象的な自画像である。カタログによれば「自らの姿を、古代のメダルを意識したプロフィールの姿で」描いている。つまり、顔の部分をサイドから描いたポートレートである。だが、絵全体から受ける印象は、とてもふつうの自画像ではない。むしろ、超自然的なムードに包まれている。隣り合った中年女性は「なんか、怖いわ、この絵」と言っていたが、すごくよくわかる。
背景は、下から上に向かって、黄色からエメラルドグリーン、そしてダークグリーンへと変わるグラデーション。そこへ横を向いたキリコ自身。真っ黒の洋服を着ている。特徴的なのは目で、ちょうどその部分の背景と同じエメラルドグリーンをしているのである。瞳はない。これが大変よく効いている。前述の「怖いわ」という印象も、おそらく目がポイントになっているのだろう。面積的には、ごくわずかながら、やはり「目」というのは、人の様子を知るのに大きな情報を発している。目がふつうのものから、瞳のないエメラルド色のものに変わるだけで、絵全体の空気が一変してしまう。シュールな、この世のものとは思えない作品となっている。

●主催者の読売新聞社の紹介ページ
http://event.yomiuri.co.jp/2002/S0146/index.htm