●コーポレート・アート展
● 2002.2.4
● 大丸ミュージアム・梅田
★★★
<総論>
| 企業が秘蔵している美術作品を一般公開しようという趣旨で開かれている展覧会シリーズ。毎年催されており、また各地を巡回するので、訪れた人も多いことだろう。今年は吉野石膏という会社がもっている絵画約100点が展示されていた。
この展覧会は「驚き」の連続だった。まずは、吉野石膏という地味な会社が(失礼!)、これほどのコレクションを所蔵していたという「驚き」。ミレーやドガから、モネ、ルノワール、シスレーらの印象派、ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、さらにはピカソ、ユトリロ、マチス、ヴラマンクはてはカンディンスキーまで、近代西洋絵画史上を飾るキラ星の如き画家たちの作品がズラリと並んでいた。しかも、単にそれらの画家が描いたというだけではなく、それぞれ、なかなかの佳作と見えた。これほどのボリュームの作品を美術館ではなく一企業が持っているとは、ちょっと信じがたいほどだった。いや、美術館でも、これだけのコレクションを備えているところは日本にはそうないのではないか?
続いての「驚き」は、観客の多さ。月曜日の昼休みという“条件”の悪いときであったにもかかわらず、会場はかなり大勢の人で賑わっていた。中高年が多かったようだが、平日の日中にこんなにも多くの人々が集まるのかと、日本人(に限らないと思うが)の印象派好きを改めて認識した。先鋭的な問題提起をする展覧会といったわけではなかったので企画自体は平凡だったが、その分、誰でもアプローチしやすいものともなっていたわけで、デパートの美術館にふさわしいなと思わせるものがあった。
そんな感じで、なかなか立派な内容の展覧会だった──と総括したいところだが、運営上の問題点がいくつか目についたのは残念だった。入り口でチケットをモギッてもらうと同時に1枚のパンフを手渡してくれたので、当然、この展覧会のものと思いきや、そうではなく、次の展覧会の宣伝パンフ。肝心の本展に関するものは、チラシ1枚ないのである。作品リストも、500円也のオーディオガイドを借りた人にのみ配布されていただけ。したがって、オーディオガイドを利用しなかった者には、まったく何もナシなのである。美術の啓発という意識はないようだった。このあたり、この美術館の“本気度”が現れているようで、まだまだ本物とは言えないと思った。 |
<各論>
| ◎
ブーダン 『アブヴィル近くのソンム川』 海辺の景色をよく描いたブーダンの、これは川の景色。だが、この絵を各論で取り上げたのは題材のゆえではない。ブーダンは、印象派の中心人物モネの兄貴格に当たる画家で、モネはブーダンから大きな影響を受けて自分の画風を確立していった。その確立した画風とはいわゆる色彩分割であり、モネが色彩分割を編み出したことによって、あとに続くマチスやヴラマンクらフォーヴの画家たちを経て、カンディンスキーに至る抽象画への道が開いたのは周知の通りである。
ところが、このブーダンの絵には、すでに抽象画の片鱗が現れているのである。川を描いている下半分はまだしも具象の風景画を保っているが、上半分はタッチが粗く、ほとんど絵の具のイマージュの世界が展開している。上半分だけを見ていたら、抽象画だと思っても不思議ではないほどなのである。
この絵が描かれたのは、1890年〜94年のあいだ。一般にカンディンスキーが最初の抽象画を描いたとされる1910年をさかのぼること実に20年である。ブーダンの意図がどのようなもので、どれほど抽象を意識していたかは分からないが、結果から言えば、すでにこの時期においてブーダンは抽象画への一歩を踏み出していたと言わねばならないことになり、絵画史上の一角を占める作品として記憶しておく必要があると思った。この絵との邂逅も「驚き」だった。
◎
ヴラマンク 『大きな花壇の花』 フォーヴィズムの画家としてのヴラマンクのパワー全開といった絵。表題にある通り、花壇を描いている。色彩がド派手ながらも美しい。ただの派手好みではないヴラマンクの才能と計算がうかがわれる。この絵も上のブーダンと同様、ほとんど抽象画に近づいていると思った。カンディンスキーまでの距離は、あとほんのわずかである。そういった意味で、絵画の歴史をつなぐ役割を果たしたことが、とてもよく見て取れる作品だと印象に残った。 |