| おそらく今年のベスト展覧会になりそうな金沢21世紀美術館のこけら落とし「21世紀の出会い――共鳴、ここ・から」で興味深くその作品を鑑賞したアニッシュ・カプーアの個展が開かれたので見てきた(※金沢21世紀美術館ではカプーア作品は常設展示されている)。タイトル「JAPANESE
MIRRORS」の「JAPANESE」とは、「日本の」ではなく(そういう意味も込められているかもしれないが)、「漆」を意味する「JAPAN」からきている(たぶん)。つまり今回は、漆の新作展である。
1m半ほどもあろうかという大きな皿状のパラボラの内側に滑らかに漆を塗り、それを壁に掛けた「パラボリックミラー」シリーズ。作品の前に立つと、つややかな漆に周囲の景色が反射して写り込む。その視体験がひじょうに不思議。パラボラ状に真ん中がくぼんでいるので、凹面鏡の働きをし、かつ漆は作品ごとに「アサギ」「クサ」「コン」「ムラサキ」などの色がつけられているので、通常の鏡のようには明確にものが映らない。
見切れそうでいて、なかなかはっきりとは見えず、もどかしい。きわめて錯視的で、焦点も定かにならず、気が遠くなりそうな眩惑に襲われる。まるで脳内に直接ビジョンが投じられているかのようでもある。また、凹面鏡的作用のためか、少し動いただけでビジョンはある瞬間、臨界に達したかのようにパッと切り替わり、テレポーテーションが起こっているみたいな印象も。
金沢の作品では「世紀の起源」というタイトルがつけられていたが、本展の作品名は「パラボリックミラー」となっていて、いわば、そのまんまなので、作者の意図が汲み取りにくい。しかし、自身の精神的深遠や宇宙概念あるいは哲学的世界観を、作品を通して鑑賞者に直接的体験的に問おうと試みているのであろうとは容易に想像することができる。そこには合理主義だけでは説き伏せることのできない神秘性への信仰が垣間見られる。そんな理屈を抜きにしても、見ているだけで興味深く、やはりタダモノではないと思った。
「パラボリックミラー」シリーズは、金沢でのアーティスト・イン・レジデンス体験の際に漆と出会った作家が、その素材性に惹かれて今回日本で制作したものだそうだ。カプーアのなかに日本が深くしみ込んでいることがうかがわれる。
それから新作ではなかったが、直径1m半ほどの円筒状の器に着色した液体を満たし、円筒全体を一定速度で回転させることによって、遠心力で液体の表面がやはり凹面鏡状になるという意表を衝いた作品も面白かった。
(11/18)
|