● 韓国国立中央博物館所蔵 日本近代美術展
● 2003.6.1
● 京都国立近代美術館

★★★☆

「眠りから覚めた幻のコレクション」というサブタイトルが付けられているように、本展出品作品は、日韓の複雑な歴史経緯のもとで長らく封印されてきたもの。近年になってようやく、韓国で日本文化が公の場でも紹介されるようになった時流に併せて、昨年の秋から年末にかけてソウルで催された展覧会が巡回してきたものである。


いわば“里帰り”となる品々であり、あくまでも日本の作品であるのに、何となく韓国文化に触れられるような錯覚を覚えながら行ってきた。水墨画、日本画、屏風絵、掛軸、陶芸、うるし工芸、ガラス工芸など、日本の美術品のさまざまなジャンルが展示(ということは所蔵)されていた。作家のほうも、横山大観、川合玉堂、鏑木清方、伊東深水、橋本関雪、土田麦僊、前田青邨、浜田庄司、河井寛次郎、富本憲吉など、やはりおなじみの面々が並んでいる。なので、日本のどこかの美術館のコレクションといわれても信じてしまうだろう。


今回は約200点あるとされる所蔵品のなかから絵画45点、工芸25点の計70点が選ばれていた。それが200点のうちでどのような位置付けになるのかはわからないけれども、正直なところ、それほど傑出した作品群とは思えなかった。むしろ、韓国の人たちに、「日本には、もっとすごい美術品がありますから、これがすべてだと思わないでくださいね」といいたくなる気持ちも起こった。それでも、いくつか目を引く作品があったと思う。


● 白倉嘉入『細雨流水』★★★★

タテ242cm×ヨコ70cmの大作日本画。山と谷の風景画で、画面上部の山に霧雨が降り、画面真ん中から下の谷には川が流れている様子が描き出されている。霧雨は画面全体を覆っており、そのため絵は一面にもうろうと、淡く緑白色にけぶっている。緑基調なので、印象はさわやかである。山や谷には木々が生えているらしいが、霧に隠れ、半ば見え、半ば隠れている風情。葉っぱが一枚一枚細かくていねいに描写されているので、とてもみずみずしいものがある。


滋味やさしく降り注いだ雨は、いつしか川となるわけだが、どこから川が始まっているのかが、よくわからない。霧雨が何となく気がついたら川となっている感じで、それが、おもしろい。おそらく、実際の自然もそういうものだろう。自然の摂理が表現されているようにも見える。もしこれが、明確に川の始まりが描いてあったら、興趣は半減したことだろう。あいまいさが、まさに自然で、不思議な魅力を感じる一作。


● 水田硯山『緑野晴川』★★★★

中型の水墨画。山に囲まれた小さな小さな盆地に、藁葺きの家、水車、小川、野がある風景である。すべて薄墨で描かれており、丸っぽい描き方で、やわらかな、ほのぼのとした印象がある。実際、角張ったものはまったくなく、盆地も丸いし、その丸い盆地を囲んで川が丸く流れ、川が囲む丸い土地は畑となっていて、老夫婦と見える男女が農作業に精を出している。


人と自然の調和した姿を表現しているようで、箱庭的ながらも、ちょっとした田舎の理想郷といった趣をたたえている。なんとも、心が温かくなってくる。水墨画で、こんなふうな絵を見たのは、おそらく初めてで、「へぇ、こんな表現もあるんだ」と新鮮だった。


● 津田信夫『鋳銅蒼松壽古花瓶』★★★★

青銅鋳造の花瓶。なので金属工芸品である。高さ42cmの壼ふうの器で、全体に黒緑色をしているのがシブイ。花瓶上部に横に4〜5本ほどキリッとラインが入っていて印象を引き締める。説明板に「金工モダニズム」と紹介されていたが、まさにいい得て妙。シャープな造形で、アール・デコにも通じるデザインイメージである。これが1935年の制作になるとは驚きで、先人のセンスのよさには脱帽してしまう。

作品レベル自体は、そこそこといった感じに見受けたが、本展は、品々のクオリティうんぬんよりも、本展を開催できたこと自体が評価されるべきだろうと思う。


以前、ソウルの中央博物館を訪れたことがある。入口を入ってすぐのところに、大きなジオラマが二つ並べて置いてあった。かなり巨大なもので、長さはそれぞれ5〜6mはあったのではないだろうか。二つのジオラマはともにソウル市街のもので、日本軍占領前と占領後の姿を対比してあった。


はっきりいって、衝撃を受けた。かつてのソウルは古都の趣さえそなえていて、そこここに韓国固有の文化をしのばせる建築物があったようだ。ところが、占領後のほうは、そうした歴史遺物はすべて破壊され尽くし、街並み自体が跡形もなく変わってしまっていた。ちょっと息を呑むほどの仕業ではあった。もし、同じことが東京や京都で行なわれていたら……と想像してみたら、「恨み」はそう簡単には消えないのは察してあまりあった。


その中央博物館が本展を実現してくれたという事実は、日韓の歴史に詳しい人であればあるほど、万感胸に迫るものがあるのではないだろうか。歴史的に大きな意義を含んだ催し物だと思った。そうした意義を視野に入れて★評価をするとなれば、もちろん、「★★★★★」を謹んでつけさせてもらいたいと思う。折しも、日本中が沸いた日韓共同開催のサッカーW杯からちょうど1年。あの盛り上がりを忘れてしまっては、もったいない。

 

(6月29日まで)