「この人に聞く」に出演された あんだんて講師バックナンバー  

No. 講師名 タイトル インタビュー日/場所
鹿島 敬 (かしま たかし) さん

実践女子大学人間社会学部教授、内閣府男女共同参画監視・影響調査専門調査会委員
今なぜ男女共同参画か? 2004年12月5日
(市内宿泊先旅館)
塚原 東吾 (つかはら とうご) さん

神戸大学国際文化学部准教授
男女共同参画は地動説 2005年6月25日
(市男女共同参画センター)
中野 麻美 (なかの まみ) さん

NPO法人派遣労働ネットワーク代表、弁護士
雇用の多様化の果てに〜
ワーキングプア、長時間労働の増加とその背景〜
2007年6月25日
(市男女共同参画センター)
河野 美代子 (こうの みよこ) さん

河野産婦人科クリニンク院長、産婦人科医
産婦人科受診から見えてくる性教育への提言 2007年9月2日
(市男女共同参画センター)
野中 広務 (のなか ひろむ) さん

元内閣官房長官
男女共同参画社会基本法
制定から10年を振り返る
2009年6月28日
(市福祉健康センター
多目的ホール)









今なぜ男女共同参画か?

鹿嶋 敬 さん
【プロフィール】
千葉大学卒業後、日本経済新聞社入社。編集局生活家庭部長、編集局次長兼文化部長、編集委員兼論説委員を経て、現在、実践女子大学人間社会学部教授、内閣府男女共同参画監視・影響調査専門調査会委員。著書『男女共同参画の時代』(岩波新書)、『男女摩擦』(岩波書店)、『男の座標軸』(岩波新書)、『男と女 変わる力学』(岩波新書)ほか。

このインタビューは、2004(平成16)年12月4日に武生市福祉健康センターで行われた、たけふ男女共同参画ネットワーク主催の講演会後に収録したものです。


「かくあるべし」からの開放

Q1.男女共同参画社会とはどんな社会?

A.男女共同参画社会基本法(以下「基本法」)の前文の一節に「性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる社会」とあります。まさにこの通りで、今まで男性だからとか、女性だから、「かくあるべし」と言っていた「たが」の縛りを外すということ。性別ではなく、個人の色んな夢や希望や意思が尊重される社会ということだと思います。


「男女平等」?「男女参画」?

Q2.男女共同参画社会を別なことばで表わすと?

A.「男女平等」です。男女平等というと、なんとなく建て前の平等で、いつまで経ってもその言葉が現実的なものにならないので、更に別の表現をすれば「ジェンダー平等」という言葉。「ジェンダー平等」は実質的な平等という意味ですからね。英語では、「Gender Equality(男女平等)」、でもそれを日本語に訳すと「共同参画」になっちゃう。ちょっとおかしいんですがね。これは基本法を国会で通すにあたって、一部議員の中の「平等」という言葉へのアレルギーがあったためですね。「平等」という言葉に2つの意味が内蔵されていて、1つは「機会の平等」、チャンスが与えられるということ。これは均等法などでも保障しています。もう一つが「結果の平等」、結果的に人数を合わせるというようなこと。これには極めて産業界のアレルギーが強いんですね。私は「機会の平等」だけで、男女平等が達成できるとは思っていないんですがね。基本法の平等の中には、「結果の平等」も少し入っている気がするんですが、均等法では否定していますね。「結果の平等」に対してアレルギーが強い産業界の意向を反映したため、「男女平等」って言葉を使わなかったということですね。その代わりに出てきたのが、「男女共同参画」。「参加」ではなく、「参画」というところがミソでしてね。そこに非常に積極性が入っていて、誘われていくのではなく、自主的に道を拓いて行くという意味が「参画」に込められているということですね。でもこれは牽強付会で、後でそういう意味をくっ付けたというだけで、そもそも政策的な配慮からうまれた言葉ですね。


「片働き家庭」から「共働き家庭」へのシフト

Q3.政府が男女共同参画を推進する背景には、どんな社会・経済的要因が?

A3.一つには国連を中心とした1975年(国際婦人年)以降の大きな流れがあります。グローバルな形で女性の地位向上を図っていくという有形無形の圧力が均等法、基本法制定の背景にはありますね。もう一つ、基本法について言えば、日本政府が1985年に批准した「女子差別撤廃条約」の影響が大きいですね。この条約の画期的な点は、国際条約の中で初めて伝統的な性別役割分業を否定したということです。(前文「社会及び家庭における男子の伝統的役割を女子の役割とともに変更することが男女の完全な平等の達成に必要である」)あらゆる分野に男女が一緒にかかわるんだというこの条約の内容が、基本法の前文にも入ってくるんですね。そういった大きな国際的流れと同時に、日本国内での戦後の参政権を中心とする女性運動が成熟化してきたというのも要因でしょうね。もう一つは、経済が変化してきたということですね。昨日も男性が居たんで大分強調したんですが、やはり「片働き家庭」ではなくて「共働き家庭」へのシフトというのがかなりできてきていて、それは決して理念とかいうのではなくて、そうしないと家計が維持できないという現実的な対応があるということですね。


企業の責務:コンプライス=法令遵守

Q5.行政、市民の他に事業者(企業)の責務についてどうお考えですか?

A5.男女共同参画の理念はいま言ったように様々にあるんですが、一方で女性に対する行政の展開を総合調整的にやるという視点もあるわけですよ。基本法に基づく初の法定計画である男女共同参画基本計画の内容は、目新しいものではなくて、いままでずっと行動計画に盛り込んできた内容を改めて整理して、各府庁が総合調整的に関わるというものです。例えば職場の男女平等だったら、厚生労働省だけじゃなくって、他の省でもそれに関わってくるような関わり方なんです。その計画の中に11の重点項目があるんですが、そのうちの一つが均等処遇で、職場に密接に関わる問題です。それに嫌だという企業者いればおかしなことで、コンプライス=法令遵守していないということですから。基本計画、あるいは基本法のことを、そこまでやらなくてもという理屈は、まったく通じないですね。日本は法治国家ですから、法が定めたことを守れないというのはおかしなことです。しかし実際、均等法などを守ってない企業がありますね。妊娠・出産を告げたとたんにリストラの対象にするとか、セクハラの加害者として経営者が訴えられるというケースがあります。まだまだそういう意味では法令遵守が足りないと思います。これは別に性別役割分業うんぬんの問題ではなく、人権としての問題ですからね。


中小企業が武生の活性化の鍵

Q6.男女共同を参画を企業戦略として取り組む大企業が出てきていますが、中小企業が取り組むにはどうしたらいいか?

A6.なんで中小企業がそれをできないのか?それをやった方がメリットや利益が出るんですがね。仕事を人力でやっていた一昔前の社会だったら、労働力としては体力に勝る男のほう良かったんですが、いまはそれを機械が全部やってくれます。どんな単純な仕事でも、基本的に頭を使ってやってますから、男女間にそんなに格差はないですよ。でも多くの経営者は、女性は子育て家事などがあって仕事だけに没頭できないから、労働力として男より劣るという考え方を持っているわけですよ。しかし日本の将来を考えると、そのことが少子化に繋がり、しいては経営者を圧迫するわけで、そのことを考えると、小さな企業うんぬんは通用しないと思います。次世代育成支援対策推進法だって、そのへんのことを慮って、従業員301人以上の事業所に対して行動計画の提出を義務づけたんですよ。300人以下は義務づけてられていない、努力義務なんですけど、労働組合の中には、300人以下の事業所も行動計画を出そうとしているところもあります。女性が働いているのはむしろ300人以下の事業所なんで、少子化対策の次世代育児支援ならば、そういう小規模の事業所ほど本当は必要なんですよね。経営者の認識も変える必要があります。経営を圧迫するどころか、むしろプラスになってくると思います。なまじ男よりも優秀な女性が使われずにいるわけですから。その人を使いましょうということになれば、そのひとたちはやってくれるわけで。むしろ行政はその視点で経営者に説くべきだと思う。中小企業だから仕方が無いという発想自体がおかしいと思う。武生についても、その方がプラスになる、むしろ武生の町を活性化するんですよという視点。これは論理的なレトリックでもなんでもない、実際そういう風なデータはたくさんあるしね。そういうデータ―を経営者に見せてあげた方がいい。


企業戦略としての男女共同参画

Q7.大企業が男女共同を参画を企業戦略として取り組む理由、目指すものは?

A7.利益が出るからですね。企業というのは効率性とか利益というものを中心に動くわけです。利益の出し方も法令遵守という一定の制約の中でやるわけで、均等処遇して活動しようとか、公害を出さないで商品を作っていこうとか。これからの企業のあり方は、利益を出しつつ、地域社会にも様々に貢献し還元していくというもので、その中の手法の一つが、男女共同参画とかダイヴァーシティ(多様性)なんです。画一的な経営手法や人事管理ではなくて、働いている多様な人たちの生き方を尊重し、その人たちの個性を活かせるような仕事の仕方が、結局利益を産み出すということですね。男だけの場合は画一的な人事管理はOKだったんです。なぜかというと、家庭という問題をみんな切り捨てられて、妻に全部任せられたから。でも、いま多様な人材なんですよね。女性も男も働いている。女性の中には結婚して子どもがいる人も働いている。ダイヴァーシティというのは、もともとアメリカで、障害者、女性、マイノリティの人たちの雇用救済という側面で始ったのですが、最近はその多様性の中に年齢が入ってきてるんですよ。男と女の考えの違いより、10代と60代の考えの違いの方が大きく、そのギャップをどう埋めるかが今後の課題で、男女間の性差別をなくしてきたアメリカでは、むしろ性差別より年齢差別が深刻で、「エイジダイヴァーシティ」(多様な年齢)ということが、日本でも将来問題になってくると思いますよ。仕事の配分の仕方とか、30代なんか一番忙しくて、我々のような50代はそんなに忙しくないと。しかし、30代は子どもが小さくて、男性社員なんかもっとも家庭に関わりたくても実際は関われない。そこではむしろエイジダイヴァーシティ、年齢でどう仕事を配分していくかという問題が出るでしょう。そういう風なことを考えると、みな経営戦略なんですよね。アメリカの企業は、IBMにしろみんなダイヴァーシティを経営戦略にしていますね。一部の日本企業でもたとえば化粧品会社などは、男女共同参画のリーディングカンパニーになろうとしていますね。(男女共同参画の方が)メリットがある、儲かるんですよ。


非正規の時代が到来

Q8.就業形態が多様化し非正規雇用が増加しておりその7割が女性で、男女共同参画の理念に逆行する流れがありますが、そのことについてどう思われますか?

A8.非正規の流れは、もう多分止まらないと思います。旧日経連などもこれからの雇用形態3つの指針というのを決めています。一つは補助的労働、これは有期雇用の人、それから二つ目に専門的労働、これもプロジェクトごとの有期雇用にしていく。3つ目は正社員。これは基幹労働。いままでは管理職になるのが難しかったが、これからは正社員にあるのが難しい非正規の時代がくると思います。ところが、日本は正規と非正規のギャップが大きすぎますね。正社員でいればとにかく、なんとなく形がついてある程度の賃金があるますが、非正規になったとたんガタンと落ちて、半年後の見通しさえつかない、1ヵ月後自分がどうなるかの見通しさえつかない。これから非正規雇用の保障、格差の縮小というのをやらないと日本の国が将来危うくなると思います。日本はいままで治安がよかったというのは、いままで中流だという幻想を抱かせる、ある意味格差のない社会だったんですが、これから、企業に対して忠誠心をもてないような社員とか、将来の見通しがたたない社員とかが増え、格差がでてくるでしょう。勝ち犬、負け犬という言葉が出てきているくらいですから。ジニ計数という格差をみる指標も、格差拡大に動いています。ヨーロッパでは一時的な短期プロジェクトの人を雇うときに非正規にしますが、他は基本的に正規雇用で雇うんですよ。ところが日本は経営者が人件費削減でなんでもかんでも非正規にしてしまっているでしょう?これはゆゆしきことだと思います。この問題をこれからどうするかというと、正規と非正規のギャップを埋めることです。どういう雇用形態になっても、労働の質が同じであれば同じように処遇される前提に返る必要がある。難しいですよ、これは。なぜかっていうと、正社員も精査されますから。でも組合もようやくそっちの方に動きましたね。


あなたの生き方が問われる時代

Q9.最後になにか一言ありますか?

A9.日本はやはり、変化に対する歩みが遅いですね、特に男が変わらない。男が守旧派なんですよね。多分居心地がいいんだと思います。でも日本は男にとっては、一見暮らしやすいかもしれませんが、家計責任の担い手として経済維持の責任を全て担わされるような社会というのは、責任ばっかり強くて、肩肘ばかりはらなくちゃいけなくて、結構窮屈な社会なのかもしれないですね。男女の役割がある意味で変えられ、お互いにリスクヘッジできるような社会が必要なんじゃないかなという感じがします。我が家は共働きですけど、妻は経済能力がありますから、妻との関係は何が基盤かというと愛情だって言って誤魔化しているんですがね。男性と女性の関係性は、そういう意味で再構築していく必要があるかなと感じています。今の時点で言えるとすれば、男女間の意識のギャップがかなり開いちゃっている気がします。男性守旧派に対して女性が現状改革派。もちろん現状肯定派、維持派っていう女性もたくさんいますけど。高学歴社会になればなるほど、私たちこのままでいいのかしらという疑問がでてくる。学校時代、中高大くらいまでは男女で一緒にやってきても、社会に出てから、男は結構就職できても、女はいつまでたっても氷河期とかね。男はその会社に入ったらずっと働くんだと迷わず人生を送れるけど、女の人は結婚すべきか出産すべきか、出産したら家に入るべきか、常に二者択一の選択ばかり迫られているという、不公平じゃないかということもある。その意味で、女性の生き方もさることながら、これからは男性の生き方の方が問われる時代です。ある外資系の会社が女性だけで行なっていた活性化組織を、会社の戦略として取組み始めました。これは、男性も変わるべきなんだということを示唆しているんですね。日本の男は企業が変われば変わる可能性はありますよ。企業が変わらなきゃダメね。







男女共同参画は地動説

塚原 東吾 さん
【プロフィール】
1961年東京都生まれ。東京学芸大学教育学部化学科卒。オランダ・ライデン大学医学部博士課程終了(博士号取得)著書にAffinity and shinwa Ryoku(Geiben, Amsterdam)、論文に「科学と帝国主義が開く地平」(『現代思想』、2001年8月号)、翻訳書に『オランダ科学史』(朝倉書店)など。

このインタビューは、2005(平成17)年6月25日に武生市男女共同参画センターで行われた「Gカレッジ学習編@〜ノーベル賞になぜ女性が少ないのでしょう」後に収録したものです。



科学史を研究するきっかけは?
 

 もともと物を作ったり機械を動かすのに興味がありました。大学で放射線物質を扱う研究室に所属しましたが、研究を進めるにつれ「これは安全ではないのでは?そもそも科学は人を幸せにしないのでは?」と疑問に思うようになり、もっと違うものが見たくなったときに、オランダに留学する機会に恵まれました。オランダは江戸時代に日本に入ってきた蘭学の源流でもあり、その本場で科学史を研究したいと思うようになりました。



ノーベル賞に女性が少ないのは?

 講座で述べましたが、そもそも科学は男性中心的、西欧中心的なものでした。そのため19世紀の日本の優れた学者たち(細菌学者の北里柴三郎やビタミンB1の発見者の鈴木梅太郎など)もノーベル賞が取れなかった。西欧にも女性の優れた研究者はいたが、夫や兄弟の名前で出版したり助手として研究生活を終えざるを得なかった。しかしそもそも、女性は大学にさえは入れなかったんですから、科学研究はあらかじめ女性を排除していたんです。シービンガーら歴史家たちは、そんな彼女たちを「見えざる助手」と呼びました。女性が受賞者に少ないのは、女性の能力が低かったのではなく、科学の世界が、そもそも女性を締め出し排除してきた歴史があるからです。



科学者より医者志向の女子学生

 80年代にノーベル賞を受賞した3人の女性科学者がみな独身であったように、競争力や知的生産性が強く求められる科学の世界では、出産、育児、介護などの母親・妻役割を果たしながら、女性が研究を続けることが非常に難しい現状があります。経済協力開発機構の調査で、日本の15歳の理系の学習能力に男女間に優位な差が見られないという結果が出ていますが、日本では、理数系は男子、文系は女子が得意であるという考えがかなり流布しています。物や化学系は女性の進出がややみられますが、物理や数学はまだ男性の牙城です。先日のハーバード大学学長の性差別発言に見られるように、教育現場では、学生への進路指導や期待度に男女間で違いがあります。

 また研究者を採用する際、既婚男性、未婚男性、未婚女性、既婚女性の順で採用を決める、「稼ぎ手の男性を優遇する」暗黙の了解があります。もちろん、応募者の能力が大前提ですが、同等レベルならこの順番になります。女性研究者が結婚すると、「パートナーがいるからいいでしょう」となるのです。
このように男社会が貫徹している科学の世界に女性が参入するのは非常に困難で、理科系に優れている女子学生は、職業的に安定している医学部を選ぶ傾向があります。



性別による職業選択は人材の損失

 現代の科学技術は、重厚長大から短小軽薄に変わり、必要とされる能力は、コンピューター操作技術や、柔軟な発想や忍耐強い思考力などで、それには男女に能力差があるとは証明されていません。性別で職業選択を行うのは、能力の無駄づかいであり、まさに人財の損失です。

 このことは男性の職業選択にも言えます。
男性にも人のお世話(ケア)をする力が高い人、コミュニケーション能力に優れた人もたくさんおり、介護士や保育士になっています。高齢者や子どもたちにとって、男性のケアワーカーの存在はとても良いことです。サービスの需要者が男女同数いれば、供給者に男女同数いていいのですが、ケアワークの分野は、女性の仕事だからということで、一般に賃金が低く抑えられ、男性は若いうちに転職を考えざるを得ない現状です。男女間の賃金格差をなくし、人々が生き生きと希望の仕事を続けられれば、日本はもっと暮らしやすい社会になると思います。



科学と歴史:共同参画は地動説

 マスコミなどに流布している、いわゆる通俗的な科学には疑問をもって接して欲しいと思います。科学に似て非なる「擬似科学」は、かつてナチスの人種科学に見られるように、科学の名を語り偏見と差別の拡大を助長させました。性差の科学といわれるものも、かなり怪しいものが多い。たとえば天動説もある時代までは科学でした。地動説が出現してもすぐに受け入れられたわけではありません。これは男女共同参画にも言えることだろうと思います。現実主義の名のもとに既存の性差に関する差別や偏見を助長するのが天道説的で、男女共同参画は地動説的です。

 科学では「見ることは解釈すること」、一見正しいように見える性差の根拠も、自分の目で見て自分の頭で考える知的な作業をすることで、根拠の是非を問い直すことが大切です。性差や能力差を安易な解剖学的結果、特に近年流行の脳の差などに直接に結びつけることは、天動説のような疑似科学的なものであって、あくまで、まだまだ科学的なものではありません。

 そのためにも、歴史から多くを学んで欲しいと考えています。どんなに男女共同参画社会やジェンダー問題にたいして、どんなに反対の意見や心情が強くあっても、「それでも地球は回る」といったガリレオのように、歴史はどちらが正しかったかを証明してくれているのですから。








雇用の多様化の果てに
〜ワーキングプア、長時間労働の増加とその背景〜

中野 麻美 さん
【プロフィール】
1975年北海道大学法学部卒業。79年弁護士登録(東京弁護士会)。現在は、派遣労働ネットワーク代表・日本労働弁護団常任幹事として活躍。著書に『労働ダンピング』(岩波新書)、『派遣社員トラブルなんでもQ&A』(日本法令)、『働く女たちの裁判』(共著、学陽書房)、『21世紀の男女平等法』(共著、有斐閣選書)などがある。

6月27日「Gカレッジ講座@雇用の多様化の果てに〜ワーキングプア、長時間労働の増加とその背景〜」が行われ、講師の中野麻美さんの話に、多くの市民が熱心に聞き入りました。講演の概要と、中野さんのメッセージを紹介します。



最近の相談事例から

 製造工場で派遣社員として時給1100円で夜勤で働く女性。月収T万円ほどですが、そこから寮費5万円が天引きされます。寮は2DKのアパートに4人で暮らし、2人で4畳半1室ですが、夜勤と昼勤の組み合わせでしのぎます。ストレスがたまり、トラブルが絶えません。
 派遣労働が禁止されている建築、倉庫、港湾などの職場でも、日雇い派遣社員が働いています。安全は考慮されず、石綿が飛ぶなかでタオルを口元に巻くだけだったり、スニーカーで釘を踏み抜いてけがをしたしります。広告料や派遣先に対する保険料が日給から差し引かれ、手取りは5000円ほどにしかなりません。
 このような雇用、労働が広がっています。低賃金の若者たちは住むところを確保できず、ネットカフェやファーストフード店に寝泊まりします。人間は働くことで結婚や家、子どもなどの未来を描けますが、低賃金労働には未来がありません。




背景にある女性問題

 東京で時給900円のパート勤務をしていても、年間収入は生活保護を受けた場合の300万円以下です。今の若者の低賃金労働は、パートに準じています。
 パートは従来、主婦の家計補助的労働としてとらえられました。一人前の労働者とは見なされず、賃上げの対象にもなりませんでした。
 1986年に男女雇用機会均等法が制定され、年金法が改正されたことは、女性の労働と雇用について大きな転換点でした。均等法では、女性は男性並みに働くことができるかが問われました。これは男性にとっては、家庭を顧みずに過労死するほど働くことを容認させられたということです。年金法の改正は、課税最低限の年収103万円以下で働くパート労働者を固定化につながりました。




非正規雇用者と正社員

 現在、正社員と非正規雇用者が重なる職場は約7割と言われています。職場に1人派遣が入ってきて、その人が役に立つ仕事をするとどうなるでしょうか。正社員に払う給料が払いすぎになってしまうのです。
 使用者は成果主義を導入したり、解雇したりして、正社員に払う給料を取り返したいと思うようになります。非正規労働者は低賃金長時間労働となり、正社員は非正規労働者と比較され、給料分の仕事をするように求められます。
 労働力は値崩れしく、正社員に適用される労働法には競争原理を抑制するねらいがあります。しかし派遣契約は独占禁止法の管轄です。これは競争を進めるねらいがあり、派遣の広がりは労働のダンピングにつながります。




未来のために

 未来の展望がもてるような社会をつくることが大切です。正社員が非正規雇用者に配分をまわすムーブメントを作らないと変わりません。
 実際に、正社員の賃上げはゼロでいいから、いつもの賃上げ幅以上を派遣に回すよう春闘で求めた労働組合が出ています。非正規雇用者を守ることは、正社員も守ることになります。パートや派遣の賃金水準をあげることが、年齢や職場を問わず社会に必要だという認識が広がるよう、働きかけが大事です。




福井の女性たちへのメッセージ

 活動しなければいけないことはたくさんあります。企業、自治会などの地域、介護など社会サービスに積極的に進出し、女性のパワーを蓄えていきましょう。
 差別は形を変えて生き続けます。格差や差別の構造を目に見えるように指摘する視点は大事です。男性中心の労働組合や地域に働きかけていきましょう。そして、男性たちも、自分たちの問題として考えてください。それは、すべての人の人権を守ることです。





産婦人科受診から見えてくる
性教育への提言

河野 美代子 さん
【プロフィール】
1972年、広島大学医学部卒業。81年総合病院産婦人科部長を経て、90年河野産婦人科クリニンクを開業。ボランティア団体「広島エイズ・ダイヤル」代表を務める。89年社会情操教育に貢献した女性に贈られるエイボン教育賞受賞。日本思春期学会理事、更年期医学学会会員。著書に、『新版さらば、悲しみの性〜高校生の性を考える』(集英社文庫)、『産婦人科の窓口から〜今だからこそ伝えたい』(十月舎)、『河野美代子の更年期ダイアリー』(高文研)など多数ある。

このインタビューは、9月2日に越前市福祉センター多目的ホールで行われた「Gカレッジ講座B日本の女性事情〜お産難民から更年期まで〜」後に、市男女共同参画センターで収録したものです。


いまの若者の性の実態はどうです?

 性行動をとるこどもたちは、どんどん低年齢化しています。性についての知識が行動に付いて行ってない、逆の見方をすると、知識がないから行動を取っているとも言えます。一昔前の大学生が高校生になり、高校生が中学生になり、中学生が小学生になりという状況ですね。産婦人科には生理痛や生理不順が原因で受診に来る人が多いのですが、性的なトラブルで産婦人科に来るこどもは、今もあとを絶ちません。


性行動の低年齢化の要因は何ですか?

 社会の情報ですね。情報化社会では性に関する多くの情報が、雑誌、インターネット、アダルトビデオなどに溢れています。しかし、情報は私たち専門家から見れば本当に間違ったものばかりです。性というのは妊娠する行為だとか、性感染症のことだとか、まったくない性の情報をみて、こどもたちは行動をとっています。だから妊娠はする、性感染症にかかるんです。こどもたちには、正しい情報を与え、情報を選択する力を身につけさせることが大切です。大人になる過程で、自分の身体のこと、妊娠のこと、性感染症についての正しい情報を知ることで、こどもたちの行動は慎重になってきます。


正しい性についての情報は、誰がこどもに与えたらいいのでしょう?

 大人が家庭での子育ての中で、または学校の教育の中で与えるべきでしょうね。子どもは幼児期から色んな質問を大人にしてきます。子育ての中で大人が子どもの目を見ながら正直に教えていくのがすべてです。大人が逃げたり誤魔化したりすると、こどもはすぐわかりますね。こういうこと親に聞いちゃいけないんだって。こどもにすれば素直な質問なので、しっかりそれに答えるということは、ひとつに正しい知識を与えること、二つ目に、何でも自由に話し合える関係をつくるという意味がありとても重要なことです。


大人がこどもに伝えるためには何が大切でしょうか?

 大人が無知とかいうのではなく、性は嫌らしいものなんだ、恥ずかしいものなんだと偏見を持つと、こどもには伝えられないですね。「そんなこと言っちゃいけません」「大人になったらわかります」とか言って、大人はよく逃げてしまうんです。大人自身が、性はとっても大切なものなんだと、真正面から向き合うことではじめて、こどもたちに伝えることができると思います。性教育をしてはならないという人は、性というものを嫌らしく捉えているんでしょうね。とても大切なものと思えば伝えられるはずなんですが。お金を媒介したもの、遊びとして性を捉えるのではなく、二人が共に生きるコミュニケーションとして捉えることが大切です。二人が二人で生きるのに、お互いを、お互いの性を大切にしながら生きると、二人で生きるのがもっともっと楽しくなるんです。「一人でも生きられる。二人で生きれたらもっと楽しい」ということです。でも最近、コミュニケーションがしっかりとれているステキな夫婦って、本当に少なくなってきましたからね。


性を教えるのに、大事にしたいことはありますか?

産婦人科のクリニックに来る更年期の女性と話をしていて感じるのは、夫婦間のコミュニケーション不足です。若い頃からお互い、「性」のことをはじめ、しっかり話し合うことが大切です。色々溜めないで話をしなきゃだめですね。でも、心にあるものを何でもかんでも言えば良いというものではありません。こどもの時から、「こういう言い方をすると相手は嫌な思いをするんだな」とか「こういう言い方をすると相手は温かく受け取ってくれるんだな」とか学ぶことが大切です。自分の意見をしっかり言いつつも、相手の意見にもきっちり耳を傾けることが、最近すごく下手になってきています。自分の意見も他人の意見も尊重する自己尊重(=アサーティブ)トレーニングを、幼い頃から教育の中でしていかなければいけないと思います。


10代の若者に一番伝えたいことは何ですか?

 まず、正しく身体のことを「知ること」です。次に、「性」は妊娠する行為であること、妊娠する「性」を持っている女性は自分の身体に、また相手を身ごもらせる「性」を持っている男性は、彼女の身体に責任を持てということです。それに「避妊」をしっかり教えたいですね。基本的に性は素晴らしいもので、ステキなものです。そんな性を営めるステキな大人になろうねということを、こどもたちに伝えたいです。







男女共同参画社会基本法
制定から10年を振り返る

野中 広務 さん
【プロフィール】

1925年京都府生まれ。'51年より園部町議会議員、同町長、京都府議会議員、京都府副知事を経て、'83年衆議院議員に初当選する。'94年自治大臣・国家公安委員長、'98年国務大臣・内閣官房長官に就任する。内閣官房長官在職中、男女共同参画社会基本法の制定に尽力する。2000年自由民主党幹事長、2002年同党男女共同参画推進協議会会長を務め、2003年、衆議院解散をもって、政界を勇退。現在は、全国水土里ネット(全国土地改良事業団連合会)会長、京都府身体障害者団体連合会会長、社会福祉法人「京都太陽の園」理事長などを務める。


このインタビューは、6月28日に越前市福祉センター多目的ホールで行われた記念講演会「男女共同参画社会制定から10年を振り返る」の内容をまとめ、センター機関紙「わんさ」16号に掲載したんものです。掲載にあたり字数の宣言から、内容は一部抜粋してあります。

政治のバランスを取りながら
 
 私は法案を準備したわけではなく、幸運にも成立した時の官房長官であっただけですが、皆さんがこのように
基本法を大きく意義づけて下さり、その理念が生かされていき、日本社会の支柱となることは、その時代にそのポストにいた者として非常に光栄で感慨深いものがあります。
 98年の参院選で自民党が大敗して、小渕内閣が発足しました。当時は拓殖銀行、山一證券が破綻し、大手銀行が金融危機に陥っており、金融再生法、健全化法案を通す必要がありましたが、厳しい政治情勢で法案を通すには大変な苦労がありました。昨日まで与野党で対立していた公明党に協力を求め、共に天を戴かずと思っていた自由党の小沢一郎代表に「ひれ伏してでも国難を助けてほしい」と記者会見で呼びかけ、民主党の鳩山由紀夫君とは夜な夜な相談をして、あの国難をなんとか乗り切ることができました。国会の裏側には色々駆け引きがありましてね、法案を通すためには苦労がいるわけです。

基本法も当初は一内閣では通らないと思われていました。しかし、岩男先生、古橋先生方が法案の骨子を作成し、当事男女共同参画室長だった名取はにわさんが、早く国会の審議の場に出すために懸命な努力をしてくれたお陰で小渕内閣の時に制定することができました。
 国会ではいろいろな質疑応答がありましたが、男女が共同して社会を作っていくという大きな基本線に正面から反対できる人はいませんでした。枝葉について言う人はありましたが、この法案は通してくれました。

基本法制定後、各自治体で男女共同参画推進条例が制定されました。全国に先駆け男女共同参画推進条例を議会に提出した千葉県ですが、いまだに議会を通っておりません。
 しかし、当地では、県条例の制定を受けて旧武生市、越前市が熱心に取り組まれたことに敬意を持っています。男性社会のなかで条例に仕上げていくために、司にある人は、人に言えない苦労をしただろうと思います。



省庁再編のなかで

 かねてから男女共同参画に熱心だった小渕首相に、男女共同参画法案の大きな仕上げをしてもらおうと、省庁再編担当だった太田誠一総務庁長官に総理府(現内閣府)に局の余裕を一つ残してもらい、男女共同参画室を局に格上げする法案を作成しました。首相に決裁をもらいに行ったところ、「よくやってくれたな。ありがたいことだ。よくここまで段取りしてくれたなあ」と言っては判を押してくれました。省庁を整理縮小する最中に、総理自らが室から局に格上げするというあの決断は、歴史的に大きな意味があることでした。私は小渕さんに仕えてわずかではありましたけれど、あの時の小渕さんの感慨深い気持ちをいまも忘れることはできません。



男女平等と平和の原点

 私は女性の地位向上のために長年働いてきました。そのルーツは母親にあります。戦争中、私の町に住職が婿入りしてきましたが、生活ができないからと高校の教壇に立ちました。それを檀家総代が怒って認めないという。私の母はこの住職を支援して、ストライキ中の住職に食事の差し入れをしていました。立派なことをしているなあと思いました。また、父親は知り合いに頼まれると借金の保証人になってしまう人なので、母親は借金返済に大変苦労しました。
 戦争中、私の町に兵器を作る工場やマンガン鉱があり、朝鮮半島から連行されてきた何千と言う人が、ムチ打たれながら働かされており、その多くが死んでいくのを見ました。大阪の鉄道局で働いていた時は、焼夷弾で街が焼け落ちるのを何度も見ました。激しい空襲の中を逃げ延びましたが、食べるものも無く苦労しました。あの戦争はアジア諸国に、残留孤児、遺棄化学兵器、従軍慰安婦問題など、大きな傷痕を残したまま、いまだに解決に至っておりません。
 ああいう時代にしないために戦後みんな一生懸命に働いてきましたが、今は戦争を知っている人たちも少なくなりました。これから、今の日本をどうやって一人前にしていくかが課題です。皆さんはどうか、いい地域を作っていただきたいと思います。男女が家庭を支えて男女共同参画社会基本法の趣旨が生かされるよう願っています。