●「日本そしてインド」展(第3回常設展)
● 2002.12.23
● 秋野不矩美術館

★★★★

美術館へのアプローチ。天気が悪かったのが残念

以前からウワサを聞いていた秋野不矩(あきの・ふく)美術館。最近、メールをくださった方もすすめられていたので、それをきっかけに行ってきた。


秋野不矩美術館は、静岡県天竜市にある。当地出身の画家、秋野不矩氏の画業をたたえて1998年に市立として開館した。コレクションもさることながら、美術館自体が見もの。藤森照信氏による設計だ。地元の天竜杉が使われていたり、壁もワラ入りの漆喰であったりするので、おおよそ美術館一般のイメージからはかけ離れている。公共施設と言うより大きな民家のようで、どなたかの家にお邪魔するような感覚を覚える。きっと、それが狙いなのだろう。構造体としては鉄筋コンクリート造りだが、来館者が接するところはほとんど漆喰や木でできているので、とてもそんなふうには思えない。また、開館したのは4年前と比較的新しいのだが、“古きよさ”といった雰囲気もある。周囲の自然環境とも、とてもよくマッチしている(大山崎山荘美術館もこうした方向性で新館をつくったらよかった)。

テラス。画家が生まれた天竜市をのぞめる

入口は、自動ドアではあるものの、いわゆる引き戸で、これがますます民家風の趣を醸し出す。中に入ると、入館者は靴を脱がなければならない。男の私にはどうということもなかったが、女性の中には抵抗を覚える人がいるかもしれない。スリッパに履きかえるのも束の間、展示スペースにはさらにスリッパも脱ぐ。ますます個人の家に上がる感覚だ。もちろん、これも秋野作品を鑑賞するのに最適と思われる演出の一つなのだろう。


くつ下だけになって、ほとんど素足感覚でギャラリーを見て回る。おのずから寛いだ気持ちになる。壁や床に混ぜ込まれたワラが、心を和ませてくれる。壁も床も何となくデコボコしていて、洗練されきっていないところがいい。ワラづくりの家でストローベイルハウスというものがあるが、それに近いかもしれない。外見は、想像以上の大きさがあったが、展示スペースは建物の大きさに比べると、ちょっと狭い気もした。業務用のプライベート空間がけっこうあるのかもしれない。メインギャラリーの天井部には自然光が入るようになっていて、より自然との親和性を感じさせる。

屋根も石ぶきで、自然風そのもの

さて、肝心のコレクションのほう。秋野氏は、1950年ごろまでは、花や人物などを題材に割合に一般的な日本画を描いていたようだが、50年代以降は画風がかなり変わっている。緻密で規範通りの描き方から、素朴で自在な画風へと変わったように見えた(もっとも、必ずしもほかの作品をよく知らないので間違っているかもしれない)。何となく、伝統のしがらみから抜け出して、画家独特の世界を表現するのをためらわなくなったような感じを受けた。それらは細かいことにあまりこだわらないで描いているようでありながら、キラリと光るものを感じさせる。構図が一つひとつ面白い。造形的なセンスは天性のものだろうか。


水牛が沼で水浴びをしているところや古代の寺院の遺跡などが題材に選ばれている。色数はさほど多くない。多くが茶色やレンガ色など、いわゆるアースカラーに属する色調で統一されている。そのため、人間や動物の原始性や自然の存在が常に伝わってくる。54歳のときインドの大学に招かれ1年間滞在した経験が大きかったようだ。以来、インドをテーマにした作品も描き続けたが、それらは悠久の歴史浪漫を彷彿させるイメージである。平山郁夫氏のシルクロードシリーズとも通ずるものがある気がする。


秋野不矩美術館は、ほかにまず例を見ず、なおかつ秋野不矩という画家の個性ともよく合った、とてもユニークな試みがなされている美術館と言えるのではないだろうか。公立の美術館が、いわゆる箱モノ行政の犠牲になるケースが少なくない中、ここは一味違う美術館として注目したいところだ。今後は、運営面でも美術館の個性に見合った独自のものを期待したい。何だか展覧会ミシュランというより、美術館ミシュランみたいな内容になってしまったが、お許しを。