20世紀後半の日本デザイン界をリードし続けた巨人・田中一光の軌跡を振り返る展覧会。東京から巡回してきたものだ。展示総数500点というボリュームで、ゲップがでるくらい堪能することができた。ポスターや企業のロゴマーク(無印良品、イッセイ・ミヤケ、ロフト、セゾングループ、共同石油、つくば博、海遊館……などなど書ききれないくらい)の数々は、いままでそうとは知らないまま見ていたもので、改めて驚いた。とても1人の人間によるプロダクトとは、にわかに信じられないくらいである。
展示物の中心はポスター。昭和30年代のものから亡くなる直前のまで、ズラッと一堂に並べてある様子は圧巻である。エントランスを入ると、まず、昭和30年代の産経観世能シリーズが展示されていた。それを見て、いきなりガツンとやられた。いまから40年以上も前の作品だというのに、まったく色褪せていない。いや、それどころか、現在でも新作として十分通用するだろう。
そして、初期において、すでに田中一光の才能はいかんなく発揮されている。その特長の第1は色づかい。青、赤、黄の3原色に加え、紫、橙、緑といった第1次混合色が多用されている。彩度の高い色を使いたかったからだろうと思われる。地は白か黒が多く、そこへ大胆に鮮やかな色を置くので、鮮烈な印象がある。昭和36年の「第8回産経観世能」のポスターでは、黒い地に、色をつけた明朝体の活字を並べる。当時のポスターは写真や絵が中心だったそうだが、ここでは活字のみで構成。その結果、斬新で華やかな印象が生み出されている。驚くべきは、漢字のへんとつくりを別々の色にしている点。一種のコロンブスの卵だと感じた。田中氏は、終始、活字を重要視している。活字のデザイン力を信じた人だった。
第2は、ポスターの矩形を隅までめいっぱい大きく使っている点か。なかには、わざわざポスターの四隅に大きな活字を配して、まんなかは空間にしてあるのもあった。四隅までしっかりと使うと全体に角ばったきちんとした印象になる。概して田中氏は、硬いイメージを好んだようだ。その志向が、素材の配置では隅々まで使うというふうに現われたと思われる。
第3は、調和のなかに1つだけ「破」を取り込むこと。「破」となる要素は、大きさ、色、かたち、線、角度の変化などさまざまだが、要するに異質な何かを1つポスターのなかにあしらうことで、それがアイキャッチになるとともに、全体の“締まり”をつくっている。
――と、ここまで分析的に書いてきて、何だか違うなと感じてきた。田中一光のスゴサは、そんな因数分解的なことではなく、もっと別次元にあるような気もするからだ。これほど広範な分野にわたって、これほど長い年月を最先端でデザイン界を引っ張り続けた人は、まさに稀有の存在だったというしかない。常にある程度の緊張感があり、明快でピシッとしたインパクトのある田中作品。それは、終わることのない追求、尽きることのない意欲、妥協することのない執念から生み出されたもので、そのまま田中一光という人物の生き方を髣髴とさせる。
田中氏の感性が、日本のみならず世界でも評価されたことは、デザイン力の普遍性というものも証明してみせた。残念ながら2002年1月10日に急逝されたが、その足跡は21世紀のいまなお光彩を放ち続けている。
会場の演出は、安藤忠雄氏による。毀誉褒貶するものだが、私には好感をもてるものだった。
(1/18)
|