●THE ドラえもん展
●2002.8.13
●サントリーミュージアム「天保山」

★★★★☆

とても、面白く、刺激的な展覧会だった。
「これがアートと言えるのか?」「アートって、こういうもんじゃないよ」という声も聞こえてきそうだが(事実、そうした声もある)、私はこの試みは、「こういうのも、アートだよ」と言っていいと思う。また面白いだけにとどまらず、意義あるものでさえあったと積極的に支持したい。それは、おおよそ次の3つの理由による。第1は、現代アートはもっともっと親しみやすいものであるべきだということに、本展はまさしく応えていた点。第2は、アートが本来備えているはずの「癒しの力」が大いに発揮されていた点。そして第3は、子どもたちが曲がりなりにもアートと出合うきっかけになった点である。

会場に足を一歩踏み入れると、ふつうの展覧会とはまったく異なった雰囲気に包まれる。どこからか、「あんなこといいな、できたらいいな。あんな夢、こんな夢、いっぱいある〜けど〜」と、例のテーマソングが流れてきて、美術展というよりはテーマパークにきたような気分に。客層も子どもたち、家族連れがいっぱいで、現代アートにありがちなかしこまった空気は全然ない。こうした一種のお祭りムードはミーハーと言えばミーハーだが、もともとアートが何らかの祝祭や非日常の演出のために発達してきた歴史的経緯を考えると、本卦返りしているだけとも言えそうで、本質論的におかしくない。むしろ、ミーハー的なおかげで、観客動員がかなりの数に上っていると聞いた。

「ドラえもん」というきわめて具体的なテーマを与えられ、それを各アーティストたちがどう料理したか──本展の特徴は、一種のコンペのようになっている点にもある。それぞれのアーティストの本気度、想像力、創造力が見比べられ、見るほうとしては興味深い。印象に残った作品を列挙すると、
・ 杉山知之氏の「ドラえもん製造工場」のCG
・ 福田美蘭氏のレンブラントと組み合わせた絵
・ グルーヴィジョンズ氏のポスター(のようなもの?)
・ 平林奈緒美氏の「ドラえもんテンプレート」
・ ヒロ杉山氏のカッコいい「リアル ノビタ」
・ 森村泰昌氏のドラえもん変身
・ 中村哲也氏の「レプリカカスタム」の力作
・ 奈良美智氏のドラミちゃんの肖像
・ 蜷川実花氏の「ドラえもんとのデートの1日」の写真シリーズ
・ 小野塚秋良氏のドラえもん洋服シリーズの超力作
・ 小曽根真氏のドラえもんのジャズミュージック
・ 佐藤可士和氏のドラえもんグッズシリーズ
・ 土佐尚子氏のドラえもんが人生相談にのってくれるコンピュータシステム
など。
一つひとつについて紹介する余裕はとてもないけれど、さすがにクリエイターと言われる人たちの仕事は、「ドラえもん」からこれほどバラエティ豊かなおのおのの「ドラえもんワールド」をつくり出すものなのだなと感心させられることしきりだった。また、アニメのキャラクターをモチーフにしていても、すぐれたアーティストたちが本気で取り組めば、とても質の高い作品に仕上がるということも見せてもらえた。だから、本展は楽しいのはもちろん、いわゆる美術展としてもレベルの高いものになっていたと思う。

ついつい理屈っぽい文章を書いてしまいがちな私が言うのもおかしいのだが、彼らが見せてくれた今回の「ドラえもんワールド」のように、イージーアクセスが許されることは、いまの現代美術の課題だと思う。いかにも意味ありげで、しかし、意味がわからない作品はまだまだ多く、また、そうした作品をありがたがる風土も根強い。けれども、“自分の脳ミソ”によってではなく、ホントはよくわからないけれども「すごい」と言われるようだからありがたがるといった鑑賞(や評論)のしかたは、もう卒業したいものである。

会場を出る際、ディズニーランドから出たときと同じような感覚を覚えた。それだけ、非日常の時空に自分がいたということだろう。ちょっとハイな気分で平常心ではないとは感じたが、これはこれで一つの「癒しの力」であろうと思えた。著作権の問題や、美術館の企画としての是非など、さまざまなハードルがあったと想像されるが、実現に漕ぎつけた関係者の努力には敬意を表したい。大いに自負していいのではないだろうか。
惜しむらくは、大阪開催のみで巡回展がないこと。せめて東京ぐらいには行ってほしかった。

最後に、つまらない、もしくは、わからないと感じた作品も挙げておく。
・中島英樹氏の写真作品。妊娠している妻の大きなお腹をサイドショットで写したものだったが、どうしてそれが「ドラえもん」展の作品なのか、わからなかった(ちなみに、会場にいた子どもらも「どうしてこれが、ドラえもんなの〜?」と親に聞いていた)。
・ 佐内正史氏の写真作品。自分がドラえもんをテレビで見ていたころに暮らしていた町の風景だそうだが、ただ当たり前の町並みを写しているだけとしか見えず、これもなぜ「ドラえもん」展なのか意味不明(ちなみに、佐内氏の写真作品はこのようなものが多く、私は、佐内氏は高く評価されすぎていると思っている)。
いずれも、手抜きをした結果とは、考えすぎだろうか。

● サントリーで紹介しているhp
http://www.suntory.co.jp/culture/smt/gallery/drm.html

●補注
上の文章では、「巡回展がない」としていますが、その後、巡回展が決まりましたので、補足・訂正いたします。

横浜展 2003年3月15日〜5月5日 横浜そごう
旭川展 5月24日〜7月6日 北海道立旭川美術館
名古屋展 8月2日〜8月26日 松坂屋美術館
大分展 11月1日〜12月23日 大分市美術館
松江展 2004年3月5日〜4月11日 島根県立美術館

です。さらに、ほかにも巡回展の検討をされているようですので、今後、さらに巡回展が加えられる可能性もあります。(03.4.19)