● フランス象徴派展
● 2003.4.6
● 滋賀県立近代美術館

★★★★

象徴派は、19世紀末のヨーロッパで起こったムーヴメント。当時の時代潮流は、産業革命以来の科学的合理精神によって、産業隆盛や経済発展を追求するものだった。そのなかで、合理性の名のもとで人間が本来的に有しているはずの精神性がないがしろにされつつあるとして、人間精神の深遠と神秘の復興を目指したグループが象徴派である。


中心的存在のオディロン・ルドンは、光や風景を分析的に描こうとする印象派に対して、「思考し、内なる声に聞き入る男の額の下に脈打つものが、印象派のような屋外で起こることがらの観察だけで得られるとは信じがたい」と述べて批判している。ルドンら象徴派は、目に見えるものではなく、むしろ目に見えない人間の感情や夢、あるいは神秘、神性といったものにこそ画家の探究心は向けられるべきだと説いた。


本展は、そのような象徴派のフランスでの展開を紹介する。象徴派といえば、ルドンやギュスターヴ・モロー、シャヴァンヌらを思い浮かべるが、彼ら以外にもさまざまな画家たちがいるということで、今回は日本でこれまであまり紹介される機会のなかった作家たちにスポットライトが当てられている。


なので、知らない画家が多かったが、「いいな!」と思った作品がけっこうあり、なかなか見応えがあった。この展覧会で改めて気づいたのは、自分は象徴派が好きなのだということ。内的世界を探るような静寂に満ちた作品をじーっと見ていると、多忙で慌しい毎日で見失っていた大切な何かが見えてくるような感覚を覚えた。そして、こういう瞑想のような機会は、人間には不可欠といってもいいほど大事な時間ではないかとも思えた。


● アレクサンドル・セオン 『パンジー(思想の寓意)』 ★★★☆

若い女性の横顔のポートレートである。ライトイエローの背景の前で、ライトグレーの古代ギリシア人のようなコスチュームを身にまとい、凛とした視線を前方に向ける。しかし、彼女は人間ではない。パンジーの花輪を頭にかぶり、服にもパンジーの柄が描かれている。「思想の寓意」ということである。何かを決意したかのような強い意思が感じられ、それだけで(何であるかはわからないままにも)説得力があるのが印象的。


● フランティシェク・クプカ 『挑戦(黒い偶像)』 ★★★★☆

20cm四方ほどの小品だけれども、強烈な印象を受けた作品。アクアチントとエッチングによる黒一色のクールな版画である。モチーフは、エドガ・アラン・ポーの「夢の国」という詩。
          *
夜という妖怪が 黒い王座について
悠然と治めるところ
悪の天使らがうろつく
暗く淋しい道を通り
遠くおぼろげなチウレの国から
時空をこえて
厳かにひろがる荒れ果てた土地から
ようやく私は この国についた
          *
「黒い王座」についた夢の国の統治者が主人公である。スフィンクスのように堂々と、圧倒的な存在感で画面右奥に鎮座する。下から見上げるようなアングルで描かれているので、迫力はさらに強調される。統治者は漆黒の闇に包まれており、統治者に近くなればなるほど、光はブラックホールのように吸収され消え失せる。統治者へはるかに通じる道が画面手前からカーブを描いて伸びている。道の横にある岩が逆光気味に白く光る。その様子がドラマチックだ。


象徴派が人間の内面をテーマにしたのは上記の通りだが、それは必ずしも正の面ばかりではなかった。不合理なのに魅力を感じるもの、邪まなのに人を動かすもの、あるいは疑惑や不安といった人間心理の負の面も主題として、作家たちは創作した。本作も、そんな一作である。わが家のリビングに飾っておきたい欲望を覚えた。


●シャルル・マリー・デュラック 『被創造物の賛歌』 ★★★★☆

全9点のリトグラフの組み作品。色相は9点すべてで異なる。オレンジ、青緑、茶、アイボリー、えび茶、うぐいすなどで、それぞれ、それらのごく淡い色彩で、霧の中にあるかのように、おぼろげにモチーフが描かれる。描かれているものは、沼と森、廃墟と森、遠くに朝日(?)が光を差す沼地、水辺と舟、墓地といったまさに象徴的な風景。静寂が支配する世界である。


デュラックのように、象徴派の画家たちは風景も描いたが、それは決して実在の景色ではなかった。心のなかで見た風景であり、メンタルな何かをテーマとしてはらんでいる。本作では、神による理想の世界を描いたのだろうか。異次元にある静謐な光景は詩情豊かで、単純に美しくもあった。


● アルフォンス・オズベール 『夜の神秘』 ★★★★

フライヤー(パンフレット)の表紙に用いられている絵。超自然的な雰囲気を醸し出す青を基調とする林の夜である。月の光が差している。木々のあいだで二人の人物が何かを話し合っている。研究者によれば、彼らはゾロアスター教徒だという。傾斜のついた山の稜線と野の線、そして垂直に立ち並ぶ木々の線がつくり出す造形が面白い。そのため、理知的な印象もある。夢想の中で広がる景観のようだ。


● リュシアン・レヴィ・デュルメル 『青のハーモニー(月光ソナタ変奏曲)』
★★★★

青緑の深海の中のような画面に、誰かの背中だけがぼんやりと見えている。それだけの絵なのだが、とても美しく印象的。これは夢なのか。神秘なムードで、見る者にさまざまな連想を呼び起こす。新印象派の点描のような筆致が画面全体を覆っていることも、超自然的な印象を増している。また、額縁が真っ黒で、内なる世界を暗示する効果を発揮していると感じた。

(5月11日まで)

(巡回展)
5月24日〜7月13日 ひろしま美術館
7月20日〜8月27日 秋田市立千秋美術館
9月6日〜10月19日 北九州市立美術館
10月25日〜11月30日 宮崎県立美術館