● ハピネス――アートにみる幸福への鍵
● 2003.12.11
● 森美術館

★★★☆

疲れた。展覧会の印象の第一は、これに尽きてしまう。大量の展示品と、やたらグルグル歩かされる動線に、とにかく疲れた。この展覧会は、ちょっと評価がむずかしい。個々の作品自体は素晴らしいものがあり、インスパイアされるものが多く含まれていたと思うが、それらの作品たちに対する感銘よりも何よりも、「疲れた」という感想が先に立ってしまうからだ。


展覧会を充実したものにしたい、という美術館の意欲はよく伝わってきた。自館のコレクションをもたないにもかかわらず、これだけのボリュームの作品を集めるのは大変な作業だったろうと容易に察せられる。また、「ハピネス」というメインテーマを据え、「アルカディア(理想郷)」「ニルヴァーナ(涅槃)」「デザイア(欲望)」「ハーモニー(調和)」と4つのサブテーマに分け、それぞれの側面から「ハピネス」のあり方を多面的に探ろうという意図も理解できる。現代アートだけではなく古い時代のもの、あるいは西洋も東洋も一緒くたにしてしまうアプローチも私はよかったと思う。そのことによって、「ハピネス」の意味をバラエティ豊かに考えられるものになっていた。つまり、コンセプトも納得がいくし、作品もよかった。なのに、展覧会トータルでは、あまりよい印象は得られなかったという矛盾をはらんでいるのである。


その理由の一つは、やはりボリュームにあるだろう。多すぎ、幅が広すぎて、消化しきれない。「そんなことはない。テートモダンやMOMAなどは、もっと大量にあるではないか」と反論されそうだが、本展がそれらと根本的に違うのは、テートやMOMA、あるいはMETやルーヴルなどは、パーマネントコレクション(常設コレクション)であることだ。つまり、いつ行っても見ることができる。なので、超ボリュームだったとしても、「今日はこれだけにして、続きは次回にしよう」といった見方ができる。

しかし、本展は企画展なので、なるだけ一度に見てしまおうとせざるを得ない。再入場不可なのも、そうした心理をあおる。そのため、私なぞ、最初の「アルカディア」は調子よかったが、二つ目の「ニルヴァーナ」で早くも息切れし始め、「デザイア」と「ハーモニー」に至っては、ほとんど上っ面をなでるだけで終わってしまった。1500円も払って、実にもったいない見方をしていると我ながら思いはしたが、どうしようもなかった。比較的空いていてこれなので、混雑時では推して知るべしである。


動線がやたらクネクネとわかりにくいのも疲労感に拍車をかけた。何度も、森村泰昌の巨大な写真が掲げられたアトリウムへ出てくることになり、少々ウンザリ。見終えて帰る際も、エスカレーターを2つ降りてからでないと下りエレベーターに乗ることができない。しかも、2つのエスカレーターがまた離れているので、もうカンベンしてくれといった気になる。お年寄りや身体の不自由な人にとっては、冷たい美術館だといわざるを得ない。ある程度の迷路感覚は、むしろ心地よいが、ここはちょっと凝りすぎのように思えた。


おまけに私の場合、印象の悪い出来事もあった。「手荷物をどこかへ置いて見たいのだが」と下のチケット売り場で問うと、すぐ近くにあるコインロッカーを教えてくれたので、それを利用した。100円だったから良心的だと思って52階の美術館へ上がると、なんと無料のクロークがあるではないか。わずか100円のことではあるが、気が悪かった。帰りがけにガードマン氏に思わずその顛末をボヤき、「何だか、わかりにくくて疲れますね」とこぼしたら、「うちのジイさんも同じことをいっていました」というので、思わず苦笑。下りのエレベーター内でも、みな異口同音に「疲れた」を連発していた。


というわけで、作品やコンセプトがよくても、運営面がネックとなってうまくいかない場合もある、ということを示している例に思えた。「ハピネス」展であるにもかかわらず、私自身は必ずしもハピネスになれなかった展覧会であった。


なお、よかったと思った作品は次のようなものだった。それから、これほど作品数が多いと、見る者に強制的に時間の提供を強いるビデオ作品はキツイものがあった。


● ターナー 『黄金の大枝』

● アンソニー・カロ 『ポンパドゥール』

● ヤン・フードル 『下級兵士YYの夏』

● ヴィム・ヴァウマン 『マヨルカ島の観光客』

● マーク・ルイス 『アルゴンキン公園、2001年9月』

● シュ・ビン 『英単語漢字によるサイン――女、子供、男』

● 草間弥生 『NO.WHITE A.Z.』

● ビル・ヴィオラ 『ジェリド湖――光と熱に浮かぶポートレイト』

● シラゼ・フシャーリー 『ぼんやりと』

● リー・ウファン 『照応』

● イヴ・クライン 『モノクローム・ブルー』

● 杉本博司 『北太平洋、大黒崎』
(ただし、これは掲示されている海の写真が実は別々の場所で撮影されたものだという予備知識がなければ評価が違ったかもしれないが)

● レモ・サルヴァドーリ 『継続する無間の現在』
(ほんとうは「ハーモニー」にあるべき作品なのに、なぜか「アルカディア」に展示されていたのは不可解)

● 狂言面 『姫』

● 伊藤若冲 『鳥獣花木図屏風』