インゴ・マウラーの飾り言葉として「光の魔術師」とあるように、本展は、ドイツ人照明デザイナー、インゴ・マウラーの仕事を振り返るもの。インゴ・マウラーは、1932年生まれだから、今年で74歳ということになる。年齢区分でいえば、間違いなく「老人」だが、その創作意欲は近年にいたっても衰えるところを知らず、作品も古臭さをまったく感じさせない。ちょうどわが親と同年代である事実が信じられないほどで(マウラーが若いのか、親が年寄りなのか(笑))、人間の感性の可能性を感じさせるとまでいってはいいすぎだろうか。
さて、会場に一歩足を踏み入れると、いかにも「コンテンポラリードイチュ」とでもいうべきテイストに満ちている。フロア全体にゆとりをもって展示されているスタンドやテーブルライト、ペンダント類は、すっきりとしたラインのフォルムで、よく整理されたスチール構造を持つ。明晰で洗練され、エッジでクールなその印象は、間違いなくバウハウスのDNAを受け継いでいる。それでいて、作品が生み出す光環境自体は、決して硬く冷ややかなものではない。間接照明を巧みに利用することによって、やさしく、ときに女性的とさえいえる雰囲気をかもし出してくれる。そのため、マウラーの光の下にいる者は、爽快な気分で魔術師が繰り出す光世界を楽しむことができるのである。
マウラーはまた、新しいテクノロジーに対しても常に関心を示している。各色LEDなど新開発の光源体があれば、それをすぐに自作に採り入れようと試みているし、マウラーの工房自身が従来にない光コントロール技術を開発したりもしている。進取の気性も持ち合わせているわけである。さらに、マウラー作品で忘れてはならないのはウィット。ちょっとしたラインのひねりとか、パーツの動きなどに、マウラー特有の遊び心が込められていて、ともすれば硬くなりがちなドイツテイストにユーモラスな味を付加している。
しかしながら、たとえば、ベトナムやインドネシアなどのアジアン家具を念頭に置いてマウラー作品と向き合ってみると、そこには、一種の緊張感が存在していることに気づく。これはマウラーに限らず、ドイツやオランダ、スイスなど北部ヨーロッパに共通する文化といえると思うが、明晰ですっきりした印象は、心地よさをもたらす一方、常にあるレベルの緊張を強いるのである。もちろん、その緊張は不快なものではないけれど、アジアンテイストのように「まったり」「ゆる〜く」心身を浸らせるというわけにはいかない。いわばフォーマルな世界であって、マウラーのライトの下でごろ寝することなど許されないのである。とはいえ、すぐれたデザインであることには違いなく、ひととき、ソフィスティケートされた時空を味わいたいときには、マウラーの光は間違いなく期待に応えてくれるはずである。
(9/10)
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